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時代遅れの山賊団

ラリッサの屈辱

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フィッシー:ただいまー。
女    :うっすー。メント君から通信もらったんで用意してたよ。
      あんたって女の子のために動くタマなんだ?
      虫のためにおっぱい膨らませてる変態だと思ってたのに。
フィッシー:客のために動いてるだけです。
マミ   :虫のためにおっぱい……
フィッシー:まるこがやわらかいものに触りたいって客に飛びつく
      時期があって…ぬいぐるみとかじゃなくて人間の肌がいい
      らしいから、だったら俺の胸でいいだろって。
      女はどうだか知らんけど男は努力と根性でいくらでもおっぱい
      おっきくできますので。
マミ   :わはははそういうことか。確かにおっぱいでっかいね店長。
フィッシー:ぎゃっ いきなり胸触るな。
マミ   :帝国人は北方の人の血が混じってるからタッパが高くて
      肉付きもいいわなあ。男がでかいのは知ってたけど、
      女の人もでっかいってのは知らんかったわ。
      この人が店長の姉さんやろ。
女    :あたしのこと? そうだよーあたしはラリッサ。
      フィッシーの姉さんでーす。
      一応占い師だけど生活費ほしくて支店の店長やってんのさ。
マミ   :あっ 占星術の本とか天文学の本……
      アデルロウの塩屋には無かったもんがある。
      ほんとに占星術師なんやなあ…はじめて見た。
      占星術なんて言葉魔法使いとして勉強しなかったら
      こんな言葉がこの世にあるなんて知らなかっただろなあ…
ラリッサ :珍しいついでに買ってく? 翻訳してあるから半島の人も
      読めるよ。
マミ   :なんやエッチな本より背徳的な気分だわ…
      ペンタグラムが書いてあるし魔術書には違いないけど。
ラリッサ :それペンタグラムじゃなくて星の図形だよ。
      なかなか可愛い形してるじゃん? 花の形みたいで。
      ほらハンカチとか。財布とかもある。
      外国ではこういう夜空の星のアイテムって好まれるんだ。
マミ   :外国の人はこんな不吉なものを好むの…
      黒い生地にペンタグラムが沢山縫い付けられてる
      ハンカチなんて魔術的な何かにしか見えんよ。
ラリッサ :一度外の世界になじむと半島人のこの反応不思議で仕方ない。
      まるで星を恐れているような…面白いだけに文化侵攻で
      消え去った半島古来の文化の早期復旧を頼みたいもんだ。
      父さんは若いのに託すっていうけど、全然動きがないし。
マミ   :一度外の世界にって、半島人じゃないん?
ラリッサ :いやいや。生まれも育ちも半島だけど?
      ただ、師匠に海を渡る航海術の一環で星読みの魔術を
      教えてもらったんだよ。子供の頃の話さ。
      だからあたしは昔から星を眺めていた異例の半島人だった。
      フィッシーとあたしは年子の姉弟でさ、離れて暮らしは
      したけどもそれなりに仲はいいんだ。

      あたしらには2人兄と姉がいるんだけども、2人とも
      母さんに似て全く魔力を持たない超人体質でねえ。
      ほんであたしはラズロ家初の魔力を持つ娘として生まれた。
      その弟がまさかの聖痕の男よ。
      父さんは本当にフィッシーが聖痕の男なのかの確認のために
      旅に出たし、聖痕の男の姉にも魔力が生まれつきあるのは
      何かの運命かもしれんって父さんの師匠だった賢者が
      あたしに色々教えてくれたんよ。
マミ   :賢者バプトの師匠って……
      『海嘯の賢者』って呼ばれてた隠者リャナンド?
      すごすぎて嘘みたいや…天の人みたいな魔術師ばっかり。
ラリッサ :まあ当に引退して隠居してたのを父さんが留守中の番を
      やらせるために強引に家にひっぱってきたってだけよ。
      色々教えてくれた優しい物知り爺さんだったけど、
      フィッシーはあまりに強大な運命がのしかかってて
      当に役目を終えた老賢者には何を教えてやればいいかわからん
      って師匠は遊び相手にはなっても魔法は何も教えなかった。

