36 / 36
番外編
幸せな夫婦の幸せな夜
しおりを挟むエリレアとシオネの結婚式が終わり宿へ向かう。
めったにない大規模な慶事のため王都の人出は多く、あちらこちらで祝福の声や喧騒が聞こえてくる。
式までは王宮に泊まったけれど、明日早く発つため今夜は王都の宿に泊まる。
お父様は渋っていたけれど、お母様はせっかくだから祭りの王都の雰囲気を少しでも楽しんでいきなさいと送り出してくれた。
馬車からも灯りの下げられた屋台や行き交う人々の楽し気な様子が見える。
日が暮れてさらに人出が増えたのか中々進まないけれどちっとも退屈はしない。
人を巧みに避けながら流れに乗り目的の場所へ進む人や人気で混み合う屋台にするりと近づき一言二言交わして買い物を済ませる人々を心の中で賞賛する。
アクアオーラがあの中に入ったらどうしていいかわからなくて流れの邪魔になるし、欲しい商品があっても売り子に中々声を掛けられないと思う。
そしてほぼ確実に迷子になる。
アイオルドと外に出るようになって判明したことだけれど、アクアオーラはあまり方向感覚がすぐれていないようで、路地を一本二本入って目印の建物が見えなくなるともう自分がどこに向かっているのかわからなくなる。
一人で出歩くことはないためそれほど困らないけれど、あの人波に入ったらもう帰って来れないのではないかと思うほどには苦手な自覚があった。
「アクアオーラ、疲れてない?」
「いいえ、大丈夫よ」
結婚式の間も時々体調を気遣ってくれたおかげか疲れは感じていない。
「よかった、もうすぐ着くよ」
アイオルドの指す先に宿を覆う大きな壁が見えてきた。
門の中に入り馬車を降りる。
要人御用達という宿は落ち着いた空気で周囲の喧騒が遠く感じるほど。
宿の主に案内された部屋もシンプルながら上質で心地よさそうな空間だった。
夕食の説明はされなかったけれど、祝宴で長い時間色々摘まんだので空腹というほどでもない。
軽食で済ませるのかと思っているとアイオルドに庭へ誘われた。
手を引かれるままについて行くと幻想的な灯りの下にいくつもの屋台が見えた。
「驚いた?」
「ええ、これは?」
「警備の問題から王都の祭りには参加できない宿泊者に少しでも雰囲気を楽しんでもらおうって、いくつかの店に働きかけて宿の中に出店してもらってるんだって」
良い試みだよねと屋台を眺めるアイオルドに口を緩ませる。
「内緒にしてたの?」
泊まる宿でこんなことをしているなんて聞いていなかったわ。
「もしかしたら王都の祭りの方に行きたいって言うかなと思って」
ゆったりとした笑みを浮かべるアイオルドにもう、と笑みを浮かべる。
行きたいって言ったら行かせてくれるつもりだったのよね。控えている護衛の一人が渋い顔をしているのが目に入った。
絡めた腕に頬を寄せる。
「ゆっくり楽しめそうで、うれしいわ。
ここを選んでくれてありがとう」
端から見ていきましょうと誘うと嬉しそうに笑った。
ぱちぱちと爆ぜる炭の音に肉や野菜の焼ける香ばしい香りが漂ってくる。
焼けるところを見学していると焼けた料理はテーブルまで運んでくれるという。
串から外された肉と食べやすく切られた野菜は外の屋台とは違うのかもしれないけれど。
外から微かに届く祭りの喧騒を聞きながら焼きたての味を楽しむのはとても贅沢な気分だった。
庭での食事ということもあり砕けた雰囲気の食事はとても楽しく、何組かいる他の宿泊者も興味深そうに普段は味わえない食事を楽しんでいる。
雰囲気もさるものながら料理自体もおいしくてアクアオーラも普段よりも多く食べ過ぎてしまったくらいだった。
食後にまた屋台を眺め、アクセサリーを見たりしながら散歩をする。
ゆったりとした空気の流れる空間はとても心地よかった。
そろそろ休みましょうかと促すとそうだねと口元を緩める。
とろんとした目は眠気のためかお酒のせいか、アイオルドは結婚式の間も相手に会わせてグラスを傾けていたからもしかしたら酔っているのかもしれない。
部屋に戻ると倒れるようにベッドに横になる。
大きなベッドの端から落ちそうになっているので転がそうと身体を押すと身を起こして腰に抱き着いてきた。
「もう一泊しちゃおうか?」
良い宿で心地の良い夜を過ごし、慌ただしく旅立つのがもったいなくなったと零すアイオルド。
見上げる瞳が理性と欲望の狭間で揺らめいていた。
髪を梳くように撫でながら微笑みを返す。
「アイオルドの好きなようにしたらいいわ」
望む答えを返すと嬉しそうに微笑み手を伸ばす。
引き寄せる力に抗わず唇を重ねる。
甘やかに絡められる腕に応える幸せ以上に優先するものはなかった。
Fin.
