お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~

おきょう

文字の大きさ
42 / 46

42

しおりを挟む

「……私、リンさんとも、仲良くなりたい……です」
「まぁ」

 お隣さんと気まずいのは、もう嫌なのだ。
 そんなエリーの言葉に、リンは笑顔で頷いてくれる。

「私もよ。お話しで聞いてただけでも、頼りがいのある素敵で可愛い子だって知ってたけれど、実際に会うともっと好きになったわ。それにこんなに気持ちのこもったものを贈ってくれる、とってもいい子。仲良くしてちょうだい」

 続けて、ずいぶんゆっくりとした口調になって、リンは告げた。

「ジョナサンを、好きになってくれて有り難う」
「っ……」

 引きつった息が漏れた直後、あぁ、ばれてるのだと理解して、エリーは肩から力を抜いた。

(きっとジョナサンにも、知られてた)

 さんざんただの兄弟みたいなものと言い張っていても、本当に回りかわ見ればただの強がりだったんだろう。
 だからこそジョナサンは、婚約破棄の時にあんなに一生懸命に謝ってくれた。

 エリーは一度瞼を伏せて、小さく深呼吸したあと。

(……大丈夫)

 ゆっくりと瞼を上げて、何の気負いもないふっきれた満面の笑顔を二人に向けた。

「ううん。 私、ジョナサンよりリンさんのことの方が好きになったから! 何の問題もないです!」
「まあまぁ。うふふ」

 冗談半分、本気半分で宣言すると、リンは本当に嬉しそうにしてくれた。
 そしてエリーにおずおずと聞いて来る。
 
「あの、ねぇ、私、実はお裁縫が苦手で……何かこつとか教えてくれないかしら」
「是非! 今度お裁縫会しましょう!」
「まぁ楽しそう!」

 エリーのリンは、ずっと手を握り合ったままお互いに見つめ合い笑い合う。
 そして赤ん坊の服が作りたい、よだれ掛けも役に立ちそう、子どもと出かける為に機能的なバッグも捨てがたいと、色や形について盛り上がる。
 手芸の話が出来る同じ年頃の女性がお隣さんになっただなんて、普通に嬉しいこと。
 ついつい手芸について盛り上がって話し込む二人の間に、傍に立ち続けているジョナサンの入る隙は、もはや無かった。
 
* * * *

 
 ジョナサンと彼の奥さんであるリンと向かい合ったことで、エリーは初恋に区切りを付けた。

 もうまったく胸が痛まないといえば嘘になる。
 けれど、きちんと終わらせられたと思う。
 これからは、わざと生活時間をずらす必要もないのだ。
 

 それからエリーは、曜日によっては朝に外の掃き掃除に出ている彼らに朝の挨拶と雑談をしてから出勤するようになった。

 さらにしばらくの月日が経って、巫女のドレスを担当したということで、少しだけ技術を認められたのか、エリーは年末年始用で人前に出ることの多い王族の衣装を作る手伝いもさせて貰えるようになった。
 ただし、破いた兵の訓練着などの繕いものがやっぱりメインではあるけれど。

 エリーは、真面目に仕事に明け暮れた。
 その間に、年末はあっと今に過ぎ去っていく。

 毎年暮れの最後の日に、神殿ではその年に生まれた子供達に神の祝福を授けるための神事が行われてきた。
 『生誕の儀』と呼ばれるもので、国内各地に何百もあるどの神殿でも受けられる。
 王都では王城敷地内の大神殿で執り行われるのだが、今年は神官長ではなく龍神の巫女である美湖が、子供たちへ順番に祝福を贈るらしい。

 筆頭服飾師ディノスの作った祭事用の純白の正装に身を包んだ美湖はとても美しく、傍らに寄り添う神龍はとても威厳溢れるいでたちだったと、出席した子供の親たちは興奮気味に口々に話すのだった。



