ちょっとハッとする話

狼少年

文字の大きさ
38 / 90

アイ・ウィル・ネバー・フォーゲット

しおりを挟む
「ミキコ。。落ち着いて聞いてくれ……えらい事になっちまった」

昨夜の大雨で母の家が土砂崩れに巻き込まれたと、離れて暮らす父から連絡がきた。

私は慌てて飛び起き、隣県の母の家へと車を飛ばす。

どうか……どうか無事でいて……

       ー翌日ー

私の願いは虚しくも届かず。
家を押し潰した土砂の中で母は遺体となって発見された。
レスキュー隊が身元確認の為に私と父を呼ぶ。その光景は多分……いや絶対に忘れる事は出来ないだろう。
母は手にしっかりと携帯を握りしめていた。最後まで諦めずに、助けを呼ぼうとしていた筈だ。そんな母の遺体を見て私は溢れ出す涙を止める事が出来ない。

「間違いありません……妻です……」

「なんでこんな事に……」と父は言う。

夫婦の在り方は多種多様となる今日。
父と母は離婚という選択はせずに離れて暮らしていた。父は私の産まれ育った実家に、母は自分の産まれ育った在所にと、まぁ元を正せば母の父、私の祖父の介護がきっかけだったのだが……祖父が亡くなってからも母は1人在所で暮らしていたのだ。

「だから言わんこっちゃない……」と父は拳を握りしめ、震える声で呟いた。

私はそんな父を見て また涙が止まらなく 溢れ出すのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それからは母を送り出す準備に色々と忙しくて、悲しんでいる時間はあまりにも無かった。

ようやく一息つけたのは、葬儀が終わり、火葬場から母の遺骨を持って実家へと戻って来てからだ。

「はぁ…………疲れた…………」

父は母の遺骨を仏壇に供えて徐に線香へと火を付ける。

「ちょっと寝ていい?」と私

「あーー……部屋はそのままにしてあるから」と父は言った。

高校を卒業して早3年。県外への就職が決まり、私は実家を出たのだが、父の言う通り、私の部屋はあの頃と何も変わっていない。
いや、あの頃よりも若干と綺麗か……いつでも私が帰れる様にと、父が毎日の様に掃除をしてくれていた事が伺えた。

ベットにゴロンと横になると、ジワジワと母の事が頭に浮かんで来て、また涙が溢れ出す。

『リリーーン!リリリーーン!』

私の携帯が私を呼んでいる。誰??と思って画面を見ると……
画面にはなんと母親の名前……

え?なんで?と思った。
だって……母の携帯はあの土砂の中でバリバリに割れて壊れていたのだから。

「もしもし……」と恐る恐る電話に出てみると、

「あっもしもしーーミキコー??
どうしたのあんた??そんな怖い声出しちゃって」
と元気な明るい声で母が話す。

え?なんで?でも確かに確かにだ。間違えるはずもなく、確かにこの声は私の母だ。

「え?なんで?」と考える前に口走る私。

「え?なんで?って何よ!そんな事よりミキコあんた今度いつ帰って来るのよ?」

「え?うん……」

「うんってあんた いつかを教えてくれないと、こっちも予定があるんだから」

頭の整理がつかないまま母のマシンガントークが炸裂し、私はうんうんと聞きながら、
そうか……これはきっと神様がくれた母との最後の時間なんだ……と解釈した。

「ゴロゴロドーン!!」
「ひぃぃぃ」と母「何?」と私。
「雷!雷よ!どっかに落ちたんじゃないかしら?」
「待って!!そっちって今大雨??」
「そうそう大雨よ。大雨……大雨特別警報って奴??出てるわよ」
「待って待って!!ちょっと待って!!」
「何よ?」
「今日って何日??」
「今日??今日は9日に決まってるでしょ?」
私は9日と聞いてすぐさま叫ぶ。
「お母さん!!!!今すぐそこから逃げて!!!」

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』

「え?何かしら?何か変な音がするわね」

「お母さん!!早く!!早く!!逃げて!!」




                「あっダメだ」


「ガジャンガッグググガッゴッブーーーガッ」

   ツーーーツーーーツーーーツーーー……




電話はそこで切れました。
あれ以来 母から電話はかかって来ません。

私はいつも思うのです。私がもっと早くに気が付いて、母に避難を呼びかけてさえいればと。
だけどもこうも思うのです。それが出来ていたら、母は助かった訳であって、そうしたらアベコベの世界が出来上がってしまうなと。

どちらにせよ……
母の最後の言葉

あっダメだ    は、

母が最後に見た光景が、絶望的なモノであったと想像出来て、私はそれを想うと胸が張り裂けそうになるのです。



    
     





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...