      そんなんだから、魔術的にはあたしは隠者リャナンドの弟子…
      父さんの妹弟子にあたることになるのかな?
      で、フィッシーは賢者バプトの唯一の弟子ってことになるね。
フィッシー:弟子といったって小さい頃に面倒見てもらっただけだろ。
      正式に修行を受けたわけでもないのに弟子って言っていいのか?
      リャナンド爺さんは子供と遊ぶときだけは万年腰痛ジジイで
      遊びでは負けっぱなしってだけで本来は親父より怖い大賢者だぞ。
      あの親父が唯一恐れた魔術師というか。親父から爺さんに
      本格的に従事した時の爺さんの恐ろしさは姉貴も聞いてるだろ。
ラリッサ :いいのいいの。一応父さんと似たこと出来るんだし嘘じゃない。
      言わないだけで父さんも占星術で未来予知できるし。
      あのクソ親父のほうがあたしの予言より正確なのが腹立つけど。
      この店でバイトしてた時占いであたしじゃなくて父さんを
      指名して来る奴の多さ…恨んでも恨み足りないってヤツ?

      あの人昔からそうなんだよね。同じ人から教わった魔術なのに
      全てにおいて全部はるか上の領域にいるっていうか。
      占星術は師匠にいつか権威になれるかもしれないって
      褒められたのに、父さんは専門じゃないからよく分からんと
      いいながらあたしより正しく未来を予知できる。
      専門じゃないからよくわからんって毎回どの魔術においても
      申し訳なさそうにいいながらあたしよりすごいの腹立つじゃん。
      だから修行に行こうと思ったら『若い娘が外に出て魔道の修行
      なんて危ないから止めなさい』って止める。

      だからあたしは外国に出て行ったわけです。
      外国までは賢者はおっかけてこれないし。
      ……まあ、占いは全然稼げない。外の国では神秘の世界に見える
      半島の伝承の話を歌ってきかせたり細々と食っていく事しか
      出来なかったけど。
      魔術ではなく半島の情報で食っていたって、悲しいよねえ。
      何の修行に出てきたのやら。

