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着替えて階段を降りていくと、リビングでスマホをいじっていた兄が飛んできた。
「チカ、大丈夫か? 病院行くか?」
「ううん。もう大丈夫だから行かなくても平気。昨日はありがとう」
そう言うと、兄はホッとしたように笑顔を見せた。
「朝メシ! 朝メシは食べるか?」
「あ、うん」
台所で朝食の準備を始める兄の背中に声を掛ける。
「お母さんは?」
「仕事。チカが心配だから休むと言ってたけど、仕事で緊急事態発生したって電話が来たから、俺がチカを見てるから仕事に行っていいって言った。なにかあったら連絡しろ、だとさ」
「心配しなくても大丈夫なのに……」
母は仕事で多忙だが、子供である私達をとても大切にしてくれている。
私達もイキイキと仕事をしている母が好きなので、家事のほとんどを兄妹で分担をして行っている。
ちなみに料理は兄のほうが上手だ。
私がテーブルに着くと、私の前に野菜がたくさん入った卵雑炊が置かれた。私が体調を崩すといつも兄が作ってくれる料理だ。すぐに出てきたところを見ると、私が起きる前から仕込んでいたんだと思う。
レンゲで掬って口に入れる。小さい頃から食べ慣れた優しい味が私の体内を巡っていく。
「あー、おいしー……」
黙々と食べる私の向かいの席に兄は座り、私が食べる姿をじっと見てくる。
「何?」
「……しんどいことがあるなら言えよ。俺は絶対チカの味方だから心配するな」
私が思わずふっと笑うと、兄が、なんだよ、と不満そうに口をとがらせた。
「それ、昨日ナブにも言われた」
「そうか」
兄も少し笑った。
「本当にもう大丈夫。いっぱい寝たからね」
食事が終わり、食器を洗おうとすると、兄に「今日は大人しくしてろ」と止められた。
手持ち無沙汰のまま、リビングでぼんやりテレビを見ていると、兄のスマホが鳴った。
「ナブからだ。うちに来てもいいかって」
「いいよ」
私の返事を待って、兄が返信をした。
少しすると、ナブが小さな箱を両手で抱えてやってきた。
「チカ、起きてたんだ。体調はどう?」
「もう大丈夫。昨日は心配かけてごめんね」
「謝らなくていいよ。……はいこれ」
ナブが箱を差し出した。
「小松菜も貧血予防にいいらしいから小松菜のパウンドケーキ作ってきた。食べられる?」
「食べるよ。ありがとう」
兄もそうだが、ナブもなかなかに心配性だ。
台所を借りるねと、ナブはケーキを持って台所に移動する。
私の家に小さい頃から出入りしているナブには、我が家の台所を自由に使って良いという許可を出している。
「そういや、サブスクに新作サメ映画が公開されてたぞ」
兄がテレビのリモコンを操作して、画面に出した。
「見る見る」
前世の私は乙女ゲーム好きだったが、今の私はサメ映画好きだ。ちなみに兄も好きである。
私が食いつき気味に反応すると、ナブがケーキとコーヒーを持って戻ってきた。
「ナブも見ていくでしょ?」
私が誘うと、ナブは嬉しそうに頷いた。
私たち兄妹のサメ映画好きに引きづられるように、ナブもすっかりサメ映画ファンになった。
そのまま、三人でナブの作ったケーキを食べながらサメ映画を見た。
前世を思い出す前からある、当たり前の日常だ。
今度は、今度こそは、家族も友達も悲しませることのないように生きていこう。
「チカ、大丈夫か? 病院行くか?」
「ううん。もう大丈夫だから行かなくても平気。昨日はありがとう」
そう言うと、兄はホッとしたように笑顔を見せた。
「朝メシ! 朝メシは食べるか?」
「あ、うん」
台所で朝食の準備を始める兄の背中に声を掛ける。
「お母さんは?」
「仕事。チカが心配だから休むと言ってたけど、仕事で緊急事態発生したって電話が来たから、俺がチカを見てるから仕事に行っていいって言った。なにかあったら連絡しろ、だとさ」
「心配しなくても大丈夫なのに……」
母は仕事で多忙だが、子供である私達をとても大切にしてくれている。
私達もイキイキと仕事をしている母が好きなので、家事のほとんどを兄妹で分担をして行っている。
ちなみに料理は兄のほうが上手だ。
私がテーブルに着くと、私の前に野菜がたくさん入った卵雑炊が置かれた。私が体調を崩すといつも兄が作ってくれる料理だ。すぐに出てきたところを見ると、私が起きる前から仕込んでいたんだと思う。
レンゲで掬って口に入れる。小さい頃から食べ慣れた優しい味が私の体内を巡っていく。
「あー、おいしー……」
黙々と食べる私の向かいの席に兄は座り、私が食べる姿をじっと見てくる。
「何?」
「……しんどいことがあるなら言えよ。俺は絶対チカの味方だから心配するな」
私が思わずふっと笑うと、兄が、なんだよ、と不満そうに口をとがらせた。
「それ、昨日ナブにも言われた」
「そうか」
兄も少し笑った。
「本当にもう大丈夫。いっぱい寝たからね」
食事が終わり、食器を洗おうとすると、兄に「今日は大人しくしてろ」と止められた。
手持ち無沙汰のまま、リビングでぼんやりテレビを見ていると、兄のスマホが鳴った。
「ナブからだ。うちに来てもいいかって」
「いいよ」
私の返事を待って、兄が返信をした。
少しすると、ナブが小さな箱を両手で抱えてやってきた。
「チカ、起きてたんだ。体調はどう?」
「もう大丈夫。昨日は心配かけてごめんね」
「謝らなくていいよ。……はいこれ」
ナブが箱を差し出した。
「小松菜も貧血予防にいいらしいから小松菜のパウンドケーキ作ってきた。食べられる?」
「食べるよ。ありがとう」
兄もそうだが、ナブもなかなかに心配性だ。
台所を借りるねと、ナブはケーキを持って台所に移動する。
私の家に小さい頃から出入りしているナブには、我が家の台所を自由に使って良いという許可を出している。
「そういや、サブスクに新作サメ映画が公開されてたぞ」
兄がテレビのリモコンを操作して、画面に出した。
「見る見る」
前世の私は乙女ゲーム好きだったが、今の私はサメ映画好きだ。ちなみに兄も好きである。
私が食いつき気味に反応すると、ナブがケーキとコーヒーを持って戻ってきた。
「ナブも見ていくでしょ?」
私が誘うと、ナブは嬉しそうに頷いた。
私たち兄妹のサメ映画好きに引きづられるように、ナブもすっかりサメ映画ファンになった。
そのまま、三人でナブの作ったケーキを食べながらサメ映画を見た。
前世を思い出す前からある、当たり前の日常だ。
今度は、今度こそは、家族も友達も悲しませることのないように生きていこう。
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