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序章:凱旋と始動
勇者さまとわたしの凱旋
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魔王との戦争が始まり20年が経過し、ついにそれは終結を迎えた。
永遠に続くかと思われた戦いは、8年前に勇者と任命された若者によって終止符が打たれたのだ。
彼は23歳という若さで国王に認められ、勇者となった。
国を出て、世界を巡り、魔族との激闘の末にようやくその任務を終えたのだった。
ーーー
ーー
ー
城下町へと入る一歩前の門前であるにも拘わらず、耳を劈くような歓声や音楽が響き渡っている。馬車の上に無理やり増設された物見やぐらのようなものに、英雄ーもとい勇者が一人立っていた。
お世辞にも立派とは言い難い金属プレートの鎧と腰に差したロングソードは、それでも不思議に彼の一部のように違和感はない。まさに、その装備で戦い抜いた証なのである。
その瞳はまっすぐに門の先を見据えている。まるでこれからの国の行く末をすでに見通しているかのように。
魔王を倒し、世界を救った勇者の凱旋が始まった。
木材が歪む音と同時に、巨大な門が開かれた。それと同時に、耳を突くような歓声が轟く。国民が沸くのも無理はない。英雄を一目見ようと集まった群衆のボルテージはすでに最高潮に達していた。
そんな様子を、一人の少女が見上げている。
勇者よりも低い地面、その一歩後ろで馬にまたがり、その一行に離されまいと着いていく。どうやら馬の扱いには慣れていないようである。その風貌は、列を作る兵士たちとも違い、軽装ながらにしっかりとした革製品のように見えた。
彼女は勇者と共に旅をした仲間のエリス。勇者が旅に出て1年がたった頃、魔王軍によって壊滅させられた村の生き残りだった。当時18歳の彼女は、家族や友人、故郷を失ったのだ。復讐を誓い、勇者と共に魔王討伐を決意した彼女もまた、英雄の一人だったのだ。
勇者と共に上に立つこともできたのだが、彼女はそれを断ったのだ。
「世界を救ったのは勇者さまです。私はその従者に過ぎません」
謙遜半分、本気半分。彼女だって命を懸けて戦った一人ではあるが、勇者の力を目の前で見てきた身としては、同じように歓声を受けるべきではないと感じたのだ。
勇者凱旋のパレードは、国王の待つ城の方向にゆっくりと、そして着実に進んでいる。ふと周りに目を向けると、老若男女問わず、勇者を見上げていた。大きな口を開けて叫んでいる者、涙を流す者、両手を合わせ拝んでいる者まで様々だ。
――ああ、ようやく勇者さまの旅が終わったんだ。これから勇者さまはどうするんだろう。国のため、まだまだ戦いを続けるのかな。それとも軍の指導側に回ったりするのかな。わたしはこれから、なにをすればいいのかなーー
馬上の揺れを必死に受けながら、そんなことをエリスは考えていた。
凱旋パレードは半刻ほどで終わり、国王の待つ城内へと場を移した。流石というか、城内はとても厳かな雰囲気が漂っており、いまだに外で騒いでいる国民の声など一つも届かない。静かだ。
勇者の先を歩く兵士も、その英雄に話しかけようともせず謁見の間まで案内をする。辺境の地で育ったエリスにとって慣れない環境であることは言うまでもなく、緊張を隠せない。勇者が少しくらい世間話をしてくれればいいのに……と若干の不満を持ちつつ、だがそんなことをしていい場でないことはわかっていた。
勇者は非常にまじめな性格なのだ。ふざけたり、冗談を言ったりするようなことはしない。エリスとの旅の中でも非常に紳士的ではあったのだが、融通は利かず、自分の正義を曲げたりはしない。非常識というわけではないが、柔軟な思考は持ち合わせていなかった。
エリスにとってそこも勇者の魅力の一つではあると思っているのだが、時に意見が合わず、エリスが一方的に不機嫌になることもあった。勇者としても、そんなエリスを理解をしようとするがどうやら難しいらしい。不機嫌なエリスに対して、焼けた獣肉を申し訳なさそうな雰囲気だけを醸し出しながら差し出してきたときは、飽きれつつも、ああこの人はこういう人だったなと少しだけ面白くもあったのだ。
そんなことを旅の思い出として振り返っていると――
「ここでお待ちください」
ガシャンと音を立てた兵士の歩みが止まる。気付けば目の前には大きな扉が立ちふさがっていた。謁見の間に到着したらしい。職人が仕上げたであろうその大扉はまさに国王がいるにふさわしい部屋の入口を飾っていた。
「なぁ、エリス」
ふと前方から声がした。勇者が語りかけてきたのだった。
「……なによ」
獣肉のエピソードを思い出して、頬が緩んでいたので少し焦る。意味もなく不機嫌そうな返事をしてしまった。
勇者は半身だけ振り返り言葉をつなげる。
「ここまでよくついてきてくれた。お前がいなければ、いまここに俺はいないだろう」
「いったいどうしたのよ。まるでここでお別れみたいなこと言うじゃない」
「ははっ、そういえば礼を言ってなかったなって思ったんだ」
おかしそうに言いながら、勇者は前を向きなおす。
「お礼なんていらないわよ。むしろ、お礼を言うのはこっちのほうよ。わたしはあなたに助けてもらってばかり――」
言いかけたところで、大扉が開く音がする。重厚な扉がゆっくりと左右に広がり、二人の入場を歓迎しているようだ。
