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第四話
しおりを挟む――――泣き疲れて眠ってしまったティナが目を覚ますと、もう日はずいぶん高くなっていた。
白いシーツの上、ぼんやりとした頭でゆっくり身を起こす。
ずっと付いていてくれたらしいロザリーが、ティナが起きたのに気付くと優しく笑いかけてくれて無言のままで紅茶を入れはじめる。
茶器に透明の液体が注がれるのを見ながら、ティナは姉を思い出した。
「ロザリーは、私のお姉さまに似ているわ」
「お姉さまですか?」
「えぇ。もうずいぶん前に嫁いで行ったから、何年も会っていないのだけれど。とっても素敵な私の憧れの人なの」
「まぁ、そんな方に似ているだなんて、光栄ですわ」
少し気恥ずかしそうにロザリーがはにかむ。
気の強そうなくっきりとした顔立ちと、凛とした格好いい立ち姿。
ティナと正反対に活発で溌剌とした性格。
だけどたまにこうやって笑うときは幼く見えて、可愛いのに格好いい、素敵な人。
どうやらティナの姉と、ロザリーは同じタイプのようだ。
(だから、こんなに安心できるのね)
ティナはずいぶん人見知り気味の性格なのに、彼女が居ると落ち着く。
まるで姉がそばに居るかのような感覚だ。
子供のころ。泣き虫のティナが泣いている間中、しっかりものの姉はいつもずっと傍にいて励ましてくれていた。
いじめられっ子にからかわれた時も。
転んで怪我をした時も。
夜の暗闇に怯えてしまった時も。
頭を撫でて泣きしめて「大丈夫よ」と優しい言葉をくれた。
そして泣き止んだティナに、彼女は必ず腰に手をあてて胸を張り、こう言っていた。
『ティナ。たくさん泣いて悲しいのを流した後、どう行動するかが重要なのよ』
正義感が強く勇敢で、いじめっ子の男の子たちにも怯むことなく向かっていった彼女らしい台詞。
思い出すと、子供にしてはおしゃま過ぎる決め台詞になんだか笑えてくる。
ティナの引っ込み思案な性格はなかなか治らなくて、結局彼女の足元にも及ばなかったけれど、姉みたいに強くなりたいと、ずっと思っていた。いや、今だって思っている。
(だから、泣き続けるのはだめ。これからどうするのかを考えなければ)
湯気がのぼり広がりはじめた紅茶の香りに、少し冷静さが戻って来たきがした。
たくさん泣いたことですっきりもしている。
助けてくれる姉がいない今、泣くのは終わりにして一人でも考えなければ。
「ティナ様、熱いのでお気をつけくださいね」
「えぇ、ありがとう」
差し出されたカップを受け取って、一口飲む。
実家で飲む紅茶とは少し違い渋みが強く色も濃い。
きっと種類が違うのだろう。
確か地域によって製造方法もまったく違ったはずで、慣れ親しんだものと味が違うのは仕方がない。
結婚したばかりでもう故郷の味を恋しく思っていることに、つい自嘲する。
初恋の勢いで、リカルドの傍にたくて、飛び出すように王都にでてきたのは自分なのに。
「どうすればいいのかしら」
「……?」
呟くとロザリーが怪訝な表情でティナを見たから、ティナは薄く笑って「何でもないの」と首を横へ振った。
「淹れてくれたお茶、美味しいわ」
「お口にあったのなら嬉しいですわ」
本当はティナには少し渋いけれど。
きっとこれがここでも『美味しい』なのだ。
「ねぇ、ロザリー。着替えを用意してもらえるかしら。病気でもないのに、こうして一日夜着を着ているわけにはいかないもの」
「かしこまりました。奥様をお迎えするにあたり、勝手ながらいくつかご用意はさせていただいておりますが、なにかご希望の衣装はございますか? それとも実家からお持ちされた衣装がよろしいでしょうか」
「詳しくないし、ロザリーにお任せするわ」
ティナのいた田舎と比べて、やはりこの王都はファッションが一歩も二歩も進んでいるのだろう。
しばらくはロザリー主導で選んでもらったほうが無難だと思った。
「それではお持ちいたしますので、少々お待ちくださいませ」
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