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1話 ホスト
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「私のものにならないなら殺してやる。」
ネオンで昼かと間違えそうな歌舞伎町の繁華街。
空を見ると夜だと気づくが、明るすぎて星は見えない。
真っ赤な三日月が不気味に僕らを見下ろす。
いきなり、僕が勤める店の前で、女がナイフを手に突撃してきた。
僕に通い詰めていた陽菜じゃないか。
ただ、いつもと違い、目が釣り上がり、睨んでいる。
もう僕に貢ぐお金がなくなったのかもしれない。
僕は、走り寄るその女をかわす。
「何が不満なんだ。ついこの前まで、僕のことを好きだって、まとわりついてきてたじゃないか。」
「いくら注ぎ込んだか分かるの? 3,000万円よ。それなのに、他の女にも優しくするなんて許せない。」
「お前が、好きでお金を払ったんだろう。これからも、お金を払えば、優しくしてやるさ。」
まわりでは、スマホで殺人現場を取ろうとしている人が何人もいる。
この女はバカで、自分はこんなことはしないと思っているのだろう。
誰もが、この女と紙一重。
人は、いつでも犯罪者に転落してしまうものだ。
歌舞伎町では、このような事件は珍しくない。
誰かが110番通報をしたのだろう。
すぐに警察官が駆けつけ、その女を取り押さえた。
「おとなしくしなさい。そもそも、あなたほど綺麗な女性だったら、こんな男性とじゃなくて、もっと幸せな暮らしができるでしょう。」
「お巡りさんにはわからないのよ。私は、この人と一緒になりたいの。」
陽菜は、警官に押さえつけられながらも、まだ暴れている。
「人を殺したり、怪我させたりしちゃいけないって、学校で学んだだろう。いけないな。」
「人を騙しているあなたなんかに言われたくない。」
「僕は、人を騙してなんかいないさ。あえていえば、悩みの相談にのって、楽にしてあげているんじゃないか。いずれにしても、お巡りさん、はやく、この子連れて行って。」
僕は、手錠をかけられ、うなだれた陽菜につばを吐いた。
大人のルールが分からないやつが、僕のところに来るんじゃない。
「あなたね。この人は、この前まで優しくしていた女性なのでしょう。そんなに冷たくしなくても、いいじゃないですか。女性からお金を巻き上げるのは、ほどほどにしなさいよ。あなた、いつか殺されますよ。」
「別に、強要なんてしていないし。女から、お金を出すから一緒にいてって言われるからそうしているだけなんですよ。」
「殺されないと分からないようですね。いずれにしても、気をつけてください。」
パトカーのテールランプは消え、走り出す。
パトカーがいなくなると、人混みは元に戻った。
この歌舞伎町の夜は、欲望を満たしたい人で溢れている。
僕は、この店の No.1ホストだ。
きらびやかな空間に、満たされない女達が毎晩、集まってくる。
優しくして欲しくて。
愛され、好きな男の1番になりたくて。
僕は、その欲求を満たしてあげているだけ。
どのような、いくらのサービスを使うかは女達が決めている。
僕が、いくら払えなんて言ったことはない。
永遠に1人の女の欲望を満たすための料金なんてない。
それなのに、勘違いする女は困る。
毎回、来るたびにサービスは完結しているんだよ。
そんなことを考えていたら陽菜に腹が立ってきた。
足元のペットボトルを蹴飛ばすと、少し前にいた女にあたった。
「おっと、ごめん。大丈夫か、お嬢さん。おや、婆さんじゃないか? なんか若作りをして歌舞伎町を歩く婆さんだな。いや、そうじゃなくて、蹴ったペットボトルがあたっちゃった。ゴメン。」
「大丈夫だが、さっきのように、女性をバカにしてるとばちが当たるぞ。私のことなんてどうでもいいが、さっきの女性は、お前にボロボロにされたようだな。」
「別にバカになんてしていないし、勝手にボロボロになっただけさ。俺のせいじゃない。ただ、サービスをしてお金をもらっているだけ。みんなが普通に毎日しているビジネスじゃないか。」
「おまえは、自分の身に同じようなことが起こらないとわからないようだな。」
「まあ、お説教はそのぐらいにして、お年寄りは、早く帰って寝たほうがいいよ。じゃあね。」
今日も、お店には多くの女が癒しを求め集まっていた。
私を認めて欲しいって。
陽菜、お前なんかに、何か特別なところなんてあったっけ。
たしかに、かわいいし、胸の谷間もある。
スタイルもいいだろう。
だが、そんな女は腐るほどいる。
お前じゃないとダメなんてことはないんだよ。
女なんて、今の自分に満足することを知るべきだ。
いつになったら、その欲は満たされるんだ。
分相応という言葉もあるだろう。
ほとんどの女が欲望の亡者だ。
欲望が満たされる日は訪れない。
そんな女をみると哀れになる。
普通の女は、平凡な生活に満足してればいいんだ。
どこにでもいる男と結婚して普通に暮らせばいい。
子供もできて、それなりの幸せと、悩みで一生暮らせるだろう。
夢なんて見るから不幸になる。
1番になりたいなんて思うからいけないんだ。
いや1番にはなれる。
うだつの上がらない男に好きになってもらえばいい。
お互いに平凡を楽しめばいい。
高収入でイケメンと結婚したいって。
お前は、それに相応しい女なのか?
