流血剣士の恩返し

黒狐

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第二章 一方、彼らは パーティーメンバーside

8.心配 アンゼリカ&ハイレンside

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アンゼリカ&ハイレンside

 
 ラディウスがパーティーを離れてからも、時間は容赦なく、普段通りに過ぎていく。
 まるで何事もなかったかのように、街の鐘は時を刻み、ギルドには新しい依頼が貼り出され、空には季節の移ろいを告げる雲が流れていた。
 ──だが、彼がいないだけで、こんなにも世界は色を失うのか。
 アンゼリカとハイレンは、街の外れにある宿の一室に腰を下ろしていた。室内には乾いた薬草の香りと、ガラス瓶の擦れる小さな音が静かに響いている。

「ラディウス、あやつ回復薬と増血剤を持って行っておるな。」

 アンゼリカが手元の袋から薬草を取り出しながら呟くと、ハイレンは頷いた。

「……ええ、共用バッグから、それぞれ二本ずつ。あれ以上は……瓶の重さもあって難しいでしょう。」

 回復薬と増血剤はいずれも厚手のガラス瓶に詰められている。旅の荷物の中でそれなりの重さがあり荷物の中で嵩張ってしまうそれを、ラディウスが自分で選んで持ち出した事実が、2人の胸を強く締め付けていた。

「回復薬はまだしも、増血剤……。あやつ、自ら鮮血魔術を使う覚悟でおるのじゃな。」

 アンゼリカの声音は低く、どこか痛ましげだった。
 鮮血魔術──それはラディウスが自身の血を媒介にして放つ、特殊な魔術。強大である一方、行使の度に身体を蝕む危険な力。
 普段はハイレンの治癒魔術や仲間たちの支えで負担を軽減していたが、今はそれすらもない。
 1人で全てを背負いながら、それでも彼は、誰かを守るために剣を振るおうとしているのだ。

「早く見つけなければ……。」

 アンゼリカの細い指が、薬草の葉を丁寧に選別していく。

「……はい。それに、この増血剤は市販のものとは違って、特殊な魔力処理が必要です。万が一、持ち出した分が尽きたら……」

 言いかけたハイレンの言葉に、アンゼリカがそっと目を伏せた。

「そうなれば、あやつの身体はもたぬ。最悪……命にも関わるやもしれぬのじゃ」
「だからこそ……今、私達ができる準備は、しておかないと。」

 ハイレンは柔らかい声でそう返し、手元の器具を取り出した。
 彼女の指先から滲み出る癒しの魔力が、薬草に穏やかな輝きを与えていく。

「我も頑張るのじゃ。……元気な姿で戻って来てくれるのが一番じゃが、必ずしもそうとは限らぬ。我らで、できることはしておくべきじゃな。」

 アンゼリカの目には、珍しく曇りが浮かんでいた。
 増血剤は、ハイレンの魔力と、アンゼリカの薬草知識が合わさって初めて完成する特殊な調合薬だった。
 どの町でも気軽に手に入るようなものではない。
 それはラディウスという存在がいかに特殊で、そして彼に寄せるこのパーティーの想いがどれほど深いものかを物語っている。

「しかし……今、彼はどこで何をしているのかの。」

 アンゼリカが薬草を刻みながらぽつりと呟くと、ハイレンがわずかに目を伏せた。

「まだ……こちらには何の情報も来ていません。けれど、ラディウスなら……きっと、誰かの役に立てることを精一杯しているでしょう。だから、私達も、私達にできることを」
「うむ。再び、あやつが帰って来た時に、何も出来ぬようでは、仲間として情けないのじゃ。……我も、負けておれぬのう。」

 お互いの決意が込められた眼差しが交わる。
 ハイレンは器具を握り直し、アンゼリカは薬草の束を抱え直す。
 ──再び五人が揃うその日まで。
 誰もが彼を想い、誰もが彼を待ち、そしてそれぞれの手で「迎え入れる準備」を進めている。

 形は違えど、ラディウスへの想いは、パーティー全員、同じだった。
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