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魔女の魔法
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※残酷表現あり。ご注意ください。
真っ青な空を一台の浮動車が飛んでいく。
浮動車は魔石で動く小さな車だが、通常は地面すれすれで浮いて走行する程度の物だ。それが空を飛んでいる。
乗っているのはグレーのローブを着た一人の少女リュシー。
ウェーブのある茶色い髪をハーフアップにし、風にたなびく髪の毛が時々顔にかかって邪魔そうに背中に移動する。
「飛ぶ時は一本に結んだ方が良いと今更ながらに実感したわ・・・」
ヘーゼル色の目をしかめながら、結界の魔法を思い出して発動する。
「風が目に痛いし、服や髪の毛は乱れるしと思ったら、結界の魔法を忘れるなんて、うっかりしたわ」
文句なのか自戒なのか、ぶつぶつと言いながら飛び続けた。
結界以前に浮動車の窓を閉めれば良かっただけなのだが、彼女はその事に気がつかない。
空を飛んでいる彼女は聖女の末裔だという。
しかし、聖女という言葉は世間から殆ど消えており、教会関係者しか知る者はいない。
世間の人は彼女の事をこう言う。
【残酷な魔女】と。
魔女もしくは魔法使いと言われる人物は、箒を乗り物にして飛んでいた。
掃除道具のそれが何故乗り物に選ばれたのか、理由はわからない。
入手しやすかったからなのか、たまたま手に入ったからなのか、貴重な素材が使われていたのか。
近年になり、東の島国から魔石を使った浮動車という乗り物が広がり始めた時、リュシーは思った。
「箒よりこっちの方が楽に座れるし、荷物も載せられる。結界を使わなくても雨風が凌げるじゃない。これからは浮動車の時代だわ」
彼女の一言で空飛ぶ車が出来上がった瞬間であった。
ただし、結界が無いと風圧に耐えられないし、呼吸も困難になるので要注意だ。
浮動車が通常陸を走るスピードよりも、さらに加速した状態で空を飛ぶ。
向かう先は西の国。
飛んでいると砂で空が黄色くなり、地面は砂嵐のようになっている。
歩く人は数える程度しかいないが、大きな布で全身を覆い、口元の布を抑えて呼吸を少なめにしている。
それでも砂は隙間という隙間から入ってくるため、目の疾患や肺の疾患、建物の汚染や大気汚染が問題になっている。
砂嵐が少し落ち着いた地に浮動車がそっと降り立つ。
「さてと、今回の願いは何かしら」
様々な土地を巡り、人々の願いを叶えてきた魔女は、ここに来るのが初めてではない。
願いを聞くのは毎回違う人物だ。ただし、無作為に選んでいる。その時目が合った人だったり、通りすがりに話をした人だったり、挨拶した人だったり。
今回は浮動車が着地したところに全身布の塊になっている人がいたので、その場で話しかけた。
「あなたに願いはありますか?」
後ろから突然話しかけられた男性は驚いた。
口を開けると砂が口の中に入るため、この時期に外でゆっくり会話しようとする人なんて緊急時でもなければ滅多にいない。
それでも話しかけられた内容が気になったので、何も考えずに思った事を口にする。
「願いだって?そんなの、雨が降って欲しいに決まっているよ!」
八つ当たりのように返事をする。
「わかりました。叶えましょう」
魔女が髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
両手で持ち上げ、男性の願いを口にする。
「この地に雨を。『pluvia』(プルウィア)」
言葉の終わりに両手を開き、白く輝く毛髪が風に飛んでいくと、あたりが暗くなり、雲が厚くなってぽつぽつと雫が落ちてきた。
魔女はこれで終わりとばかりにその場から離れ、来た道を戻った。
残された男性はサァーサァーと降り始めた雨に両手を上げて歓喜する。
「雨だ!雨が降っている!うおぉぉぉ!」
吹き荒れていた砂が落ち、砂だらけの地面が雨で黒く染まっていく。
やがて雨がまとまり、溜まった水は低い方へ低い方へと流れを作り出す。
窓を閉ざしていた周囲の建物でも窓を開け、住民は雨の音に喜んでいた。
が、その喜びは後に苦悩に変化する。
サァーサァーと降っていた雨が、ザーザーと雨脚を強くし降りしきる。
もともと乾燥気味のその土地では雨の対策が殆ど無かった。
強い雨が続くとどうなるか?