確かに、女は一瞬、輝くこともある。
でも、それは一瞬だけのこと。
それが本当の自分だと勘違いしている女が多い。
今のお前は、どこにも輝く所なんてないんだよ。
それなのに、自分に相応しい男がいないって?
高ランクの男が、自分を1番に愛してくれないって?
笑っちゃうよな。
努力すれば、少しは自分を磨くことはできるだろう。
でも、それもたかが知れている。
ごく一握りの人になれる人はもう決まっているんだ。
お前みたいな女がいくら努力してもなれるわけがない。
豚はどんなに努力しても人間になれないだろう。
それと同じさ。
努力で解決できる問題じゃない。
万が一、騙して高ランクの男をゲットできるかもしれない。
でも、本性はすぐにバレて捨てられてしまうんだよ。
それは、もともと背伸びしたお前が悪い。
それに満足できないなら、金を出して一時の幸せを買う。
褒められたくて、この店に来てるんだろう。
ここでは、自分だけが愛される存在になれる。
自分が世の中で1番の存在になれる。
だから、僕は目の前の女に魔法をかける。
その対価をもらっているだけ。
でも、その魔法は永遠じゃない。
そんなこと分かっているだろう。
わかりやすい話しじゃないか。
それを恋愛と勘違いする奴がいるから困るんだよ。
寂しいという女、男に疲れたという女、いろんな女がいる。
僕は、そんな女の心を癒やしているんだ。
そのためには対価を支払う。当たり前の話しだ。
無償の愛なんて、ここには存在しない。
僕は2時までお店でサービスをして、着替えて店を出た。
タクシーで帰るやつも多い。
でも、僕は近くに住んでるからいつも歩いて帰る。
酔っ払いが、ふらつきながら歩く歌舞伎町。
若者がたむろし、缶ビールを片手に大声で笑っている。
キャバクラの帰りだろう、薄手の派手な衣装の女たちも歩いている。
僕は、この時間はきらいじゃない。
今の日本を象徴しているようだ。
10分程歩くと、僕が住むマンションにつく。
新宿駅と新宿御苑が見下ろせる高層マンションだ。
そして、僕の部屋は、黒の大理石を基調としたシックな部屋。
この無機質で、澄み切った雰囲気が大好きだ。
部屋からタバコを持ち出し、非常階段で煙を空に向けてはく。
部屋よりも開放感があって、これが、一番くつろげる。
バカな女たちを忘れられる。
でも、今日、僕を殺そうとしていた陽菜のことを思い出した。
バカなやつだ。
そんなことをしても、何も変わらない。
お金を払い、優しい言葉をもらう。
ただ、それだけの関係じゃないか。
コンビニでアイス買って、食べたらなくなるだろう。
なくなったから騙されたなんて誰も言わないよな。
あいつのおかげで今日は気分が悪くなった。
早く部屋に戻り、シャワーでこの気持ちを洗い流そう。
階段を降りようとした時だった。
僕は足を踏み外し、階段を滑り落ちてしまった。
いつも見下ろしている冷たい鉄の床が目の前に横たわっている。
踊り場のようだ。
足は、いくつか上の階段にあり、頭が下にあるんだと思う。
動けない。目の前は暗くなっていった。
ネオンで昼かと間違えそうな歌舞伎町の繁華街。
空を見ると夜だと気づくが、明るすぎて星は見えない。
真っ赤な三日月が不気味に僕らを見下ろす。
いきなり、僕が勤める店の前で、女がナイフを手に突撃してきた。
僕に通い詰めていた陽菜じゃないか。
ただ、いつもと違い、目が釣り上がり、睨んでいる。
もう僕に貢ぐお金がなくなったのかもしれない。
僕は、走り寄るその女をかわす。
「何が不満なんだ。ついこの前まで、僕のことを好きだって、まとわりついてきてたじゃないか。」
「いくら注ぎ込んだか分かるの? 3,000万円よ。それなのに、他の女にも優しくするなんて許せない。」
「お前が、好きでお金を払ったんだろう。これからも、お金を払えば、優しくしてやるさ。」
まわりでは、スマホで殺人現場を取ろうとしている人が何人もいる。
この女はバカで、自分はこんなことはしないと思っているのだろう。
誰もが、この女と紙一重。
人は、いつでも犯罪者に転落してしまうものだ。