長くなりましたが番外編もこちらで完結です。
最後まで読んでくださってありがとうございました。!!
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」
だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。
「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。
エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。
いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。
けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。
「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」
優しいだけじゃない。
安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。
安心できる人が、唯一の人になるまで。
甘く切ない幼馴染ラブストーリー。
商人の娘でしかない私が、騎士様のそばにいる方法
ナナカ
恋愛
ねぇ、ジョシュア様。
妹の役目を続けていれば、あなたのそばにいてもいいですか?
プラチナブロンドに甘い容姿の騎士ジョシュア様は貧乏貴族出身。直接の血の繋がりはないけれど親類と言えなくもないから、商人の父は張り切って援助をしている。
そんな付き合いが十年以上続いていて、私たちは一緒にドレスを見に行ったりもする。でもジョシュア様にとっては私は今も小さな子供で、妹様たちの代わりでしかないらしい。……私はもう二十歳で、行き遅れの年齢になっているのに。
※他所で連載した「あなたとレースと花嫁衣装」を一部改稿したものです
婚約破棄おめでとう
ナナカ
恋愛
「どうか、俺との婚約は破棄してほしい!」
公爵令嬢フィオナは、頭を下げる婚約者を見ながらため息をついた。婚約が破談になるのは通算7回目。嬉しくとも何ともないが、どうやらフィオナと婚約した男は真実の愛に出会ってしまう運命らしい。
もう完全に結婚運から見放されたと諦めかけたフィオナに声をかけてきたローグラン侯爵は、過去にフィオナの婚約を壊した過去がある男。あの男にだけは言われたくない!と奮起したフィオナは、投げやりになった父公爵の許可を得て、今度こそ結婚を目指すことにした。
頭脳明晰な美女なのに微妙にポンコツな令嬢が、謎めいた男に邪魔されながら結婚へ向かう話。(全56話)
※過去編は読み飛ばしてもほぼ問題はありません。
新しいもの好きな私と伝統が大事な彼のすれ違いと歩み寄り
桧山 紗綺
恋愛
私は新しいものが好き。
商店に並ぶ見たことのないデザインのアクセサリー、季節のフルーツを使った新作のケーキ、職人が生み出す新しい模様のレースなど。
どれも見ているとワクワクして、こんな素敵なものがあるのと他の人に教えたくて仕方ない。
でも婚約者は私が次々に新しい物を身に着けているのが好きではないみたい。
浪費ではないのだけれど、難しい。
けれどある日のお茶会をきっかけにお互い歩み寄ってみると一緒に過ごすのは意外と楽しくて……。
◆家風の違う婚約者とのすれ違いと歩み寄りの話です。
わだかまりはわりとすぐ解けて婚約者同士でイチャイチャしてます。
15話+番外編1話。
完結しました!
お付き合いくださった皆様ありがとうございました。
セイレーンの家
まへばらよし
恋愛
病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ありがとうございます!
疲れちゃうときにちょっとでも幸せに浸れる物語になれてたら嬉しいです。
王妃様張り切っちゃう合同結婚式、いいですね。
王女3人が集うとても華やかなものになりそうです。ちょっとお時間いただいてしまうかもしれませんが書いてみたいです!
ありがとうございます!
お二人の感想で王妃様の怒れる様子がちらっと浮かんできたので膨らませられないか頑張ります≧▽≦
ありがとうございます(^^)
政略に見せかけて3人ともしっかり恋してます。
王妃様も余計なこと言ってはいるんですけれどそれとこれとは別らしいです(笑)