業火のレクイエム

一宮 沙耶

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プロローグ

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やっとプロポーズに漕ぎ着くことができた。
ここまでの道のりは長かった。

素敵な彼を見つけるために1,200万円をかけて整形をした。
元の顔の片鱗はないし、肩凝りするぐらいバストも大きくした。
ブランド品を身につけるために500万円の借金もした。

でも、健一と結婚さえすれば問題はない。
健一は、一流企業の管理職で給料もいいし、実家もお金持ちだから。

昔から、目立たない容姿で、どれだけバカにされてきたことか。
ちょっとした整形だったら、誰でもしてること。
誰もが、幸せになろうと背伸びをしている。

そんな時、ネットニュースに健一が出ていたの。
会社のお金を横領して捕まったって。
しかも、小さな工務店の大工らしい。
貧しい家で育ったとコメンテーターは語る。

テレビに映る健一は、カメラを向ける報道陣に指をさす。
お前たちも、すぐにこっちに来るんだと言って。
ニヤけた口からよだれが垂れる。

健一って、こんなに下品な人だったっけ。
ジャージ姿でサンダルを履き、上品さのかけらもなかった。
私が、将来を託した人だったのに。

健一も偽物だったんだ。
綺麗な私を連れて、本物になりたかったのかも。
でも、私は批判できる立場ではないわね。

あの上品な笑顔も、優しい言葉もみんな嘘だったんだ。
似たもの同士だった。
偽物の2人で、汚れが消されるなんて考えていた自分がバカみたい。

木枯らしが吹き荒れ、枯れ葉もなくなった木々が目の前に広がる。
それを飾るイルミネーションはない。
ただ、砂埃のなか、さびしそうに空き缶が転がっていく。

借金はどうしよう。
今はお金持ちと結婚するからと待ってもらってる。
返済の見込みがなければ風俗へと売ると言っていた。

一旦、風俗に入ったら抜けることはできないらしい。
毎晩、男性に見下され、お札で頬を叩かれる。
性欲のおもちゃにされるなんて、もう人間じゃない。

死んだ方がまし。
天国から地獄へと突き落とされて、目の前は真っ暗となった。

気づくと、風が吹き荒れるビルの屋上にいた。
下を見ると、可愛い女の子を連れて笑顔にあふれるお母さんが見える。
女の子の笑い声が周りに響き渡る。
私も、あんな生活がしたかった。

空を見ると曇りで陽の光は見えない。
ただ、寒い風が吹き荒れるだけ。
私を照らす光はもうない。

私は、柵を乗り越え、宙に舞った。
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