歌舞伎町では、このような事件は珍しくない。
誰かが110番通報をしたのだろう。
すぐに警察官が駆けつけ、その女を取り押さえた。
「おとなしくしなさい。そもそも、あなたほど綺麗な女性だったら、こんな男性とじゃなくて、もっと幸せな暮らしができるでしょう。」
「お巡りさんにはわからないのよ。私は、この人と一緒になりたいの。」
陽菜は、警官に押さえつけられながらも、まだ暴れている。
「人を殺したり、怪我させたりしちゃいけないって、学校で学んだだろう。いけないな。」
「人を騙しているあなたなんかに言われたくない。」
「僕は、人を騙してなんかいないさ。あえていえば、悩みの相談にのって、楽にしてあげているんじゃないか。いずれにしても、お巡りさん、はやく、この子連れて行って。」
僕は、手錠をかけられ、うなだれた陽菜につばを吐いた。
大人のルールが分からないやつが、僕のところに来るんじゃない。
「あなたね。この人は、この前まで優しくしていた女性なのでしょう。そんなに冷たくしなくても、いいじゃないですか。女性からお金を巻き上げるのは、ほどほどにしなさいよ。あなた、いつか殺されますよ。」
「別に、強要なんてしていないし。女から、お金を出すから一緒にいてって言われるからそうしているだけなんですよ。」
「殺されないと分からないようですね。いずれにしても、気をつけてください。」
パトカーのテールランプは消え、走り出す。
パトカーがいなくなると、人混みは元に戻った。
この歌舞伎町の夜は、欲望を満たしたい人で溢れている。
僕は、この店の No.1ホストだ。
きらびやかな空間に、満たされない女達が毎晩、集まってくる。
優しくして欲しくて。
愛され、好きな男の1番になりたくて。
僕は、その欲求を満たしてあげているだけ。
どのような、いくらのサービスを使うかは女達が決めている。
僕が、いくら払えなんて言ったことはない。
永遠に1人の女の欲望を満たすための料金なんてない。
それなのに、勘違いする女は困る。
毎回、来るたびにサービスは完結しているんだよ。
そんなことを考えていたら陽菜に腹が立ってきた。
足元のペットボトルを蹴飛ばすと、少し前にいた女にあたった。
「おっと、ごめん。大丈夫か、お嬢さん。おや、婆さんじゃないか? なんか若作りをして歌舞伎町を歩く婆さんだな。いや、そうじゃなくて、蹴ったペットボトルがあたっちゃった。ゴメン。」
「大丈夫だが、さっきのように、女性をバカにしてるとばちが当たるぞ。私のことなんてどうでもいいが、さっきの女性は、お前にボロボロにされたようだな。」
「別にバカになんてしていないし、勝手にボロボロになっただけさ。俺のせいじゃない。ただ、サービスをしてお金をもらっているだけ。みんなが普通に毎日しているビジネスじゃないか。」
「おまえは、自分の身に同じようなことが起こらないとわからないようだな。」
「まあ、お説教はそのぐらいにして、お年寄りは、早く帰って寝たほうがいいよ。じゃあね。」
今日も、お店には多くの女が癒しを求め集まっていた。
私を認めて欲しいって。
陽菜、お前なんかに、何か特別なところなんてあったっけ。
たしかに、かわいいし、胸の谷間もある。
スタイルもいいだろう。
だが、そんな女は腐るほどいる。
お前じゃないとダメなんてことはないんだよ。
女なんて、今の自分に満足することを知るべきだ。
いつになったら、その欲は満たされるんだ。
分相応という言葉もあるだろう。
ほとんどの女が欲望の亡者だ。
欲望が満たされる日は訪れない。
そんな女をみると哀れになる。
普通の女は、平凡な生活に満足してればいいんだ。
どこにでもいる男と結婚して普通に暮らせばいい。
子供もできて、それなりの幸せと、悩みで一生暮らせるだろう。
夢なんて見るから不幸になる。
1番になりたいなんて思うからいけないんだ。
いや1番にはなれる。
うだつの上がらない男に好きになってもらえばいい。
お互いに平凡を楽しめばいい。
高収入でイケメンと結婚したいって。
お前は、それに相応しい女なのか?
