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4話 錯乱
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「風華、記憶喪失で昔の記憶がないんだって? 困ることとかないの?」
高校の教室で前に座っている女子が私に話しかけてきた。
そう、私には過去の記憶がない。
病院で目覚めたのが最初の記憶で、それ以前にどう暮らしていたのかわからない。
先生からは、私1人で道路に倒れていたと聞いている。
身元を証明するものもなく、何かの犯罪に巻き込まれたのだろうと言っていた。
両親は、その際に殺されているのかもしれない。
広く調べてもらったけど、私が誰かを特定できていなかった。
それからしばらくは、記憶喪失の原因調査として、身体の健康チェックを受ける。
血液は何回も採取され、脳のCTスキャンもしたけど、特におかしい所はないらしい。
下半身をさすられ、声がでてしまった時は恥ずかしかった。
検査も終わり、当面の間、裕福な地球防衛軍の中将に面倒をみてもらうことになった。
勿論、私の過去が分かれば、そこに戻れることは約束されている。
私の両親って、どんな人なのか興味はあるけど、記憶は全くない。
高校生活を始めて半年ぐらい過ぎた頃だった。
学校からの帰り道、クラスメートの悟志から声をかけられる。
「風華、この公園でベンチにでも座って、少しお話しをしようよ。」
「少しだけなら。」
悟志は取り柄がないごく普通の男子。
少し太っていて、笑顔で言葉数は少なく、地味で目立たないタイプ。
あまり興味はない。
「風華をずっと見てきたけど、本当に素敵な女性だね。」
「ありがとう。悟志は、いつも私に優しくしてくれて、嬉しい。」
「僕ら、付き合わないか?」
時間の無駄かな。適当なことを言って、断ろう。
その時、いきなり悟志に口づけをしてきた。
「嫌。」
私は、悟志を突き放し、走り出していた。
でも、それは悟志が急にキスをしてきて驚いたからじゃない。
キスされたときに、女性とキスをしている自分が見えたから。
どういうこと? とてもリアルな映像。
相手の女性は、背が低く、キスした後にはにかんで私を見上げていた。
どうして、女性とキスをする映像が見えたのかしら。
それからというもの、男性には関心がなくなり、女性のことばかり考える日々が続く。
気づくと、女性のことを目で追っている。
私は女性なのに、女性をみると好きな気持ちを抑えられない。
私は異常なのかしら。汚らしい存在なのかもしれない。
不安が高まり、動悸で苦しい。
数日経って、味覚がなくなっているのに気付いた。
ストレスなのか、何を食べても味がしない。
性的に異常なだけではなく、体もおかしくなっているのかもしれない。
でも、こんなこと誰にも相談ができなかった。
翌日の土曜日、気分を落ち着けようと、海辺を散歩をする。
夕日が海岸線に沈んでいく光景は素晴らしい。
空はオレンジ色に染まり、水面には、沈む太陽が長い線となり、私にまで届く。
今日の海は穏やかで、一面が鏡のよう。
その時だった。辺りの色が消えていく。どうしたんだろう。
一気に白黒の世界に包まれる。
もしかしたら、体の異変で記憶喪失になったのかもしれない。
しかも、時間が経つにつれて、嗅覚もなくなっていくことに気づく。
明らかに私の体に何かが起こっている。
次の日に、最初の記憶にある病院に行くことにした。
「最近、私の体に異常なことが起きているんです。」
「どんなことかな?」
「最初は味覚がなくなって、次に色彩がなくなって、昨日から嗅覚がなくなったんです。これって、これから聴覚とか視覚もなくなっていくんでしょうか?」
その場では、女性を好きだと言う気持ちまでは伝えられなかった。
「まず、診てみるね。ここに横になって。」
「特に問題はなさそうだけど、何かきっかけがあったのかな?」
ここまでくると、女性が好きだということも伝えないといけない。
「先生にだけ言うんですけど、どういうわけか、女性とキスする映像が見えてから、女性のことばかりが気になってしまうんです。世の中には、同性愛者がいることは知っていますけど、私が異常者なんてショックで。」
「精神的な問題かもしれないね。少し、他の医者とも相談してみるから、ロビーで待っていて。」
ロビーで待って、もう2時間も経つ。
気になった私は、診察室を覗いてみると、想像を超える話しが聞こえてくる。
