召喚されたけれど、夫を捜しに出奔します

秋の叶

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旅立ち~公一視点~

 藪の中で大八車をインベントリに入れた後、人型の結界魔道具を取り出して作動させる。
 メラニーが大きな町があると教えてくれた方向に向かう事にし、身体強化魔法を全身にかけて歩き出す。
 朝早い時間だった事もあり、村に向かって歩く人もいなければ、村から出る人もいなかった。
 周りを見ながら道を進んでいく。
 今の所、メラニーから聞いていたような連絡用の建物っぽいものは見当たらない。
 
 それなりに物資の行き来があるのか、獣道と言うほど酷くもなく、道だとわかるものだなと思いながら一歩一歩足を動かす。 
 魔動車があると言うが、この辺は走っていないのか?
 走っているとしてもタイヤの形状が馬車と変わらないのか?
 とにかく、車輪の跡がある道であれば、崖を登るような道ではないはず。
 
 ゴールがわからない道を黙々と歩いていると、話し相手もいないから独り言のように脳内で自問自答を繰り返す。
 目標のメインは妻と無事に合流する事。
 次が道中の路銀稼ぎ。これに関しては魔石で魔道具を作って売ることが出来ないかなと考えている。
 道中、材料に出来そうなものがあればそれも確保したい。
 それから大きな町で身分証明代わりに狩猟者登録をしたい。

 元の世界であれば1時間で5㎞くらい歩いていた。
 今は道の状態が整っていないとはいえ、身体強化のお陰で倍以上の速さでぐんぐん歩ける。
 1時間ほど歩いたところで道を逸れ、雑木林で大きめの岩を見つけ、結界の中で工具や魔法を駆使して分割し、インベントリに入れた。
 
 作業用に出していた結界を解いて道に戻ろうかと思ったところで、すぐそばに軽自動車サイズの猪がいて驚く。俺にお尻を向けて何かもぐもぐしているようだ。
 うおっ!こんなのが道に出てきたらひとたまりもないな。
 振り返って突進されたら危険なので前回と同じように穴を掘って落とす。ついでに穴ごと自分の周囲を結界で覆い直した。
 さてどうしよう?攻撃魔法は持っていないし、インベントリの道具を使ったところでうまく出来る気がしない。
 野に解き放ったら後の被害が恐ろしい。
 少し考え、猪の首から上を球体の防御魔法で囲み、中に水を入れて密封する事にした。
 穴の中でドシンドシンと音がしているので、静かになるまで少し待つ。音がしなくなって暫くしたら、猪をインベントリに入れ、穴を塞ぐ。
 
 雑木林を出る際には大八車を取り出し、その上に猪(魔獣)を乗せて引っ張る事にした。
 人型の結界を解除し、身体強化でぐいぐい台車を引っ張りながら歩いていると、15分ほどで大きな町らしきものが見えてきた。
 
 町の入り口で門番っぽい人にギョッとされつつ、目の前まで行く。
 魔獣達の大きさが大きさなので、しっかりした塀を作っているんだなと実感する。
「すみません。ここに来る途中の道で魔獣に遭遇したので持ってきたのですが」
 そう言うと、門番っぽい人は街道のどの辺りで魔獣が出たのか聞き取り、襲われた通行人などを見かけなかったか確認される。
 狩猟者登録をしたくて町に来たと告げると、登録所の前まで案内してくれる人を付けてくれた。
 
 登録所の人も驚きながら対応してくれた上、魔獣の引き取りもしてくれたので、魔石だけもらって残りは登録代金を引いた銀貨2枚と小銀貨5枚を受け取る。
 登録の名前は『コウ』にした。
 目立たずに行動するつもりだったが、これはどうしようもないと開き直る。

 ついでなので賑やかで整えられた町中を散策し、食事処があったので入ってみる。
 他の客を見ると温泉水で煮た湯豆腐が有名らしく、それを食べている人が多かったので、俺も小銀貨2枚を支払い、銅貨5枚の釣りを受け取って食べた。
 うまかった。
 
 無事に狩猟者登録が出来たので、この町にもう用はない。
 お茶が名物だと話しているのが聞こえたので小銀貨1枚分だけ購入し、登録所に預けていた大八車を引いて、入って来た時とは別の門から町を出た。
 
 町の外は今まで通った道よりしっかり整備されていた。
 魔動車らしきものも初めて見たが、現代風のタイヤはまだ開発されていないようだ。
 馬車も人も往来がそこそこあるので、暫く大八車を引っ張ったまま歩く。
 途中、広い街道を行くか、山側の街道を行くか道が分かれた。
 少し考え、山側の道に入り、周囲に誰もいなくなったところで山の中に入り、木の陰で大八車をインベントリに入れ、人型結界をかけて歩き出す。

 身軽になって時々回復魔法をかけながら身体強化でぐんぐん歩く。
 通り過ぎる人や馬車に俺の姿は見えないので、少し離れた位置からぐいぐい抜いていく。
 流石に魔動車は追い抜くことが出来ないけれど、順調に距離を稼ぐことが出来た。

 日が暮れる前に野宿の準備をする。
 準備といっても結界を使って、その中で快適に過ごすだけだ。
 結界内に生活魔法で灯りを点け、カセットコンロを取り出し、米を砥いでフライパンに入れ、水を注いで蓋をして炊く。
 炊きあがるまでに妻からの手紙を読む。
 
 どうやら今朝、手紙を読んで急いで準備をするようだ。
 庭好き友の会と勝手に命名した会の会員ジャンさんに、回復魔法をかけて出ていくと書いていた。
 庭談義がよほど充実していたんだな。
 今夜か明日には抜け出すようだ。

 こちらからは村を出る際にマサから魔石を貰った事、無事に狩猟者登録が出来た事、猪を引き取ってもらった代金があるので、メラニーから受け取った甕の中のお金は妻が使って大丈夫な事、湯豆腐を食べてお茶を買った事を書いた。
 時間が有るときに毒蛇の魔石7個に調理用の付加と、大きな魔石に結界の付加して欲しいと頼む。

 炊きあがった米の蒸らしが終わったので、ラップに包んでおにぎりを作り、どんどんインベントリに放り込む。
 出来立てだから食べたいときに温かいおにぎりが食べられるはずだ。
 最後に一食分を茶碗に盛りつけ、洗浄したフライパンでマサから貰った肉を焼いてたれを付けて食べた。
 焼肉万歳!
  
 食後は日中に確保した石を加工する。
 厚みが5㎝で30㎝の正方形の石板を7個。
 魔石を埋め込む穴以外は割と簡単なので、黙々と作業してから石板を仕舞う時にメラニーの願いを思い出す。
「あ、本を燃やすんだった」
 インベントリから本を取り出し、結界の隅で穴を掘って枯葉などと一緒に火を点ける。
 どんな本なのか、見ることはしない。
 高温で一気に燃えるようにイメージしながら、防御魔法で蓋をし、燃え尽きたのを確認してから水をかけて穴を戻す。

 更に切り株を輪切りにした木材を取り出して、結界の魔道具用の枠を作り、魔石を嵌め込んで完成させる。
 
 インベントリ内に「メラニー」と書かれた文字が消えていた。
 これでメラニーの願いは3つとも叶えられるだろう。
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