常夏の国の冬の姫

桧山 紗綺

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番外編

日常とはかくも甘い

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 湯を浴びて寛いでいたら、同じように湯を浴びたアイオルドが戻ってきた。

「アクアオーラお願いしてもいい?」

 差し出してきたタオルを受け取って水滴を拭う。
 こうして髪を拭くのも慣れてきた。
 最初の頃は慎重すぎてとても時間が掛かっていたけれど、そのときもアイオルドはじっと待っていてくれた。使用人に任せた方が早いとわかっていても。
 アイオルドの珍しい甘えに胸がくすぐられる。
 いつもアイオルドにしてもらってばかりだから、こうして好きな人のために何かできるのがとてもうれしい。
 後ろの髪を拭き終えて頭上に手を伸ばす。
 アイオルドは背が高いので傾けてもらえないと頭の上を拭くのは大変。

「アイオルド座ってもらっていいかしら」

「ん? うん」

 言われるがままにベッドに腰を下ろしたアイオルドの頭をタオルで包む。
 これで拭きやすくなったわ。
 乾いたタオルに水滴が移り湿っていく。
 目を閉じてアクアオーラに身を委ねている姿を見ていると愛おしさがこみ上げてくる。
 綺麗に拭い終えたところでふと衝動が胸を突いた。

 アイオルドはまだ目を閉じている。

 わずかな逡巡が浮かぶけれど。
 それよりも大きな気持ちがアクアオーラを動かす。
 目を開ける前にとタオルを首の後ろにかけたままそっとアイオルドの頬にキスをした。
 ぱち、と開いた目は大きく見開き驚きを表している。
 ごめんなさいと口を突きそうになったアクアオーラをアイオルドがぎゅうっと抱きしめた。

「アクアオーラ、今のって」

「アイオルドを見ていたらキスしたくなってしまって」

 胸の中がふわふわする。
 恥ずかしさもあるけれどキスしたい気持ちの方が大きかった。
 アクアオーラの返答にうれしそうに笑ったアイオルドがおねだりをしてくる。

「もう一回して?
 今度は目を開けてるから」

「そんな、恥ずかしいわ」

 期待に満ちる目がアクアオーラを見上げている。
 腰を抱かれてどこへも逃げられないままのお願いにアイオルドを見つめ返すしかない。
 きらきらと琥珀色の瞳を輝かせる様子に頬の熱が上がっていく。
 ゆっくりと顔を近づけていくと瞳に宿る期待が強まった。

 頬に手を添えてキスを落とす。
 一瞬だけ驚きに染まった瞳はすぐにうれしさに緩み、喜びを伝えてくれる。

「唇にくれるなんて思わなかった」

 そう呟くアイオルドの表情が喜びに緩んでいる。
 うれしい、と頭を寄せるので頭を撫でていると急に視界が変わった。
 アクアオーラを見上げていたはずのアイオルドに見下ろされている。
 頬にキスを落とされてからようやく、いつの間に体勢が変わってるわと思考が動き出した。
 啄むようなキスを受けながらまだ肩にかかったままのタオルを手に取る。

「あ、ごめん。 まだ途中だった?」

「いいえ、終わってるわ」

 湿ったタオルをかけっぱなしにしていたらクセがつきそうと思っただけ。

「そう? よかった」

 そう笑ったアイオルドがアクアオーラの手からタオルを引き抜きサイドテーブルへ放り投げる。
 物を投げるなんて行儀が悪いわと言おうとして止めた。

 深みを増した琥珀色にふわふわ幸せな時間の終わりを悟る。
 この先は苦しいほどのときめきと何もわからなくなる熱が待っている。

 どちらでもいい。
 アイオルドがアクアオーラに与えてくれるものは全て計り知れないほどの喜びに満ちているものだから。

 徐々に熱を増していく身体に抱きしめられこの上ない幸せに満たされる。
 逞しい腕に甘えるように頬を寄せると感極まったように名前を呼ばれた。
 そんな風に歓喜に溢れた声で呼ばれると困るわ。
 同じようにうれしさが溢れて仕方なくなるもの。

 溢れる感情のままに名前を呼ぶと返される声音の甘さが増した。
 視線で、囁きで、体温で伝えられる愛おしさにくらりとするほど幸せを感じる。
 アイオルドが幸せな気持ちなのは目を見れば伝わってくる。
 いつもアイオルドが私を見る瞳に浮かぶ様々な幸せの色。
 それを読み解く幸せに微笑む。

「何考えてるの?」

「アイオルドのことよ」

 正直に告げると恥じらうように目元を緩ませる。
 照れを滲ませながらもうれしさを隠せない様子が、本当に。
 可愛い。
 頭を引き寄せまたくちづける。
 とろけるほどの幸せが言葉を失わせる。
 もう表せる言葉なんてないと思えるくらい。
 終わりなくあふれ出る愛おしさにただ身を任せた――。


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