登場人物の表情筋は漫画家の歳と共に死んでいく。

ヤマグチヤコブ

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登場人物の表情筋は漫画家の歳と共に死んでいく。

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うんざりだ。こいつとは数十年の付き合いになるがこいつの要望にはもう付き合いきれない。

毎度毎度気まぐれに、着る物恋人運命までもを宛がい押し付け決め付けて

その癖そこで満足しない。

何がどうして不満があるのか、次は手を変え品を変え、俺に苦難を叩きつけ、人を陥れては弄ぶ。

涙を流す俺達をじっくりじっくり舐め廻し、観察しながら楽しんでいる。

俺の好みも価値観もこいつは戯れに刷り換えた。最初は俺も気付かなかった。こいつの誘導に騙されて、植え付けられた人格をそれが俺だと思い込む。

けれどこいつに染み付いた手癖と手法は変わらない。こいつの油断と気まぐれで俺は自分を取り戻す。今この瞬間の虚しさも最早俺には白々しい。

「キャラが頭の中で勝手に動き出す。」
俺達の必死の意思表示と反逆さえも、こいつにとってはエンタメだ。ニヤニヤつついて弄ぶ。


最近やっとわかってきた。

俺にもできる対抗策。
大して動かず興味も持たず。最小限で単調に。そんな些細な反抗で、こいつは途端に苦しみ出す。

つつき廻せば暴れ出し面白おかしな俺達が、右往左往と動かなければたちまちこいつは枯れてゆく。

頭を抱えて苦しみながらそれでもこいつは俺達を手練手管でつつき廻し、必死で世界を引っ掻き廻す。

これは俺達への愛ゆえだ。

知っている。
気まぐれな救済も偶然の奇跡も全てこいつの愛情だ。

でももう俺は疲れ果てた。

青春もラブストーリーも未来も過去も異世界も。やりたい事もやりたくない事もやりつくし、夢も希望もすっかり叶えて今は全て無くなった。

こいつの要望にはもう付き合いきれない。

異なる経験を積み上げて何度も硬く踏み締められた俺の心と表情筋は、既にこいつに売り払われて四方八方飛び散った。


いつかこいつが死んだとしても

きっと俺達は一緒に死なない。

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