「あの脳は男性のものだったんだ。それを女性のアンドロイドに移植したので、拒否反応が出たのかもしれない。体のデータから見ると、これからも、どんどん感触はなくなっていき、静寂と暗黒に包まれることになるだろう。」
「治せないのか?」
「これまでの診察結果では、一旦壊れ始めたアンドロイドの体は、我々の今の技術では回復させることができないと思う。」
私は、ショックに頭を打たれ、診察室に入り込んでいた。
「アンドロイド、男性の脳、どういうことなんですか。」
「落ち着いて。」
「落ち着けるはずがないじゃないの。説明して。」
「君は、長らく海底で保存された脳をアンドロイドの体に移植したものなんだ。」
「じゃあ、今から脳だけ取り出して、男性のアンドロイドに移植してよ。」
「もう、君の脳はアンドロイドの体にすっかり定着し、取り出せば死んでしまう。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「もう、打てる手はないんだよ。」
私は、錯乱し、冷静な自分ではいられなくなっていた。
気付くと、液体窒素のボンベの口を開き、周りにまき散らしていた。
私の周りの人達は凍りつき、氷となった体は床に倒れ、粉々に割れていく。
悲鳴が病院中に響き渡り、私は、調理室にあるバナーを両手に持って進んだ。
今度は、病院中を炎で包み込み、大火災となっていく。
真っ赤な炎を目の前にしても、白黒な世界にしか見えない。
しかも、煙の臭いもしない。
ただ、肺が熱く苦しい。でも、そんな苦しみも感じなくなっていた。
だから、冷徹に人々を焼き殺し、何もかも壊していった。
私が壊れていくなら、みんなを道連れにしていく。
私の目は吊り上がっていたに違いない。
その時、入口から軍隊が入ってきて、私を蜂の巣のように撃つ。
火傷だらけになっていた私は、さらに銃弾を受け、その場に倒れた。
この悲惨な事件について、隊長の私に連絡が入る。
過去にアンドロイドが製造中断となったのは、この不具合が原因だったのかもしれない。
一定の割合で、脳が錯乱状態になり、破壊的行動に出てしまうという不具合。
機能停止したアンドロイドは解体され、再度、機械としての再調査が進められた。
その晩、精神不安定な女性が病院で火災を起こしたと報道される。
ただ、そのアンドロイドの錯乱、死の中で、想像を超えることが起きていた。
高校の教室で前に座っている女子が私に話しかけてきた。
そう、私には過去の記憶がない。
病院で目覚めたのが最初の記憶で、それ以前にどう暮らしていたのかわからない。
先生からは、私1人で道路に倒れていたと聞いている。
身元を証明するものもなく、何かの犯罪に巻き込まれたのだろうと言っていた。
両親は、その際に殺されているのかもしれない。
広く調べてもらったけど、私が誰かを特定できていなかった。
それからしばらくは、記憶喪失の原因調査として、身体の健康チェックを受ける。
血液は何回も採取され、脳のCTスキャンもしたけど、特におかしい所はないらしい。
下半身をさすられ、声がでてしまった時は恥ずかしかった。
検査も終わり、当面の間、裕福な地球防衛軍の中将に面倒をみてもらうことになった。
勿論、私の過去が分かれば、そこに戻れることは約束されている。
私の両親って、どんな人なのか興味はあるけど、記憶は全くない。
高校生活を始めて半年ぐらい過ぎた頃だった。
学校からの帰り道、クラスメートの悟志から声をかけられる。
「風華、この公園でベンチにでも座って、少しお話しをしようよ。」
「少しだけなら。」
悟志は取り柄がないごく普通の男子。
少し太っていて、笑顔で言葉数は少なく、地味で目立たないタイプ。
あまり興味はない。
「風華をずっと見てきたけど、本当に素敵な女性だね。」
「ありがとう。悟志は、いつも私に優しくしてくれて、嬉しい。」
「僕ら、付き合わないか?」
時間の無駄かな。適当なことを言って、断ろう。
その時、いきなり悟志に口づけをしてきた。
「嫌。」
私は、悟志を突き放し、走り出していた。
でも、それは悟志が急にキスをしてきて驚いたからじゃない。
キスされたときに、女性とキスをしている自分が見えたから。
どういうこと? とてもリアルな映像。
相手の女性は、背が低く、キスした後にはにかんで私を見上げていた。
どうして、女性とキスをする映像が見えたのかしら。
それからというもの、男性には関心がなくなり、女性のことばかり考える日々が続く。
気づくと、女性のことを目で追っている。
