18 / 27
8-3
しおりを挟む
攻略者同士がライバル意識を燃やして、それに巻き込まれることもあった。
攻略者全員が勢揃いした勉強会になぜか私も強制参加させられたのだ。
前日に、兄の部屋に数学の問題を教わりに行ったら、兄はしばらく悩んだ後、「少し待って」と私を部屋から追い出した。数分後、自信満々に教えに来たが、その手にはスマホが握られていたことは見なかったことにしてあげた。
その翌日が勉強会だ。おそらく私が原因だろうが、明らかに私は場違いだ。しかもなんで攻略者全員集合なのか。なぜこうなったのかさっぱりわからず兄にこっそり理由を訊ねたが、兄も「なんか気がついたらこうなってて……」と首を傾げた。
このあたりが主人公なんだろう。
攻略者たちと接する機会が増えると、私の心境にも変化が出た。
間宮先輩は完璧な人ではないし、折原先輩は噂のように女たらしじゃない。菜月くんは一人が好きなわけでもないし、ナブは優しいだけじゃなくて私が思っている以上に強さを持っていた。
ゲームの存在を気にするあまり、キャラの一人として画一的に見てしまっていた彼らだったけど、たしかにこの世界に存在する人間で私にとっての現実だ。キャラクターデータとして数行で表されるような薄っぺらい人たちなんかじゃなかった。
そんな感じの毎日を過ごしていれば、他の女子生徒たちからやっかみを受けるのは当然だと思う。
攻略者たちのファンと思われる女子生徒数人から呼び出しを受けた。
「あなた、間宮先輩たちにチヤホヤされて勘違いしてないでしょうね?」
乙女ゲームのテンプレのような問いかけに、顔には出さないが少し感動した。
「あの……、私が先輩達に何て呼ばれているかご存知ですか?」
女子の皆さんは私の返しが予想外だったようで、みんな揃って首を傾げた。
「妹、です。名前で呼ばれていないんですよ」
「妹?」
中心に立つ女子生徒が怪訝な顔をする。
「〝妹〟と声をかけられます。菜月くんはクラスメイトで隣の席なのに妹呼びです。あの間宮先輩ですら〝常磐の妹〟呼びです」
女子生徒たちの中の何人かが声を出して笑った。
間宮先輩は紳士なので、相手が誰であっても丁寧に名前で呼んでくれる。妹呼びはおそらく私だけだろう。
女子生徒の集団の中から、まあ、常磐くんだしねえ、という声と、それに同調するような楽しげな笑い声があがった。
兄よ、どういう立ち位置なんだ。
「何が言いたいかと言うと、あの人達にとって私は兄の妹なだけなのです。だから皆さんが心配するようなことにはなりませんので、ご安心ください」
この説明が功を奏したのかどうかはわからないが、女子の皆さんはそれ以上何も言わず私を開放してくれた。
これ以降、私は女子生徒たちからは「対象外のかわいそうな女子」と、むしろ同情されているらしい。
……まあ、その通りだから別にいいけど。
攻略者全員が勢揃いした勉強会になぜか私も強制参加させられたのだ。
前日に、兄の部屋に数学の問題を教わりに行ったら、兄はしばらく悩んだ後、「少し待って」と私を部屋から追い出した。数分後、自信満々に教えに来たが、その手にはスマホが握られていたことは見なかったことにしてあげた。
その翌日が勉強会だ。おそらく私が原因だろうが、明らかに私は場違いだ。しかもなんで攻略者全員集合なのか。なぜこうなったのかさっぱりわからず兄にこっそり理由を訊ねたが、兄も「なんか気がついたらこうなってて……」と首を傾げた。
このあたりが主人公なんだろう。
攻略者たちと接する機会が増えると、私の心境にも変化が出た。
間宮先輩は完璧な人ではないし、折原先輩は噂のように女たらしじゃない。菜月くんは一人が好きなわけでもないし、ナブは優しいだけじゃなくて私が思っている以上に強さを持っていた。
ゲームの存在を気にするあまり、キャラの一人として画一的に見てしまっていた彼らだったけど、たしかにこの世界に存在する人間で私にとっての現実だ。キャラクターデータとして数行で表されるような薄っぺらい人たちなんかじゃなかった。
そんな感じの毎日を過ごしていれば、他の女子生徒たちからやっかみを受けるのは当然だと思う。
攻略者たちのファンと思われる女子生徒数人から呼び出しを受けた。
「あなた、間宮先輩たちにチヤホヤされて勘違いしてないでしょうね?」
乙女ゲームのテンプレのような問いかけに、顔には出さないが少し感動した。
「あの……、私が先輩達に何て呼ばれているかご存知ですか?」
女子の皆さんは私の返しが予想外だったようで、みんな揃って首を傾げた。
「妹、です。名前で呼ばれていないんですよ」
「妹?」
中心に立つ女子生徒が怪訝な顔をする。
「〝妹〟と声をかけられます。菜月くんはクラスメイトで隣の席なのに妹呼びです。あの間宮先輩ですら〝常磐の妹〟呼びです」
女子生徒たちの中の何人かが声を出して笑った。
間宮先輩は紳士なので、相手が誰であっても丁寧に名前で呼んでくれる。妹呼びはおそらく私だけだろう。
女子生徒の集団の中から、まあ、常磐くんだしねえ、という声と、それに同調するような楽しげな笑い声があがった。
兄よ、どういう立ち位置なんだ。
「何が言いたいかと言うと、あの人達にとって私は兄の妹なだけなのです。だから皆さんが心配するようなことにはなりませんので、ご安心ください」
この説明が功を奏したのかどうかはわからないが、女子の皆さんはそれ以上何も言わず私を開放してくれた。
これ以降、私は女子生徒たちからは「対象外のかわいそうな女子」と、むしろ同情されているらしい。
……まあ、その通りだから別にいいけど。
14
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です
有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。
ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。
高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。
モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。
高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。
「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」
「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」
そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。
――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。
この作品は他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる