死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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22. かくれんぼ

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 落下は一瞬だった。

 まず腹に軽い衝撃を感じ、空中で身体が反転し足の方から地面に落ちた。
 ――ドンッ!
「ぐっうぁっっああ!!」
 痛い!痛い!痛いどころではない、右足は確実に折れている。胸部の骨も何本かいったかもしれない。
「――ぐっぅ」
 叫びたい衝動を堪えてなんとか自分の口を塞ぐ。

 真っ暗で分からないが土の上だ。
 暗いことから恐らく屋敷の裏手か横手の庭。すぐ傍に木や生け垣もある。
 このままここにいては不味い。かといって明るい屋敷の正面を目指しても、この家の使用人は信用出来ない。無事だった腕と左足を使ってズルズルと暗がりへ進む。

 時間が経てば団長が不思議に思って俺を探してくれるはずだ。
 …でももしも、令嬢に俺はもう帰ったと言われたら?
 殿下はもう帰られたから団長だけが頼みだ。ずるずるとより暗がりに進む。
 先程から感触が無いとは思っていたが腰に差していたサーベルは別の場所に落ちたらしい。
 ――足音がした。正確には地面を踏み締める振動が。

 早い!もう少し時間を稼げるかと思ったのに!

 カリーナ嬢が階段をどんなに急いで下りて来たとしても、こんなに早く捜しに来れるだろうか?
 その足音は先程まで俺がいた辺りを探している。
 もうここから動けない…少しでも物音を立てたら終わりだ。
 止めを刺しに来たんだ。この家の衛兵か使用人かもしれない。激しく生け垣を掻き分ける音がする。
 口を押える手が震える。…心臓の音で気が付かれてしまいそうだ。
 足音が少しずつ近付いて来る。その足音の重さは…男だ。

 ついに目の前で止まった靴と近くに人の気配を感じた。
 ――殺される。そう思った瞬間、嗅ぎ覚えのある香りがした。


「ねぇどこにいるの?」
 遠くから女の声が聞こえる。ランタンの灯りがゆらゆらと揺れている。
「この辺りかしら…暗くって駄目ね」
 ガサガサと雑に草むらを漁る音がする。
「すぐに楽にしてあげるわ…ねぇ痛いでしょう?痛いわよね…」
 わざと焦らすように暗がりまでは踏み込んで来ない。灯りは二つ。恐らく先程の侍女も一緒だ。
「でもね…私の方が痛かったの。だから仕方ないわよね?」

 俺の両手は自分の折れた右足と身体を支えている。
 口は後ろから回された手によって塞がれた。
 微かな花のような香りで、暗闇でもエリアス殿下だと分かったが驚いた。
 令嬢が近付いて来るまでにより奥へ引き摺られ、今は二人して大きな木の根元で息を潜めている。
 殿下がいるということは、サイロ様もこの状況を把握しているという事だ。
 それでも殿下が動かない今、相手の出方を見ているのだろう。

「ルイジアス卿?まさか…落ちただけでは死なないでしょう?」
 楽しそうにも聞こえる令嬢の声に寒気がする。
 俺の口元を塞いでいた王子の手が外された。暗闇の中でもこれだけ近ければ意思疎通は出来る。
 目を見て頷いたエリアス殿下に頷き返す。

「――どうして、こんな事を?」
 そっと小さく声を出した途端、ぴたりと令嬢の視線がこちらを捉えた。
「そちらにいらしたの?もっと高い場所からの方が良かったかしら…」
 刃物だろうか。ランタンの灯りをテラテラと怪しく反射する刀身が見える。
 俺を抱えようとする王子の腕を退けるべく腕を思い切り伸ばす。護衛を守ろうとするなんて!

「っ私は今夜はじめて貴方に会った。恨まれる理由がない」
「…理由?そんなもの簡単よ――殿下の目を曇らせるあなたが憎いの!」

「そこまでだ!!」
 令嬢がこちらに向かって来ると思われた瞬間。複数の足音と共にサイロ様の声が響いた。令嬢が抵抗する声も聞こえる。
「殿下!!ランベルト!どちらですか!?」
「ここだ!」
 殿下が声を上げると、すぐにサイロ様が近付いて来た。持っていた灯りでやっと周囲の状況が分かる。
「殿下!緊急時は指示に従ってください!!」
 なによりもまずエリアス殿下を注意するサイロ様に、王子だけが俺の元へ来たのは王子の独断だったことが分かる。
「…小言は戻ってから聞こう」
「ランベルト!立てるか?これは酷いな…」
 王子とは反対側から伸ばされたサイロ様の腕に、俺は全力でしがみ付いた。
 ほとんど抱き上げれるように抱えられてやっと、令嬢を拘束したのはマルクス団長だと分かった。

 ――まず城への連絡、そしてエリアス殿下自らがそのまま公爵家当主へ事情説明。
 令嬢は魂が抜けたように大人しくなり、国王による処分が決まるまで自室に軟禁されることになった。

 俺は痛み止めの薬草の副作用から、城に向かう馬車の中で深く眠ってしまった。

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