闘いの果てに Season 3

一宮 沙耶

文字の大きさ
2 / 8

2話 アンドロイド

しおりを挟む
目の前には、脳を培養液に浸したビンが100個以上並んでいた。
筒状のビンに、透明の液体が入っていて、脳が液体の中で浮いている。
脳には脊髄もついていて、オタマジャクシのような形をしている。

脳には数本のカテーテルが繋がれている。
色からみると血液を循環させ、栄養と酸素を供給しているのだと思う。
それ以上のコードはないので、外界と脳が会話ができる仕組みはなさそう。

脳死直前の脳を、その状態のまま保存しているように見える。
脳を将来の技術を使って人の体に移植し、永遠の命を得ようとしたのかしら。

脳には、生前の名前らしい記載はない。
どこかに、置かれた位置によって誰のものか特定できるリストがあるのかもしれない。

政治家のトップや莫大な財産を持つ老人の脳なのだと思う。
一般人には払えない莫大なお金と引き換えに、永遠の命を得る。
そんな取引があったのだと思う。

だから、密かに地底に隠し、技術が向上するのを待っていたように見える。
堅固な建物で外からの侵入者を防ぎ、その願いを阻止されないように。
隠れた廟のような建物の姿も、それなら理解できる。

ただ、1000年以上は経っているせいか、多くのビンは壊れ、脳は干からびていた。
この建物は堅固であっても、海底に沈む時の大きな振動でビンは壊れたのかもしれない。
知らない間に、あくなき欲望があっても、息絶えていたのだと思う。

「脳が生きているのはこの4体だけのようだ。」
「この4つの脳も、電気が切れかかっていて、もうだめかもしれない。大丈夫でも、過去の記憶はないだろう。」

横の部屋を調べていた隊員が飛び出してくる。
目は何かを訴えようと気迫に満ちていて、想像を超えるものを見たに違いない。

「どうしたの?」
「隊長、横の部屋からアンドロイドが出てきました。おそらく、この脳を組み込めばアンドロイドとして動けるようになるのだと思います。」
「どこから見ても人間と変わらない姿ね。本当にアンドロイドなの?」
「間違いありません。エコーで調べたところ、心臓は電気で動く装置であり、骨もチタンでできていました。また、脳の部分は空洞で、それなのに、こんなに血色がいい人間なんていません。」
「そうなのね。これが400年前に法律で禁止されたアンドロイドというものなんだと思う。今は、明らかに人間とは形が違う給仕ロボットしかないわよね。こんなアンドロイドを作れたのに、どうして、禁止され、この技術は廃れていったのかしら。」

カプセルの中で横たわるアンドロイドは、艶めかしく、今にも起き上がりそう。
脳とは違いアンドロイドへの給電は途絶えなかったようで、肌はつやつやしている。
肌にしわもあり、髪の毛とか、一つひとつが精巧につくられている。

口を開けると、唾液もでている。
表面だけ見れば、どこから見ても人間と変わりない。

ところで、アンドロイドがありながら、脳を移植しなかったのはなぜなのか分からない。
アンドロイドが完成した直後に、海底に日本が沈み、対応できなかったのかしら。
アンドロイドに移植することに何か課題があったのかもしれない。

私は、リスクよりも興味が勝り、移植することにした。
この技術を手に入れられれば、私の権威は世界中に知れ渡る。

「この脳をここに入れると、アンドロイドに吸収されていくという仕組みだと思う。4体に脳を入れてみましょう。今生きている脳も限界で、持ち帰るまで持たないと思うし。」
「いいんですか。そんな勝手なこと。この型のアンドロイドは、法律で禁止されているのですよね。」

隊員も、私と同じリスクに気付き、移植の危険性を懸念しているのだろう。
目からは助けを求める光が私に注いでいた。

「禁止されたのは、その時点で理由があったのだと思うけど、今となっては、どうして禁止されたのか誰も知らない。このアンドロイドを使って、禁止された理由を調べたいわ。問題がなければ、法律を変えて、アンドロイドを普及すれば、我々の寿命の延長にも繋がるかもしれないじゃない。」
「でも・・・。」
「もう時間がない。我々が入ったことで、天井から崩れそうだし。もしかしたら、許可されていない人が入ると中の物を消滅させる仕組みなのかもしれない。早く、脳を移植して外に持ち出しましょう。」
「男性体と女性体とがありますが、どちらに入れましょうか。脳の性別はわかりません。」
「今は時間がない。確率論なんだから、男性2体、女性2体に入れるわよ。早くして。」

アンドロイドの頭の上にある受け口に、脳が入ったビンを差し込む。
直後に、顔が左右に開き、脳を入れる空間が開いた。
外から見える顔とは異なり、空間の表面は金属のような鈍い色をしている。

装置の中で触手のような糸が伸び、器用に脳が頭に格納されていく。
現在、機械がこんなしなやかに動き、精密に神経をつなぎ合わせる技術はない。
見ているだけで芸術的。

その後、脳が格納されると、左右に開いた顔は閉じ、人間らしい顔となる。
2体のアンドロイドの目が開いた。

「残りの2体は起動しません。脳が死んでいたのでしょう。ここに置いていきますか?」
「そうね。目を開いた2体も、まだ1人で歩けそうもないし、4体持ち出すとなると重すぎるわね。無理をすると、我々の命も危ないし。残りは、今後、再度探索することがあれば、その時に期待して、まずは、この2体を持ち出しましょう。」
「壁にヒビが入ってきました。早く、ここを出ましょう。」
「わかったわ。出るわよ。」

まだ状況を理解できずに、ただただ佇むアンドロイドをタンカに載せる。
裸の体に、いつの間にか誰かのジャケットが掛けられていた。

我々は、迷路を走り、なんとか外に出る。
これまで暗い空間にいたせいか、まぶしくてよく見えない。

その直後、爆音が響き、我々は白い灰に包まれる。
音の方に目を向けると、さっきまでいた遺跡は崩れ、瓦礫の山が目の前に広がっていた。

我々は、研究施設にこのアンドロイドを運び込む。
このアンドロイドが何を引き起こすのか、何も知らずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...