飼育される

一宮 沙耶

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4話 生きる望み

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 とんでもないニュースが舞い込んできた。ある女性が我が子に会いたいという気持ちを抑えられずに、子供が集められている政府の施設に行ったらしい。そしたら、大勢の子供がいたんだけど、いずれも、爬虫類のような肌だったんだって。

 施設は厳重に管理されていて入れなかったんだけど、遠くから望遠鏡でみたら、そのように見えたって聞いた。緑色とか黄色が混じった肌の子どもたちが、外でドッチボールとかしていたらしい。

 そんなことないわよね。光の加減でそうみえたのかもしれないし、誰かが、面白おかしく作ったフェイクに違いない。政府がそんなこと隠す必要もないし。

 でも、その後も、子どもたちが施設にいる動画などが出回り、政府は女性たちから突き上げを受けることになったの。

 そういえば、当時の政府の人はすべて男性で、女性がいないって変よね。彗星の事件の前でも、女性が少ないとは言っても少しはいたし。男性が何か隠しているんじゃないか、陰謀があるんじゃないかと、どんどん批判の声は高まっていったの。

 そして、日本政府から、日本全体を統制できて、もう隠す必要もないとして、ある日、アナウンスがあった。その内容は想像を遥かに超えていた。

 実は、各国政府といわれていたものが、異星人の組織だったんだって。そういえば、これまで政府の指示とかいっても、政府の人とか見たことないし、いつも、男性から伝令されていた。

 そして、異星人が地球を侵略するために彗星の光を作り出し、その光で、人間の大半が目を使えないようにしてを殺害することに成功したと話していた。

 更に、生き残った男性には、小さな虫を体内に入れ、表面は維持しつつ、体内は別の生命体に作り替え、脳を支配したんだって。だから、今、前にいる男性は、もう人じゃないし、支配されていて、政府にいる人は異星人で、これも人じゃないということ。

 ただ、異星人に作り替えた男性は、地球の環境だと2年ぐらいしか生きられないので、この地球の環境に即した自分たちの子孫を作るために、女性の子宮を借りることにしたらしい。それが、新しい惑星で異星人の種を生き延びさせる常套手段だとか。

 そうなのかもしれない。地球と違う環境で暮らしてきた異星人は、地球では生きていけず、生きていくためには、地球の環境で暮らしてきた遺伝子をベースに自分たちの遺伝子を載せていくことには合理性があると思う。

 今、ここにいる女性は、協力すれば殺さないと言っていた。そうだったんだ。なにか内視鏡のようなもので、私の体に精子のようなものを入れて、子供を産ませたんだと、今更に気づいた。

 その後、男性たちは、自らの正体を隠す必要もなくなったと、人間の皮をはいで、爬虫類のような肌を出して暮らすようになった。その肌を見たとき、ガマガエルのような肌で、近寄ることもできないぐらい気持ち悪く、こんな人の横にいたのかと吐いてしまったわ。

 そうだったのね。どんな過去かと恐れてた自分が馬鹿に思えた。そもそも、人間じゃなかったの。でも、この爬虫類のような生き物の一部が私に入ったわけじゃなく、金属のようなものだったんだということは、少しはよい情報だった。

 そういえば、思い返してみると、智とはキスもしたこともなかったけど、していたらなんて考えると、気持ち悪くて。

 女性からは、もう、彼らは、人間の男性として見られることもなくなり、単なる動物のような存在として、どこかの施設に収容され、半年ぐらい後に、死んでいったと聞いたわ。

 そして、女性たちは、子孫を増やすため、定期的に、病院で、精子のようなものを体に入れる処置が取られることになったの。

 3年目ぐらいからかな、子供を産む方法も変わってきた。妊娠すると、4ヶ月目ぐらいで子供が子宮から取り出され、あとは培養液で育てるみたい。

 お腹がそれほど大きくならないうちに取り出されるから、女性が活動することへの負担は減るし、更に、出産のサイクルを早めることができるんだって。そのせいもあり、子供を産むとすぐに妊娠するサイクルになったから、生理ということも気にしなくなった。

 じゃあ、女性もいらないんじゃないと思うけど、受精から4ヶ月目ぐらいまでは、どうしても女性の子宮が必要らしい。それで、私たちは生かされた。

 だからか、異星人を繁栄させるために協力できないと強固に主張する女性たちは、密かに消されていった。でも、協力さえすれば、農作業とかもすることなく、食べ物などは与えられ、都会で、昔どおりの生活を保証された。

 食べ物は、新たに生まれた子どもたちが農作業をして作っているらしい。私たちは、飼育されている豚のようだとは思ったけど、それ以上の選択肢はなかったわ。

 でも、人の歴史を見ると、こんなに自由でいられたのは最近のことなのよね。それまで、食べるだけでも大変だったし、多くの不自由があったんだと思う。今を不自由だと思うのは、ただ、これまでの人の苦労にのかって、浮かれていただけ。