雨に押し流された砂がたまり、鉄砲水となって大量の土砂が人々や建物を襲い、死者が出る。
砂丘の間に湖を作り、水がなかなか引かないどころか溢れてまた被害が拡大する。
それでも雨が止むことが無かった。
「もう雨はうんざりだ!誰か雨を止めてくれ!」
避難していた男性が絶望の声をあげる。
「こんなに雨が続くなんて・・・まるで残酷の魔女に誰かが雨を願ったみたいじゃないか・・・」
溜息と一緒に呟く老女の言葉に動きを止める男性。
「残酷の魔女だって?なんだそれは?」
問われた老女は男性に答える。
「知らないかい?願いを叶えると言って聞き出し、叶えてくれるが、こちらが思った以上の叶え方をするとんでもない魔女だよ。安易に返事をしたら災害をもたらす」
それを聞いた男性は全身の血が一気に下がり、動悸が早くなって背中を汗が伝う感覚に体が震えた。
「・・・魔女の叶えた願いはいつ終わるんだ?」
「さぁねぇ、天の雨が尽きた時か、魔女に願う人がいるか、分からないね」
男性は頭を抱えて蹲る。
「俺か…?俺が雨を願ったからなのか?」
それを聞きつけた別の男性がいきり立つ。
「もしやお前が!お前が魔女に願ったのか!お前のせいで俺の家族はっ!!」
拳を振り上げ男性を殴り、足で踏みつけて転がす。
その行為は周囲に広がり、複数の男性と時には女性が男性の息が止まるまで暴力の限りを尽くした。
意識が無くなる寸前、痛みの中で男性は思った。
「砂嵐のままの方が良かったのか・・・?」
男性の死後も霧雨となって雨は降り続く。
真っ青な空を一台の浮動車が飛んでいく。
浮動車は魔石で動く小さな車だが、通常は地面すれすれで浮いて走行する程度の物だ。それが空を飛んでいる。
乗っているのはグレーのローブを着た一人の少女リュシー。
ウェーブのある茶色い髪をハーフアップにし、風にたなびく髪の毛が時々顔にかかって邪魔そうに背中に移動する。
「飛ぶ時は一本に結んだ方が良いと今更ながらに実感したわ・・・」
ヘーゼル色の目をしかめながら、結界の魔法を思い出して発動する。
「風が目に痛いし、服や髪の毛は乱れるしと思ったら、結界の魔法を忘れるなんて、うっかりしたわ」
文句なのか自戒なのか、ぶつぶつと言いながら飛び続けた。
結界以前に浮動車の窓を閉めれば良かっただけなのだが、彼女はその事に気がつかない。
空を飛んでいる彼女は聖女の末裔だという。
しかし、聖女という言葉は世間から殆ど消えており、教会関係者しか知る者はいない。
世間の人は彼女の事をこう言う。
【残酷な魔女】と。
魔女もしくは魔法使いと言われる人物は、箒を乗り物にして飛んでいた。
掃除道具のそれが何故乗り物に選ばれたのか、理由はわからない。
入手しやすかったからなのか、たまたま手に入ったからなのか、貴重な素材が使われていたのか。
近年になり、東の島国から魔石を使った浮動車という乗り物が広がり始めた時、リュシーは思った。
「箒よりこっちの方が楽に座れるし、荷物も載せられる。結界を使わなくても雨風が凌げるじゃない。これからは浮動車の時代だわ」
彼女の一言で空飛ぶ車が出来上がった瞬間であった。
ただし、結界が無いと風圧に耐えられないし、呼吸も困難になるので要注意だ。
浮動車が通常陸を走るスピードよりも、さらに加速した状態で空を飛ぶ。
向かう先は西の国。
飛んでいると砂で空が黄色くなり、地面は砂嵐のようになっている。
歩く人は数える程度しかいないが、大きな布で全身を覆い、口元の布を抑えて呼吸を少なめにしている。
それでも砂は隙間という隙間から入ってくるため、目の疾患や肺の疾患、建物の汚染や大気汚染が問題になっている。
