残酷な魔女

秋の叶

文字の大きさ
1 / 17

魔女の魔法

しおりを挟む
 ※残酷表現あり。ご注意ください。




 真っ青な空を一台の浮動車が飛んでいく。
 浮動車は魔石で動く小さな車だが、通常は地面すれすれで浮いて走行する程度の物だ。それが空を飛んでいる。
 乗っているのはグレーのローブを着た一人の少女リュシー。
 ウェーブのある茶色い髪をハーフアップにし、風にたなびく髪の毛が時々顔にかかって邪魔そうに背中に移動する。
「飛ぶ時は一本に結んだ方が良いと今更ながらに実感したわ・・・」
 ヘーゼル色の目をしかめながら、結界の魔法を思い出して発動する。
「風が目に痛いし、服や髪の毛は乱れるしと思ったら、結界の魔法を忘れるなんて、うっかりしたわ」
 文句なのか自戒なのか、ぶつぶつと言いながら飛び続けた。
 結界以前に浮動車の窓を閉めれば良かっただけなのだが、彼女はその事に気がつかない。

 空を飛んでいる彼女は聖女の末裔だという。
 しかし、聖女という言葉は世間から殆ど消えており、教会関係者しか知る者はいない。
 世間の人は彼女の事をこう言う。
 【残酷な魔女】と。



 魔女もしくは魔法使いと言われる人物は、箒を乗り物にして飛んでいた。
 掃除道具のそれが何故乗り物に選ばれたのか、理由はわからない。
 入手しやすかったからなのか、たまたま手に入ったからなのか、貴重な素材が使われていたのか。
 近年になり、東の島国から魔石を使った浮動車という乗り物が広がり始めた時、リュシーは思った。
「箒よりこっちの方が楽に座れるし、荷物も載せられる。結界を使わなくても雨風が凌げるじゃない。これからは浮動車の時代だわ」
 彼女の一言で空飛ぶ車が出来上がった瞬間であった。
 ただし、結界が無いと風圧に耐えられないし、呼吸も困難になるので要注意だ。

 浮動車が通常陸を走るスピードよりも、さらに加速した状態で空を飛ぶ。
 向かう先は西の国。
 飛んでいると砂で空が黄色くなり、地面は砂嵐のようになっている。
 歩く人は数える程度しかいないが、大きな布で全身を覆い、口元の布を抑えて呼吸を少なめにしている。
 それでも砂は隙間という隙間から入ってくるため、目の疾患や肺の疾患、建物の汚染や大気汚染が問題になっている。
 
 砂嵐が少し落ち着いた地に浮動車がそっと降り立つ。
「さてと、今回の願いは何かしら」
 様々な土地を巡り、人々の願いを叶えてきた魔女は、ここに来るのが初めてではない。
 願いを聞くのは毎回違う人物だ。ただし、無作為に選んでいる。その時目が合った人だったり、通りすがりに話をした人だったり、挨拶した人だったり。

 今回は浮動車が着地したところに全身布の塊になっている人がいたので、その場で話しかけた。
「あなたに願いはありますか?」
 後ろから突然話しかけられた男性は驚いた。
 口を開けると砂が口の中に入るため、この時期に外でゆっくり会話しようとする人なんて緊急時でもなければ滅多にいない。
 それでも話しかけられた内容が気になったので、何も考えずに思った事を口にする。
「願いだって?そんなの、雨が降って欲しいに決まっているよ!」
 八つ当たりのように返事をする。
「わかりました。叶えましょう」
 魔女が髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
 両手で持ち上げ、男性の願いを口にする。
「この地に雨を。『pluvia』(プルウィア)」
 言葉の終わりに両手を開き、白く輝く毛髪が風に飛んでいくと、あたりが暗くなり、雲が厚くなってぽつぽつと雫が落ちてきた。

 魔女はこれで終わりとばかりにその場から離れ、来た道を戻った。
 残された男性はサァーサァーと降り始めた雨に両手を上げて歓喜する。
「雨だ!雨が降っている!うおぉぉぉ!」
 吹き荒れていた砂が落ち、砂だらけの地面が雨で黒く染まっていく。
 やがて雨がまとまり、溜まった水は低い方へ低い方へと流れを作り出す。

 窓を閉ざしていた周囲の建物でも窓を開け、住民は雨の音に喜んでいた。
 が、その喜びは後に苦悩に変化する。
 サァーサァーと降っていた雨が、ザーザーと雨脚を強くし降りしきる。
 もともと乾燥気味のその土地では雨の対策が殆ど無かった。
 強い雨が続くとどうなるか?
 雨に押し流された砂がたまり、鉄砲水となって大量の土砂が人々や建物を襲い、死者が出る。
 砂丘の間に湖を作り、水がなかなか引かないどころか溢れてまた被害が拡大する。
 それでも雨が止むことが無かった。

「もう雨はうんざりだ!誰か雨を止めてくれ!」
 避難していた男性が絶望の声をあげる。
「こんなに雨が続くなんて・・・まるで残酷の魔女に誰かが雨を願ったみたいじゃないか・・・」
 溜息と一緒に呟く老女の言葉に動きを止める男性。
「残酷の魔女だって?なんだそれは?」
 問われた老女は男性に答える。
「知らないかい?願いを叶えると言って聞き出し、叶えてくれるが、こちらが思った以上の叶え方をするとんでもない魔女だよ。安易に返事をしたら災害をもたらす」

 それを聞いた男性は全身の血が一気に下がり、動悸が早くなって背中を汗が伝う感覚に体が震えた。
「・・・魔女の叶えた願いはいつ終わるんだ?」
「さぁねぇ、天の雨が尽きた時か、魔女に願う人がいるか、分からないね」
 男性は頭を抱えて蹲る。
「俺か…?俺が雨を願ったからなのか?」
 それを聞きつけた別の男性がいきり立つ。
「もしやお前が!お前が魔女に願ったのか!お前のせいで俺の家族はっ!!」
 拳を振り上げ男性を殴り、足で踏みつけて転がす。
 その行為は周囲に広がり、複数の男性と時には女性が男性の息が止まるまで暴力の限りを尽くした。

 意識が無くなる寸前、痛みの中で男性は思った。
「砂嵐のままの方が良かったのか・・・?」


 男性の死後も霧雨となって雨は降り続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...