確かに、女は一瞬、輝くこともある。
でも、それは一瞬だけのこと。
それが本当の自分だと勘違いしている女が多い。
今のお前は、どこにも輝く所なんてないんだよ。
それなのに、自分に相応しい男がいないって?
高ランクの男が、自分を1番に愛してくれないって?
笑っちゃうよな。
努力すれば、少しは自分を磨くことはできるだろう。
でも、それもたかが知れている。
ごく一握りの人になれる人はもう決まっているんだ。
お前みたいな女がいくら努力してもなれるわけがない。
豚はどんなに努力しても人間になれないだろう。
それと同じさ。
努力で解決できる問題じゃない。
万が一、騙して高ランクの男をゲットできるかもしれない。
でも、本性はすぐにバレて捨てられてしまうんだよ。
それは、もともと背伸びしたお前が悪い。
それに満足できないなら、金を出して一時の幸せを買う。
褒められたくて、この店に来てるんだろう。
ここでは、自分だけが愛される存在になれる。
自分が世の中で1番の存在になれる。
だから、僕は目の前の女に魔法をかける。
その対価をもらっているだけ。
でも、その魔法は永遠じゃない。
そんなこと分かっているだろう。
わかりやすい話しじゃないか。
それを恋愛と勘違いする奴がいるから困るんだよ。
寂しいという女、男に疲れたという女、いろんな女がいる。
僕は、そんな女の心を癒やしているんだ。
そのためには対価を支払う。当たり前の話しだ。
無償の愛なんて、ここには存在しない。
僕は2時までお店でサービスをして、着替えて店を出た。
タクシーで帰るやつも多い。
でも、僕は近くに住んでるからいつも歩いて帰る。
酔っ払いが、ふらつきながら歩く歌舞伎町。
若者がたむろし、缶ビールを片手に大声で笑っている。
キャバクラの帰りだろう、薄手の派手な衣装の女たちも歩いている。
僕は、この時間はきらいじゃない。
今の日本を象徴しているようだ。
10分程歩くと、僕が住むマンションにつく。
新宿駅と新宿御苑が見下ろせる高層マンションだ。
そして、僕の部屋は、黒の大理石を基調としたシックな部屋。
この無機質で、澄み切った雰囲気が大好きだ。
部屋からタバコを持ち出し、非常階段で煙を空に向けてはく。
部屋よりも開放感があって、これが、一番くつろげる。
バカな女たちを忘れられる。
でも、今日、僕を殺そうとしていた陽菜のことを思い出した。
バカなやつだ。
そんなことをしても、何も変わらない。
お金を払い、優しい言葉をもらう。
ただ、それだけの関係じゃないか。
コンビニでアイス買って、食べたらなくなるだろう。
なくなったから騙されたなんて誰も言わないよな。
あいつのおかげで今日は気分が悪くなった。
早く部屋に戻り、シャワーでこの気持ちを洗い流そう。
階段を降りようとした時だった。
僕は足を踏み外し、階段を滑り落ちてしまった。
いつも見下ろしている冷たい鉄の床が目の前に横たわっている。
踊り場のようだ。
足は、いくつか上の階段にあり、頭が下にあるんだと思う。
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