【悪役令嬢に転生したけど私は力尽きている。】 ~ヒロインが王宮にて爆散した経緯とその後について(参考証言)~

ヤマグチヤコブ

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困った領主夫婦。

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我々は二人そっと寄り添い、そして困っていた。



事の起こりは娘が産まれた事だ。

我々にもたらされたその新たな命の輝きは、産まれた瞬間からあまりにも美しく聡明であった。整えずとも整っている気品溢れる金の巻き毛に新生児らしからぬ首の座り具合、成長過程を逸脱した言語能力に天才の誕生と大いに喜んだ。年の近い王太子の婚約者候補、未来の国母候補としてこれほど相応しい令嬢は他に無いと心から誇らしかった。



しかし問題はすぐにやって来た。



吟味を重ね、給金を積み上げて集めた優秀な家庭教師達が皆すぐに自信がなくなったと田舎に引きこもってしまうのだ。娘はあまりにも優秀過ぎた。教本も聖書も一切開くこと無く反抗的な態度をとりながらも、聞いたこともない国の物語に例えながら政治と民衆心理ついて説いたかと思えば、独自の数式を用いて算術を解くなど教師も戸惑う非凡な才覚を見せつけながら、何故か勉学に拒否反応がある様で、貴族としてのマナーどころか公用文字ひとつ覚えようとはしないのだ。

特に王妃教育と聞くと途端に不機嫌になり手がつけられない。



所詮二人目育児と油断していた我々は大いに頭を抱えた。優秀な長男を育て上げた自信は脆くも崩れ去り欠片も残らなかった。長男が優秀なのは親である我々の手腕や環境整備の賜物ではなく、彼自身が大人しく大人の事情を汲んでくれる「育てやすい子」であったからなのだと今なら理解できる。やれば出来る子なのは間違いないのだ、ただどうやってやる気を引き出して良いのかわからない。



特に王妃に我が娘を推薦してしまった妻は毎日神経をすり減らしている。共に共通の問題について思い悩むことが増えたからか、新婚当時よりも今の方がずっと心の深い所で妻と寄り添い支え合っている様にさえ思う。



思えば、やれば出来る子というのは懐かしい言葉でもあった。領地経営に熱心であった曾祖父がよく私を表し言った言葉だ。彼は広大さと領民の数、そして重い税率によって体裁を保っている様な面白味の無い領地にうんざりしていた私に



「お前もこの領地も、やれば出来る子なんだよ」



と微笑みながら呟いた。当時は鼻白んだ気持ちで聞いていたが、今は何か琴線に触れるものがある。



やれば出来るのに何故やらないか?親である私が理解していない答えを、子供に求めて悩むのは間違っていたのだ。王宮での社交術を駆使した勢力調整が出来ているのだからそれで十分だと、領地経営に真剣に取り組んでこなかった自分の姿が、今の我が娘と重なる。



そうだ、真剣に領地経営に取り組んでみよう。



ただ思い悩んでいる娘の教育問題より、ずっと早く結果が出せるだろう。結果のでない堂々巡りに我々はすっかり疲れきっているのだ。とにかく何か成果と達成感が欲しい。私は気力が強く湧いて来るのを感じながら、妻の手をそっと握った。

娘に背中を見せて教育する方針へと転換しただけ…これは決して現実逃避ではない。
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