 過去の人に比べれば、これでもいい生活なのかもしれない。そう思って過ごすしかなかった。あえていえば、暮らしているエリアから出ることができていない。半径1Kmぐらいに閉じ込められているという感じかしら。

 そんな中で、外見とか男性とか気にすることもなくなり、家から出ないから、女性たちは、みんな太っていったし、メイクとかもする気はなくなって髪も乱れ、ただ食べて、寝るだけの、それこそ豚のような生活に近づいていったように思う。

 私も、もう将来について明るいイメージを持つことができずに、やる気もなく、ただ、時間だけが過ぎていく毎日を過ごしていた。服も下着だけだし、お風呂に入るのも面倒で、体が痒い。

 食べたお皿とか放置してるだけだから、蝿とかも部屋の中を飛び回り、私の体にもとまっている。飼われている豚のほうが衛生的なのかもしれないわ。豚はきれい好きだと聞いたこともあるし。

 希望をもっても叶わないものね。そんな中で、絵を書いたり、ヨガをやったりする人もいたようだけど、私ができることといえば小説を書くことぐらいかな。でも、みんななげやりで娯楽なんて興味もなく、私が小説を書いても読んでくれないと思う。

 読まれないものを書くということぐらい、つまらないことはないし、そもそも、私が小説家だったことなんて忘れていた。

 ふと、そんなことを考えていた時に、鏡をみて愕然とした。私は、まだ31歳なのに、肌はボロボロで、シワだらけで、髪は真っ白、老婆が目の前にいると思った。人は、やる気がなくなると、こんなに生気がなくなるんだと。

 そして、下半身をみると、数ヶ月に1回、精子みたいなものを入れるために外出するだけで、ずっと家にいたから、足も細って、骨だけのようになっていた。そういえば、最近は、外出もせずに、変な生き物が私の体に精子みたいなものを入れに来るだけだった。

 この前まで、爬虫類のような男性を気持ち悪いと思っていたけど、昔の私が、今の私をみたら、妖怪のような姿で気持ち悪いと思うに違いない。足は骨のように細り、体は太って、髪は白髪で、眼光だけが鋭い。

 もう、私は人じゃないのかもしれない。私の子宮だけを使いたくて異星人に飼われている妖怪みたいな生き物と言われても否定はできない。

 昔のように綺麗な姿になろうか? でも、誰のために? 何のために? もう、綺麗な私を見せる相手はいない。綺麗になっても、したいこともない。運動したり、メイクしたりなんて、面倒くさい。

 そういえば、昔、私は、彗星の光で目が見えなくならなくて良かったと思っていた。でも、どちらが幸せだったのかしら。3週間、暗闇に怯え、餓死していった人たちと、何年も異星人に飼われ、こんな変わり果ててしまった私と。

 もちろん、今でもなにかに生きがいを見出し、生きるという選択肢もあるんだから、今の方がいいのよね。でも、希望もなく、絶望の日々を何年も生きるのも辛い。

 それから5年ぐらい経ったころ、私の所に、高校生ぐらいの男女10人が訪れた。私の子供なんだって。異星人は子供の頃の成長は早くて、高校生ぐらいになると、逆に、かなり長い間、そのままでいられるらしい。

 なんか、肌の色は爬虫類みたいな色だけど、異星人と私達とのハーフという感じで、肌の色以外は私達の姿どおりだったの。我が子だからかもしれないけど、そんな気持ち悪い感じはしなかった。

 いきなり、お母さんと言われても、どう対処すればいいのかわからず、呆然とその場で佇むしかなかった。だけど、子どもたちには罪はないから、抱きしめてあげたわ。子どもたちは、泣いて喜んでいた。

 私は異星人に利用されたのだろうけど、私の子供なんだし、もう、どの星の人でも関係なくなってきた。子どもたちの肌も、そう思うと、特にグロテスクなんて思わなくなっていたわ。

 もしかしたら、異星人もいい人なのかもしれない。親子の気持ちが分かるのかもしれない。我が子との再会をさせてくれた。

 子どもたちは、私のこと、気味悪い生き物だと思ったかもしれないけど、私は、本当に久しぶりに明るい気持ちになっていた。明日から、運動して、メイクして、子どもたちが自慢できる母親になろうという気持ちにもなれた。

 でも、長い間の不摂生がたたったのか、私は、もう子供を産めない体になっていた。そして、その頃には、ハーフの人たちも増え、その人達の間で子供もできていたからか、異星人にとって存在価値がなくなった私は、処分され、食肉用として誰かの口に運ばれた。
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