勇者が前をまっすぐ見据えたままーー
「さぁ、俺たちの凱旋だ」
勇者がその一歩を踏み出す。エリスは一瞬遅れつつ後に続いた。
永遠に続くかと思われた戦いは、8年前に勇者と任命された若者によって終止符が打たれたのだ。
彼は23歳という若さで国王に認められ、勇者となった。
国を出て、世界を巡り、魔族との激闘の末にようやくその任務を終えたのだった。
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城下町へと入る一歩前の門前であるにも拘わらず、耳を劈くような歓声や音楽が響き渡っている。馬車の上に無理やり増設された物見やぐらのようなものに、英雄ーもとい勇者が一人立っていた。
お世辞にも立派とは言い難い金属プレートの鎧と腰に差したロングソードは、それでも不思議に彼の一部のように違和感はない。まさに、その装備で戦い抜いた証なのである。
その瞳はまっすぐに門の先を見据えている。まるでこれからの国の行く末をすでに見通しているかのように。
魔王を倒し、世界を救った勇者の凱旋が始まった。
木材が歪む音と同時に、巨大な門が開かれた。それと同時に、耳を突くような歓声が轟く。国民が沸くのも無理はない。英雄を一目見ようと集まった群衆のボルテージはすでに最高潮に達していた。
そんな様子を、一人の少女が見上げている。
勇者よりも低い地面、その一歩後ろで馬にまたがり、その一行に離されまいと着いていく。どうやら馬の扱いには慣れていないようである。その風貌は、列を作る兵士たちとも違い、軽装ながらにしっかりとした革製品のように見えた。
彼女は勇者と共に旅をした仲間のエリス。勇者が旅に出て1年がたった頃、魔王軍によって壊滅させられた村の生き残りだった。当時18歳の彼女は、家族や友人、故郷を失ったのだ。復讐を誓い、勇者と共に魔王討伐を決意した彼女もまた、英雄の一人だったのだ。
勇者と共に上に立つこともできたのだが、彼女はそれを断ったのだ。
「世界を救ったのは勇者さまです。私はその従者に過ぎません」
謙遜半分、本気半分。彼女だって命を懸けて戦った一人ではあるが、勇者の力を目の前で見てきた身としては、同じように歓声を受けるべきではないと感じたのだ。
勇者凱旋のパレードは、国王の待つ城の方向にゆっくりと、そして着実に進んでいる。ふと周りに目を向けると、老若男女問わず、勇者を見上げていた。大きな口を開けて叫んでいる者、涙を流す者、両手を合わせ拝んでいる者まで様々だ。
――ああ、ようやく勇者さまの旅が終わったんだ。これから勇者さまはどうするんだろう。国のため、まだまだ戦いを続けるのかな。それとも軍の指導側に回ったりするのかな。わたしはこれから、なにをすればいいのかなーー
馬上の揺れを必死に受けながら、そんなことをエリスは考えていた。
凱旋パレードは半刻ほどで終わり、国王の待つ城内へと場を移した。流石というか、城内はとても厳かな雰囲気が漂っており、いまだに外で騒いでいる国民の声など一つも届かない。静かだ。
勇者の先を歩く兵士も、その英雄に話しかけようともせず謁見の間まで案内をする。辺境の地で育ったエリスにとって慣れない環境であることは言うまでもなく、緊張を隠せない。勇者が少しくらい世間話をしてくれればいいのに……と若干の不満を持ちつつ、だがそんなことをしていい場でないことはわかっていた。
勇者は非常にまじめな性格なのだ。ふざけたり、冗談を言ったりするようなことはしない。エリスとの旅の中でも非常に紳士的ではあったのだが、融通は利かず、自分の正義を曲げたりはしない。非常識というわけではないが、柔軟な思考は持ち合わせていなかった。
エリスにとってそこも勇者の魅力の一つではあると思っているのだが、時に意見が合わず、エリスが一方的に不機嫌になることもあった。勇者としても、そんなエリスを理解をしようとするがどうやら難しいらしい。不機嫌なエリスに対して、焼けた獣肉を申し訳なさそうな雰囲気だけを醸し出しながら差し出してきたときは、飽きれつつも、ああこの人はこういう人だったなと少しだけ面白くもあったのだ。
そんなことを旅の思い出として振り返っていると――
「ここでお待ちください」
ガシャンと音を立てた兵士の歩みが止まる。気付けば目の前には大きな扉が立ちふさがっていた。謁見の間に到着したらしい。職人が仕上げたであろうその大扉はまさに国王がいるにふさわしい部屋の入口を飾っていた。
「なぁ、エリス」
ふと前方から声がした。勇者が語りかけてきたのだった。
「……なによ」
獣肉のエピソードを思い出して、頬が緩んでいたので少し焦る。意味もなく不機嫌そうな返事をしてしまった。
勇者は半身だけ振り返り言葉をつなげる。
「ここまでよくついてきてくれた。お前がいなければ、いまここに俺はいないだろう」
「いったいどうしたのよ。まるでここでお別れみたいなこと言うじゃない」
「ははっ、そういえば礼を言ってなかったなって思ったんだ」
おかしそうに言いながら、勇者は前を向きなおす。
「お礼なんていらないわよ。むしろ、お礼を言うのはこっちのほうよ。わたしはあなたに助けてもらってばかり――」
言いかけたところで、大扉が開く音がする。重厚な扉がゆっくりと左右に広がり、二人の入場を歓迎しているようだ。
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