私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)

桧山 紗綺

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卒業後

メイローズ先生の行きつけ

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 朝から色々なお店に連れて行ってもらう。
 メイローズ先生は長く学園にいるので街のお店にも詳しかった。
 一日街を回って最後にメイローズ先生が案内してくれたのは一軒の飲食店。
「ここが私の行きつけの店よ」
「わあ…」
 落ち着いた照明の店内を見回して溜息を吐く。
 カウンターと小さなテーブルだけの落ち着いたお店だった。
「かっこいいお店ですね」
 リシア一人では気後れしてしまうような大人な雰囲気をしている。
 お店の奥のテーブル席に座ってメニューを開く。
「リシアさんはアルコール抜きね」
 手渡されたメニューにはよくわからない名前が並んでいる。
 説明を見ると何種類かのジュースを混ぜた物みたい。
「じゃあこれで」
 メニューを指差すとメイローズ先生が注文をしてくれる。
 運ばれた飲み物はどれも透き通ってカラフルだ。
「キレイです…」
 こんなの見たことがない。
「じゃあ乾杯しましょうか」
 グラスを鳴らして飲み物を口にする。
 甘みと酸味がバランスよく混ざり合ってとてもおいしかった。
「メイローズ先生はよくここに来るんですか?」
「そうね、休みの日には時々来るわよ。
 ここはお酒もおつまみもおいしいし、雰囲気もいいから」
 メイローズ先生の言うとおり運ばれてきた料理も美味しそう。
 ふわふわした卵料理には香草が入っていてちょっと癖のある味だったけれどとてもおいしかった。
 アルベール先生も口に合ったようで料理を食べながらグラスを傾けている。
 お酒を飲む姿が色っぽくてひっそりとときめく。
 視線に気づいて先生がリシアに流し目を送ってくる。
 凄絶な色気に思わず視線を外すと喉の奥で笑う声が聞こえた。
 笑い声に気付かなかったメイローズ先生がテーブルの上でグラスを傾ける。
 驚くことにもうグラスを半分にしていた。
 お酒に強いんだと感心していると少しだけ申し訳なさそうな顔でリシアとアルベール先生を交互に見る。
「今日は急に誘っちゃってごめんなさいね。
 ちょっとリシアさんに話したいことがあって」
「私にですか?」
 わざわざ学園外で話すことって…?
 しかもアルベール先生も一緒に。
 アルベール先生をちらりと見るとメイローズ先生が苦笑する。
「アルベール先生にも関係のあることよ。
 留学するときアルベール先生がリシアさんの推薦書書いていたでしょう?
 リシアさんの家庭の事情にも詳しいでしょうから話を聞きたいの」
 先生と目を見合わせる。そんな真剣な話なんて想像つかなかった。
「夏休み実家に帰った時に聞いたんだけど、リシアさん伯爵家に黙って留学していたの?」
 意外な質問に目を瞬く。
「はい、特に何も相談せずに行きましたけれど…。 何か問題がありましたか?」
 父親に黙っていたからといって卒業資格には問題ないと思うのだけれど。
「ああ、違うわよ。 伯爵家の方がリシアさんが留学したことを知らない話しぶりだったから気になって。
 地方都市にいたとかよくわからないことを言っていたのよ。
 留学先にも問い合わせたけれどリシアさんが在籍していたのは間違いないとわかっているわ。
 その方の勘違いにしても、こんなこと学園内では話せないでしょう?」
 メイローズ先生の話を聞いて頷く。
 学歴を詐称しているなんて噂が流れたら困ってしまう。
 せっかく生徒のみんなとも信頼関係が出来ているのに、軽蔑の瞳で見られたら…、悲しすぎる。
「反対されると思ったので黙っていましたけれど、留学したのは間違いないですよ」
 メイローズ先生の目がアルベール先生に向かう。
「ええ間違いありませんよ。 私が書いた推薦書は一枚だけです。
 留学書類は全てリシアが書いたので伯爵に用意してもらう必要はありませんでしたから。
 …伯爵に伝わらないようにはしましたけれどね?」
 アルベール先生がそういった気を回してくれたからリシアは三年間充実した生活を送れたんだと思う。
 父親が魔道具頼みで実際のリシアを確認しようとしなかったからもあると思うけれど。
 メイローズ先生が安堵したように大きなため息を吐く。
「あー、良かった…。 そんな話聞いたから色々考えちゃった。
 まさかないと思ったけれど、替え玉留学なんてあったら洒落にならないものね」
「そんな心配してたんですか?」
 予想もしない疑惑を掛けられていたと知って驚きに声を上げる。
「疑ってたわけじゃなくて可能性の一つよ。
 学園の勉強についていけなくて地方都市に行ったとか妙に具体的な話ぶりだったのよ。
 本当はその逆なのにねえ?」
 メイローズ先生が首を傾げる。
 リシアも一緒に首を傾げた。
 魔道具が移動したことは父親の中でそう解釈されたんだろうか。
 ずっと成績を偽ってきた甲斐があった…、かな?
 頭を捻って予想してみるけれど正解はわからない。
 リシアが考えるのを止めたところで、メイローズ先生が手を叩く。
 晴々した顔でメニューを出して次の飲み物を選び始める。
「ほっとしたらノド乾いちゃったわ。 ほら、飲んで飲んで」
 三分の一程になっていたグラスを一気に飲み干す。
 メイローズ先生は強そうだと思うけれど、お酒ってそんな飲み方して大丈夫なものなんでしょうか。
 疑問を口にする前にメイローズ先生は追加のお酒を頼んでいた。
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