私は女性なのに、女性をみると好きな気持ちを抑えられない。
私は異常なのかしら。汚らしい存在なのかもしれない。
不安が高まり、動悸で苦しい。
数日経って、味覚がなくなっているのに気付いた。
ストレスなのか、何を食べても味がしない。
性的に異常なだけではなく、体もおかしくなっているのかもしれない。
でも、こんなこと誰にも相談ができなかった。
翌日の土曜日、気分を落ち着けようと、海辺を散歩をする。
夕日が海岸線に沈んでいく光景は素晴らしい。
空はオレンジ色に染まり、水面には、沈む太陽が長い線となり、私にまで届く。
今日の海は穏やかで、一面が鏡のよう。
その時だった。辺りの色が消えていく。どうしたんだろう。
一気に白黒の世界に包まれる。
もしかしたら、体の異変で記憶喪失になったのかもしれない。
しかも、時間が経つにつれて、嗅覚もなくなっていくことに気づく。
明らかに私の体に何かが起こっている。
次の日に、最初の記憶にある病院に行くことにした。
「最近、私の体に異常なことが起きているんです。」
「どんなことかな?」
「最初は味覚がなくなって、次に色彩がなくなって、昨日から嗅覚がなくなったんです。これって、これから聴覚とか視覚もなくなっていくんでしょうか?」
その場では、女性を好きだと言う気持ちまでは伝えられなかった。
「まず、診てみるね。ここに横になって。」
「特に問題はなさそうだけど、何かきっかけがあったのかな?」
ここまでくると、女性が好きだということも伝えないといけない。
「先生にだけ言うんですけど、どういうわけか、女性とキスする映像が見えてから、女性のことばかりが気になってしまうんです。世の中には、同性愛者がいることは知っていますけど、私が異常者なんてショックで。」
「精神的な問題かもしれないね。少し、他の医者とも相談してみるから、ロビーで待っていて。」
ロビーで待って、もう2時間も経つ。
気になった私は、診察室を覗いてみると、想像を超える話しが聞こえてくる。
「あの脳は男性のものだったんだ。それを女性のアンドロイドに移植したので、拒否反応が出たのかもしれない。体のデータから見ると、これからも、どんどん感触はなくなっていき、静寂と暗黒に包まれることになるだろう。」
「治せないのか?」
「これまでの診察結果では、一旦壊れ始めたアンドロイドの体は、我々の今の技術では回復させることができないと思う。」
私は、ショックに頭を打たれ、診察室に入り込んでいた。
「アンドロイド、男性の脳、どういうことなんですか。」
「落ち着いて。」
「落ち着けるはずがないじゃないの。説明して。」
「君は、長らく海底で保存された脳をアンドロイドの体に移植したものなんだ。」
「じゃあ、今から脳だけ取り出して、男性のアンドロイドに移植してよ。」
「もう、君の脳はアンドロイドの体にすっかり定着し、取り出せば死んでしまう。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「もう、打てる手はないんだよ。」
私は、錯乱し、冷静な自分ではいられなくなっていた。
気付くと、液体窒素のボンベの口を開き、周りにまき散らしていた。
私の周りの人達は凍りつき、氷となった体は床に倒れ、粉々に割れていく。
悲鳴が病院中に響き渡り、私は、調理室にあるバナーを両手に持って進んだ。
今度は、病院中を炎で包み込み、大火災となっていく。
真っ赤な炎を目の前にしても、白黒な世界にしか見えない。
しかも、煙の臭いもしない。
ただ、肺が熱く苦しい。でも、そんな苦しみも感じなくなっていた。
だから、冷徹に人々を焼き殺し、何もかも壊していった。
私が壊れていくなら、みんなを道連れにしていく。
私の目は吊り上がっていたに違いない。
その時、入口から軍隊が入ってきて、私を蜂の巣のように撃つ。
火傷だらけになっていた私は、さらに銃弾を受け、その場に倒れた。
この悲惨な事件について、隊長の私に連絡が入る。
過去にアンドロイドが製造中断となったのは、この不具合が原因だったのかもしれない。
一定の割合で、脳が錯乱状態になり、破壊的行動に出てしまうという不具合。
機能停止したアンドロイドは解体され、再度、機械としての再調査が進められた。
その晩、精神不安定な女性が病院で火災を起こしたと報道される。
ただ、そのアンドロイドの錯乱、死の中で、想像を超えることが起きていた。
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