砂嵐が少し落ち着いた地に浮動車がそっと降り立つ。
「さてと、今回の願いは何かしら」
様々な土地を巡り、人々の願いを叶えてきた魔女は、ここに来るのが初めてではない。
願いを聞くのは毎回違う人物だ。ただし、無作為に選んでいる。その時目が合った人だったり、通りすがりに話をした人だったり、挨拶した人だったり。
今回は浮動車が着地したところに全身布の塊になっている人がいたので、その場で話しかけた。
「あなたに願いはありますか?」
後ろから突然話しかけられた男性は驚いた。
口を開けると砂が口の中に入るため、この時期に外でゆっくり会話しようとする人なんて緊急時でもなければ滅多にいない。
それでも話しかけられた内容が気になったので、何も考えずに思った事を口にする。
「願いだって?そんなの、雨が降って欲しいに決まっているよ!」
八つ当たりのように返事をする。
「わかりました。叶えましょう」
魔女が髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
両手で持ち上げ、男性の願いを口にする。
「この地に雨を。『pluvia』(プルウィア)」
言葉の終わりに両手を開き、白く輝く毛髪が風に飛んでいくと、あたりが暗くなり、雲が厚くなってぽつぽつと雫が落ちてきた。
魔女はこれで終わりとばかりにその場から離れ、来た道を戻った。
残された男性はサァーサァーと降り始めた雨に両手を上げて歓喜する。
「雨だ!雨が降っている!うおぉぉぉ!」
吹き荒れていた砂が落ち、砂だらけの地面が雨で黒く染まっていく。
やがて雨がまとまり、溜まった水は低い方へ低い方へと流れを作り出す。
窓を閉ざしていた周囲の建物でも窓を開け、住民は雨の音に喜んでいた。
が、その喜びは後に苦悩に変化する。
サァーサァーと降っていた雨が、ザーザーと雨脚を強くし降りしきる。
もともと乾燥気味のその土地では雨の対策が殆ど無かった。
強い雨が続くとどうなるか?
雨に押し流された砂がたまり、鉄砲水となって大量の土砂が人々や建物を襲い、死者が出る。
砂丘の間に湖を作り、水がなかなか引かないどころか溢れてまた被害が拡大する。
それでも雨が止むことが無かった。
「もう雨はうんざりだ!誰か雨を止めてくれ!」
避難していた男性が絶望の声をあげる。
「こんなに雨が続くなんて・・・まるで残酷の魔女に誰かが雨を願ったみたいじゃないか・・・」
溜息と一緒に呟く老女の言葉に動きを止める男性。
「残酷の魔女だって?なんだそれは?」
問われた老女は男性に答える。
「知らないかい?願いを叶えると言って聞き出し、叶えてくれるが、こちらが思った以上の叶え方をするとんでもない魔女だよ。安易に返事をしたら災害をもたらす」
それを聞いた男性は全身の血が一気に下がり、動悸が早くなって背中を汗が伝う感覚に体が震えた。
「・・・魔女の叶えた願いはいつ終わるんだ?」
「さぁねぇ、天の雨が尽きた時か、魔女に願う人がいるか、分からないね」
男性は頭を抱えて蹲る。
「俺か…?俺が雨を願ったからなのか?」
それを聞きつけた別の男性がいきり立つ。
「もしやお前が!お前が魔女に願ったのか!お前のせいで俺の家族はっ!!」
拳を振り上げ男性を殴り、足で踏みつけて転がす。
その行為は周囲に広がり、複数の男性と時には女性が男性の息が止まるまで暴力の限りを尽くした。
意識が無くなる寸前、痛みの中で男性は思った。
「砂嵐のままの方が良かったのか・・・?」
男性の死後も霧雨となって雨は降り続く。
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