純愛

一宮 沙耶

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第2章 償い

2話 ハロウィン再び

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ハロウィンの日に、莉菜の家で2人だけのパーティーをした時のことも思い出していた。
学校での通報によって精神的にまいっている莉菜を何とか助けるために。
莉菜の部屋で2人きりで過ごす、莉菜のためといいながら期待している自分もいた。

前日に、新橋のドンキホーテで仮装グッズを買うことにする。
私には黒と紫のドレス、それに三角帽と杖。
莉菜には舞踏会用のドレス。とても華やかで、莉菜は輝くに違いない。

これらを袋に詰めるとだいぶ大きくなってしまう。
でも、念のため、そこに警棒とナックルも入れて、翌日、少し早めに莉菜の家に向かう。
違和感なくスカート姿で電車に乗っている自分に気づき、時が過ぎていることを実感する。

品川駅を降り、港南口を出た。
新しい居酒屋やラーメン店ができているけど、いつもながらの無機質な空間。
美しさはなく、ただコンクリートの壁とお店を宣伝する広告が並ぶ。
どうして品川は華やかさがないのだろう。
川を渡り、かさばる荷物を運んで10分ぐらい歩くと莉菜のマンションの前に到着した。

何か違和感がある。なんだろう。
周りを見渡すと、目の前のカフェで、テラスに人相の悪い男性達が座っている。
莉菜の部屋を見つめ、小さな声で話していた。

「向いのマンションの5階の中央が櫻井の部屋だな。ちょうど、このビルの屋上からだったら、ライフルで狙えば間違うことなく殺せる。カーテンのレースが少し邪魔だが、洗濯等でベランダに出てくることもあるだろう。その時に狙えばいい。今日の午後に決行だな。」

莉菜は依然として狙われていることに気づいた。
偶然、ここに私が居合わせたから良かったけど、今後とも対処が必要。
スマホを取り出し電話をする。

「組長、莉菜の家の前のカフェに、どの組の組員かは分からないけど、莉菜をライフルで今日の午後に狙うと話しているわよ。約束と違うじゃない。はやく殺してしまって。」
「ごめんな。分かった、分かった。今すぐに組員を派遣して消しておく。安心してくれ。」
「莉菜の住所は分かっている。」
「もちろんだ。お嬢さんの要望はきちんと叶えるよう、がんばっているぞ。」
「それなら、早くして。莉菜が死んだら、もうあなたの組に入る意味がない。」
「ああ。」

私はカフェの横にある公園のトイレでドレスに着替える。
私が欲しい組長なら確実にあいつらを仕留めてくれるはず。
だから慌てずに、メイクもし直して、可愛らしく自分を飾り立てる。

15分ぐらいしてトイレをでると、パトカーと救急車が周りを囲み、慌ただしい。
担架で男性2人が救急車に乗せられていく。
顔に血で染まった布が被さり、息をしているようにはみえない。

担架が揺れ、男性の1人の腕が担架からはみ出してぶら下がる。
その脱力感が、すでに生きていないことを表していた。
さすが組長、約束を速やかに果たしてくれたのだと思う。

ドレス姿で莉菜のマンションのエレベーターに乗り、莉菜の部屋の前に立つ。
ポストには、手紙がはみ出て散乱する。
心に余裕のない莉菜の状況を象徴している。

ドアフォンのボタンを押すと、莉菜の気持ちとは程遠い明るい電子音が鳴り響く。
莉菜は、私の顔をみて寝巻きのまま私の前に現れた。
メイクもせずに肌は乾燥し、髪の毛も乱れている。

そんな自分に気づかないように、無理な笑顔を作り、私を部屋に引き入れた。
こんな莉菜にしてしまったことに罪悪感を感じ、部屋に足を踏み入れる。
部屋はゴミで雑然としている。昔の綺麗好きな莉菜の部屋とは思えない。

カップラーメンのカップが散乱する。
履いていた靴下が床にいくつも転がる。
ナプキンを包んでいた個包装が、ゴミで溢れたゴミ箱の横に落ちている。
この様子だと、使用済みのナプキンはトイレで放り投げられているのかもしれない。

椅子に無造作に置かれたロングスカートはシワだらけ。
季節的にハエとかはいないけど、部屋はあまりに荒れ果てている。
どこまでも、私が莉菜を奈落の底に突き落としてしまった現実を再び目にした。
やる気をなくし、何も手をつけられない時間が永遠に続いたのだと思う。

少なくとも、私の復讐で暴力団から狙われる状況から開放してあげなければならない。
でも、それだけでは全く足りない。
どうすれば、莉菜を元の爽やかな姿に戻せるのかしら。

まずは頻繁に会って、メイクをしたり、素敵な服を着て、自分に気を遣う時間を増やそう。
そして、1人で閉じこもらずに、不安、孤独を話せる時間を増やす。
時には泣くことで、心の膿を吐き出すことも必要だと思う。

私は、莉菜の姿に気づかないふりをして、部屋を一緒に掃除をする。
そして、ハロウィンの飾り付けをし、莉菜にドレスを着るように促す。
綺麗になった部屋で乾杯をしたときには、見た目は昔の莉菜が微笑んでいた。
まずは、形から入るのがいい。そのうち、形が現実へとに変わっていく。

夜9時になり、莉菜は私に家に帰るよう促した。
もっと、莉菜と一緒にいたい。でも、女子高生の私には無理な話し。
莉菜は、親に怒られないように帰るようにと言うけど、また一人にさせてしまう。

私は、お礼をいい、莉菜のマンションを出て品川駅に向かう。
川の水面は揺らぎ、そこに映ったビルの灯も揺れる。
そんな様子を見て、私の気持ちは後悔に押しつぶされそうになる。

品川駅前では、飲み会が終わった会社員かしら、20代後半の男女が大声で笑っている。
でも、大半は、無表情で自宅への帰途に着く。
みんな疲労と苦しみで重力に負け、肩を落とす。

どうして、人生はこんなに苦しいのかしら。
なんのために生きているのか分からない。
駅前の通路の欄干から下を歩く人達のことを見つめていると、鼓動が高鳴って苦しい。

その時、肩を叩かれた。

「お嬢さん、大丈夫ですか? もう遅いから早く家に帰った方がいいですよ。」

私の顔を心配そうに見つめる警察官。
この欄干から飛び降りてしまうのではと思ったに違いない。

「ありがとうございます。大丈夫です。」

そう言って、作り笑いをして、あわてて改札口に向かって走り始めた。
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