私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)

桧山 紗綺

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卒業後

テスト後

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 テスト発表も終わって数日。
 リシアは学園の一室でぼうっとしていた。
 学園外講習、通称遠足という校外学習へ生徒たちが行ったため、学園内は普段より静かで、リシアの仕事も少ない。
 エマリエさんは見事に16位という成績で何の憂いもなく出発して行った。
 10位以上の人は殆どが幼い頃から家庭教師などを付けて勉強している。
 意外なことに先生も一緒に学園外講習についていくことになっていた。
 卒業して職員として働き始めてから初めて先生と長く離れている。
 長くといってもたった数日のこと。
 それなのに、どうしてか不安な気持ちになる。
「さみしい、ってこういう気持ちなのかな」
 落ち着かなくて、不安で、姿を探してしまう。
 留学中はそこまで淋しいと思ったことはなかったはずなんだけど。
 どうしても耐えられない時は魔道具で話したりしたこともあったけど、どちらかといえば恥ずかしい結果を残さないように頑張ろうと思っていた気がする。
 離れていることは逆に力になっていたはずなのに。どうしてだろう、今は気持ちが落ち着かない。
 そして不安は的中する。


 応接室に入ると父親と…。
 見たことのない女性がいた。
「平凡な子ね」
「取り立てて目立ったところのない娘だが貴女の欲しいのはそういう娘だろう?」
 二人だけで会話をしている。
「リシア、この方はお前の新しい雇用主となる」
 意味の分からないことを言われた。
「私はすでにこの学園の職員として働いているのですが?」
「学園には私から届け出を出しておく。 心配はいらない」
 話が通じないとは思ったけれどここまでだったなんて。
 父親と話をしたのは間違いだったかと一瞬過る。
「伯爵様、まずは自己紹介からさせてくださいな」
 女性がにこやかな笑みを張り付けて父親に断り、リシアに挨拶を始めた。
「初めまして、私は侯爵家の侍女頭をしているリン・ガネルよ。 よろしくね」
 よろしくする理由がないのですが、どう返したら良いんでしょうか。
 無難に頭だけ下げる。
「侯爵家で侍女として働いてくれる人を探しているの」
「そうですか」
「光栄に思え、庶子のお前が侯爵家で働けるなんてそうそうないことなのだぞ」
 どうしよう、父親は物忘れの病でも発症したのだろうか。
 心配は全くしていないが、交渉が出来ないと困ると思っていると、一瞬目の前の女性が眉を顰めた。
 庶子、の部分で反応して、お前が言うな、という顔をしていた。何か思うところがあるのでしょうか。
「お父様、繰り返しますが私はこの学園の職員です。 他に行く気はありません」
 あるとしたら先生のお嫁さんになったときだ、と考えて恥ずかしくなる。
「そんなもの私が許さないと言えば反故できる」
 話もしないで女性を連れて来た理由がわかった。溜息を禁じ得ない。
「無理です」
 それをリシア考えなかったと思っているなんて、馬鹿にしている。
 あんなはっきりと宣言して反抗して見せたのに、子供のわがままだと思っていたなんて。
「ガネル様、時間をいただいたようで申し訳ないのですが、私は侯爵家で働く気はないのです」
「まあ、断られてしまったわ」
 どこか面白そうな声で言う。どうやって切り抜けるつもりなの?と目が聞いていた。
「私と学園の雇用契約は『誓約書』にて交わされています」
 リシアの言葉に父親が眼を剥く。
『誓約書』とは古代の魔道具の一つでその魔道具を用いて交わした契約、誓約はお互いの同意がなければ破棄が出来ない。
 リシアに破棄するつもりがない以上、父親が何を言っても反故は出来なくなっている。
「まあ…、『誓約書』を持ち出すなんて、さすが学園ねえ」
 驚きながら感心しているガネル様と驚愕に顔を染めている父親。
「伯爵様、こうもはっきり言われては私は引き下がらなければなりませんわ。 このお話はなかったことに…」
「ま、待ってくれ、これは…」
 何を言っても無駄だとわかっている女性は父親に一礼して応接室から出て行った。
 立ち去るのが早すぎて父親も止めきれない。
 閉まった扉をなすすべもなく見つめた後、怒りの顔でリシアに向き直った。
「貴様は本当に愚かな娘だ…! 『誓約書』がどのような物かも知らずに…!」
「知っています。 その上で誓約を交わしたんです」
『誓約書』は呪いの魔道具とも言われている。
 どんな内容でも・・・・・・・お互いの同意があれば成立し、一度成立したら成就するか破棄するまで誓約に縛り付けられる。
 真っ当な内容でもその強制力の強さに忌避されるものだった。
「少しは私の本気をわかっていただけました?」
 首を傾げて聞くと父親が不気味な物を見るような目でリシアを見る。
「お父様には私を説得する・・・・材料はないかと思います」
 真剣に考えてもらえないでしょうか?そう続けると今度こそ父親はしっかりとリシアを見返した。
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