私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)

桧山 紗綺

文字の大きさ
5 / 47
回想

回想 中等部編 4

しおりを挟む
 寮の自室で教科書を開いてテスト範囲の勉強をする。
  いい成績を取らないように赤点を取らないようにするラインを教科ごとに見極めるのは、もはやただの作業と化していた。
  一人きりの寮室は誰にも気を使わなくて済む。
  第二と自室の中だけは自分を隠さなくていいので思う存分予習をすることができた。
  二人部屋を一人で使っている理由はリシアと同室になりたがる子がいないから。
  伯爵家に取り入りたい人にとっては伯爵家族と不仲であるリシアと仲良くしてもしょうがない。
  伯爵家と関わりたくない人にとっては傍に居ると目を付けられるかもしれない危険人物として警戒される。
  結果二人部屋に独りということになっていた。
  夜の時間を自分の為にだけ使えるのでとても助かっている。
  寮に入って本当によかった。
  伯爵家では自室にいてもメイドや姉に見られる危険があって先の範囲の勉強はできなかったから。
  多少の制限はあるけれど学園では存分に勉強が出来て満足している。
 (先生のアレはやり過ぎだとおもうけど)
  この前見せてくれた本は貴重で興味がとてもそそられた。
  驚愕に叫びたくなったのも確かだけど驚きが消えたら興味の方が勝ってた。
  魔法は普通の人間には使えない。
  この世界の誰もが魔力を持っているのに、魔法と言われる力を行使できるのは”魔法使い”と言われる人たちだけ。
  通説では魔法使いの血統しか魔法を使えないと言われている。
  ただあんな本があるからにはそれは完全に正しいと言うわけではなさそう。
  先生は何であんな本を持ってきたのか。
  後々聞いたら先生の私物だと言っていた。
  所持がバレたら先生だって処分を受けるかもしれないのに。
 (もしかして私の為…? まさかね…)
  秘密を晒すことでリシアに自分の弱点を掴ませた、なんて思うのは都合の良い妄想なのか。
 (ああ…、でも、もしそうだとしたら…)
  先生にどんな顔をして会えばいいかわからない。
  そうまでして約束を守ると言ってくれたのなら、自分はどうすればいいのか。
  そもそも先生がわざと本を見せたなんていうのはリシアの想像にすぎない。
  けれど、それでも…。
 「信じたい……」
  言わないと誓ってくれた人。君は悪くないと言って抱きしめてくれた人を信じたい。
  心はもう信じたいと叫んでいる。
  先生が貸してくれた本を見ながらため息を吐く。
  信じる、と一言声に出せたら変われると思うのに。
  開いた口から出るのは深い溜息だけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄した王子が見初めた男爵令嬢に王妃教育をさせる様です

Mr.後困る
恋愛
婚約破棄したハワード王子は新しく見初めたメイ男爵令嬢に 王妃教育を施す様に自らの母に頼むのだが・・・

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

覚えてないけど婚約者に嫌われて首を吊ってたみたいです。

kieiku
恋愛
いやいやいやいや、死ぬ前に婚約破棄! 婚約破棄しよう!

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

短編集

天冨 七緒
恋愛
異世界の ざまぁ 逆転劇 ヒロイン潰し 婚約解消後の男共 などの短編集。 一作品、十万文字に満たない話。 一話完結から中編まであります。 長編で読んでみたい作品などありましたら、コメント欄で教えて頂きたいです。 よろしくお願いします。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...