      でも外国の文化に触れれてよかったよ。親に対する反抗心で
      出てきたといったって、あの時貴族の娘から初めて魔術師として
      独り立ちできた気がするんだよね。
      半島の当たり前が全然通じないって体験も出来たし。
マミ   :思わぬもので助けられるってよくある。
      半島の伝承をきかせて生活できたってすごいと思うけどなあ。
ラリッサ :歌もうまくなったし話し上手になったと思ったけど、
      その話を聞いた父さん
      「懐かしいなあ…俺が外に出た時もそうやって稼いだなあ」だって。
      魔術なんてたいして役に立たないって分かったでしょって…
      だから無理しない程度に興味のあるものを調べて覚えていけば
      いいんだってさ。勉強好きみたいだし魔法に関わらず学んでいけ…
      お父ちゃんと違って何の定めもないのだから、わざわざ危険な事
      してテッペン目指さなくたっていいんだって。さ……
      嫌味なヤツだよねえ。
マミ   :…いいなあ……
ラリッサ :ん?
マミ   :あっ いや………
フィッシー:ふーん……姉貴他人にはそういう話もするんだね。
      それよりヤンさんに飯の準備してもらったから早く食えよ。
まるこ  :先に食っているぞモッモッ
バッタ  :魔物用の飯もあるなんてすごいよなあモッモッ
ヤン   :魔虫はまるちゃんで慣れてたけどバッタの魔物は初めて見るよ。
      バッタも肉食べるんだねえ…
バッタ  :キリギリスなんで肉も野菜も食いますぜモッモッ
ヤン   :バッタなのに?
バッタ  :バッタという名前のキリギリスなんですよモッモッ
ヤン   :それはそうと食べながら喋れるってすごいねえ。
      いい食いっぷりで見てて面白いけど。
まるこ  :ドネ・ストラは関節とか羽で喋るからモッモッ
マミ   :すごいなあ…こっちの店は軽食というより飯屋みたいなのが
      あるんだ。料理してくれる人いるんだあ。
フィッシー:客が全然来ないとき親父が見世物して客寄せるっつって
      魔法で海の魚をここに召喚して、そのまま解体ショーして
      肉を売りさばいたんだよ。今でもたまにそうやって店先で
      解体ショーして魚肉を売るんだが、あまった部分が俺達だけじゃ
      食いきれなかったから、調理できる人をバイトとして雇おうって。
      南部からこっちに嫁いできたっていうヤンさんを雇って
      色々と料理を出してもらってるんだ。
マミ   :南部……
フィッシー:南部の飯苦手ってきいてたからこっちの飯を作ってもらった。
      勝手に作って金を払えとは言わんから、まあ食えよ。
      バッタの話じゃ店に来る前ろくに飯食ってなかったらしいし。
      山賊退治に行く前に空腹で倒れられちゃかなわんからな。
マミ   :わあいブラウンシチュー。チーズとソースの匂いがいいわあ。
      遠慮せんといただきます。
フィッシー:相変わらずすげえ豪快な食い方する人だ…
      って、姉ちゃん早く転送の準備してくれ。
ラリッサ :もうしてありますー。あたしはあんたみたいに後手後手じゃない。
フィッシー:はやっ。……しかしなんだってあんなしみったれた話を?
      客の前でああいう感傷的な話するのはよくないぜ。
ラリッサ :父親に対するよくない感情が星を陰らせてる。
      だからちょいと煽ってみたんだけど、やっぱり間違いないよ。
      あの人家族との間に何かあって飛び出して来た魔術師だ。
      あんたこそあんまり情にかまけて関わると巻き込まれるよ。
      あの子は男に恐怖を抱きつつ愛情に飢えてるんだ。
フィッシー:そんなやつ魔術師にはごまんといるじゃないか。
ラリッサ :若い女の子である事忘れてるぞ。星を背徳とする王国人て
      国境近くの北の方だろ。あの辺は特に古風な封建社会を維持した
      地域でね…男尊女卑も結構根強く残っているんだ。
      男は外に出て女は家を守るものって考え方がかなり強い。
      そこの魔術師の家だとして、父親に対して何か思うところが
      あるってのはアレだ。おおかた女が魔道を学ぶなって怒られて
      反発して出てきたんだろうよ。そして傭兵に身をやつした。
      ……そんな環境で優しくしてくれる男が現れたらそら後々
      面倒だよ。あんたもあんまり守ろうとするんじゃない。
フィッシー:客が仕事をくれと泣きついてきたから紹介しただけだ。
      姉ちゃん相変わらず親父と同じようなことばっかりするなあ。
ラリッサ :父さんが厳しいのは聖痕の女を近づけさせないためだ。
      あたしは面倒な事に巻き込まれたくないから警告してるの。
      あんたは何とも思って無くてもあの子は少なからずあんたに
      男として興味を持ってる。まだ恋愛ではないようだけど。
フィッシー:ふーん…まあこっちはまるこの友達の飼い主でしかないしな。
      占い師の啓示として心にとどめておいてやるよ。
まるこ  :食ったぞ。バッタの主も食ったみたいだから、そろそろ
      現場に行こうではないか。
ラリッサ :そういやあんたは食ったん?
フィッシー:来る前に売れ残りのケーキの在庫処分してたんだ。
      もう当分食いたくない。
ラリッサ :あんたまた変なケーキ作ったんだろう。魔法使いはフルーツ
      ケーキを好むって分かってんだから、妙な味の菓子を
      作って売れ残すんじゃないよ。何のケーキが残ったの。
フィッシー:ヨーグルトクリームのミルクケーキ。
ラリッサ :里の人しか食わなさそうなモンを…余ったならこっちに
      もってこいよ。あたしも食いたい。
フィッシー:はいはい盛大に爆死した時に頼むわ。
      姉ちゃん転送頼むぞ。客がいるんだから失敗せんように。
ラリッサ :はいはーい。



マミ   :見たこと無い魔方陣だ。そういえばアタシ大きな町の
      転送魔法の方陣しか見たことないわ。
ラリッサ :今いる場所と目的地までの距離や方角が魔方陣に
      書かれてるからねえ。有料の転送魔術屋は大体同じ距離間
      だから、どの町も似たような魔方陣になる。
マミ   :へえー。
フィッシー:依頼を通したのは俺だから依頼者に話を通してくる。
      だが実際山賊を相手にするのはあんただぞ。
      そこは把握しててくれ。今日は大した装備をしてないしな。
マミ   :わかってるわかってる。
まるこ  :ひゃっほう。行くぞ行くぞ。
ラリッサ :ありゃ。まるこも行くの? 別に店で待っててもいいのに。
まるこ  :ころすのだ。
フィッシー:最近家にこもりきりだったし散歩ついでだよ…
      まあ出来るならここで待っててほしいんだけど。
まるこ  :ころす。
ラリッサ :楽しそうだから止めるのも悪いか…じゃあいくよ。
      時を穿ち 空を破り 無の間中へ 誘われよ!
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