 ――そして、年が明けてから三日目のこと。

 新たな年の幕開けに、周囲は沸き立っていた。
 そんな中、夕方から王城の大広間で始まる新春パーティーに向け、エリーは美湖の身支度を手伝っている。
 
「……いいねいいねぇ」

 エリーはドレス姿の美湖を五歩ほど離れた場所から眺め、緑の瞳を煌めかせたいた。

「美湖様、回って回って!」
「こう?」

 くるっと回って見せてくれた美湖……ではなく翻ったドレスに歓声を上げ。

「いいねぇ。次、広げて!」
「はい!」

 裾を摘まんで揺らしてもらった、その生地の艶やかさにうんうんと頷いた。

「さいっこうです!」

 思わず手を握りこんでガッツポーズを決めてしまう。
 

 ついに、エリーのドレスが使われる時が来たのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

婚約破棄された令嬢は、選ばれる人生をやめました

ふわふわ
恋愛
王太子フィリオンとの婚約を、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された令嬢・セラフィナ。 代わりに選ばれたのは、 庇護されるだけの“愛される女性”ノエリアだった。 失意の中で王国を去ったセラフィナが向かった先は、 冷徹と噂される公爵カルヴァスが治めるシュタインベルク公国。 そこで提示されたのは―― 愛も期待もしない「白い結婚」。 感情に振り回されず、 責任だけを共有する関係。 それは、誰かに選ばれる人生を終わらせ、 自分で立つための最適解だった。 一方、セラフィナを失った王国は次第に歪み始める。 彼女が支えていた外交、調整、均衡―― すべてが静かに崩れていく中、 元婚約者たちは“失ってから”その価値に気づいていく。 けれど、もう遅い。 セラフィナは、 騒がず、怒らず、振り返らない。 白い結婚の先で手に入れたのは、 溺愛でも復讐でもない、 何も起きない穏やかな日常。 これは、 婚約破棄から始まるざまぁの物語であり、 同時に―― 選ばれる人生をやめ、選び続ける人生を手に入れた女性の物語。 静かで、強くて、揺るがない幸福を、あなたへ。

婚約破棄追放された公爵令嬢、前世は浪速のおばちゃんやった。 ―やかましい?知らんがな!飴ちゃん配って正義を粉もんにした結果―

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢にして聖女―― そう呼ばれていたステラ・ダンクルは、 「聖女の資格に欠ける」という曖昧な理由で婚約破棄、そして追放される。 さらに何者かに階段から突き落とされ、意識を失ったその瞬間―― 彼女は思い出してしまった。 前世が、 こてこての浪速のおばちゃんだったことを。 「ステラ? うちが? えらいハイカラな名前やな! クッキーは売っとらんへんで?」 目を覚ました公爵令嬢の中身は、 ずけずけ物言い、歯に衣着せぬマシンガントーク、 懐から飴ちゃんが無限に出てくる“やかましいおばちゃん”。 静かなざまぁ? 上品な復讐? ――そんなもん、性に合いません。 正義を振りかざす教会、 数字と規定で人を裁く偽聖女、 声の大きい「正しさ」に潰される現場。 ステラが選んだのは、 聖女に戻ることでも、正義を叫ぶことでもなく―― 腹が減った人に、飯を出すこと。 粉もん焼いて、 飴ちゃん配って、 やかましく笑って。 正義が壊れ、 人がつながり、 気づけば「聖女」も「正義」も要らなくなっていた。 これは、 静かなざまぁができない浪速のおばちゃんが、 正義を粉もんにして焼き上げる物語。 最後に残るのは、 奇跡でも裁きでもなく―― 「ほな、食べていき」の一言だけ。

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

【完結】私だって、幸せになりたい

鈴蘭
恋愛
 弱小国家だが平和な国に、マルゲリーターと名付けられた一人の公爵令嬢がいた。  マルゲリーターは、婚約者であり第一王子でもあるアルフレッドに初めて会った時から一目惚れをしており、一途に彼だけを思い続けている。  しかし素行の悪さから国王生誕祝賀会で、婚約の破棄を告げられてしまった。  アルフレッドは、マルゲリーターの腹違いの妹に心を移しており、祝賀会では楽しそうに二人で踊っていたのだ。  失恋をして心を塞いでしまったマルゲリーターだったが、更に追い打ちをかける出来事が待っていた。  このお話は、すり替えられた公爵令嬢に出てくる、悪役令嬢だったマルゲリーターが主人公です。  失意のどん底から、幸せを掴むマルゲリーターを、是非見てください(^^♪  最終話まで予約投稿が完了しております。  

「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」 その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。 わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。 そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。 陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。 この物語は、その五年後のこと。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...