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9.悪意の妨害
しおりを挟む何度か日を変えて試したところ問題なく使えた。
祭事の責任者であるエリレアにも話をして前日に設置をすることで使用の許可が下りる。
これで障害は何もない。
設置にはアイオルドの力が必要なためアイオルドは祭事の前日から王宮に泊まり込むことになっていた。
異変が起こったのは祭事当日。
準備で人々が動き出す前、未明の時間だった。
太陽が空に姿を現す前、舞台へ近づく人影に冷たい声が飛んだ。
「何をしに来たんだ」
弾かれたように振り返り驚愕の表情でアイオルドを見つめるのは、アクアオーラに舞を勧めたあの女性。
「アイオルド様っ?!」
動揺に声を上擦らせ、手にしていた物を背後に隠す。
控えていた兵士が手を掴み隠そうとした刃物を奪った。
「ふーん、幕を破って使えなくするつもりだったみたいね」
エリレアも厳しい表情で女性を見下ろす。
祭事の舞手として王宮に滞在が許された女性が一人姿を消したとの報告を受け捜索していたら、この暴挙である。
「なんのつもり?
祭事を汚すつもりだったの?」
「違いますっ! ただ……っ」
唇を噛んで俯く女性がアクアオーラを睨む。
「ただ、許せなかっただけですっ!
王族というだけでアイオルド様を縛ってっ、あんな子供の頃のことで酷い!
祭事の舞もできないほど身体が弱いなら結婚なんてしないでずっと閉じ篭っていればいいじゃない!」
苛烈なほどの感情をぶつけて叫ぶ姿にもアイオルドは眉一つ動かさない。
その冷たい目に女性が息を呑み、アクアオーラへ憎しみの目を向けた。
兵士に牢に入れるように指示を出そうとしたエリレアを止める。
「エリレア。
彼女を捕まえるのは待ってほしいの」
「え?」
「アクアオーラ、どうして!?」
エリレアよりもアイオルドが激しい拒否感を表した。
首を振って落ち着かせるようにじっと瞳を覗き込む。
「違うわ、許してと言っているんじゃないの。
ただ、彼女にも私の舞を見てほしいだけ。
私を憎んで否定するのは彼女の自由だけれど、知らないで一方的に非難されるのは嫌だわ」
アクアオーラの主張を聞き終えたエリレアが一つ息を吐いて了承を示した。
「わかったわ、今は捕縛しない。
兵士を側に付けて遠くから見られるようにする。
けれど彼女は今回の舞からは外すわ。
これは取り仕切る責任者としての判断よ、祭事を汚そうとした者を女神様の御前に上げるわけにはいかない」
険しい声で譲歩はここまでだと伝えるエリレアに頷く。
罪を許すかどうかはアクアオーラの権限にない。全てエリレアに任せた。
「勝手なことを!
なぜ?! 私を詰って牢に繋げればいいじゃないの!」
食って掛かる女性に兵士が警戒を強める。
何故か……?
「そうね、理由としては……。
アイオルドを低く見たことを撤回してもらいたいから、かしら」
「え?」
アクアオーラの発言が意外だったのか女性のみならず、アイオルドもエリレアも目を丸くしている。
「だって、私のような者を娶ったらアイオルドの価値が下がると思っていたのでしょう?
だから知ってもらいたいの。
私が嫁してもアイオルドは素敵な人よ、って」
可哀想でも不運な人でもないの、と言外に告げる。
むしろ今回のことでアイオルドの素晴らしさが広まるんじゃないかしら。
準備期間も短い中でこれだけの物を作ったのだもの。以前から取り掛かっていたとはいえ中々できることではないと思う。
「彼の溢れるほどの才能と情熱に変わりはないもの」
ね?とアイオルドに微笑むと反対していた顔が仕方ないといった表情を浮かべる。
「才能も情熱も君が育ててくれたものだ。
君の存在がなければ俺は今よりずっとつまらない男だったよ」
「そんなことはないんじゃないかしら」
アイオルドほどつまらない人という言葉から遠い人はいないと思う。
けれど、アクアオーラがいなければ違う人生を歩んでいたのは確か。
彼がここまで言ってくれるんだもの。私もみっともないところは見せられないわ。
女性の目が大きく見開かれ、呆然とアクアオーラたちを見つめている。
抵抗が止み静かになったところでエリレアが兵士に指示を出し、時間まで閉じ込めておくように言い渡していた。
アイオルドと舞台の点検を大急ぎで済ませ、兵士に場を任せて立ち去る。
大きな行事にトラブルは付き物だというけれど。
問題なく片付いてよかった。
舞順などの変更に頭を悩ませているエリレアを余所に、アクアオーラはゆったりとした気分で本番を迎えた。
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