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お姉様
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いつものように庭園でお茶をしているとふと、庭園の入口が賑やかになった。
複数の足音が近づいてくる。
先頭に立っているのは影からすると女性のようだ。
「まあ…! あの子が認めるだけのことはあるわねぇ……」
影は近くまで来ると感嘆するような声でそんなことを言った。。
「エレミア様! 突然そのようなことをおっしゃられても驚きますよ」
答えるのはレナの声。
「ああ、セシリア様。 こちらは―――」
「イリアスの姉よ。 よろしくね」
お姉様のことは前にイリアス様から聞いたことがある。華やかな声はイリアス様に雰囲気が似ていて、とても美しい。
「初めまして、セシリアと申します。 イリアス様には大変お世話になって―――」
「まあ、噂通りね!」
話しを遮ってエレミア様が笑う。
楽しそうにころころと笑う声は少女のように軽やかだ。
「あの子が他人を世話するなんて……!」
感動したような声に首を傾げる。イリアス様は優しくて面倒見のいい人だと思う。
不思議そうなセシリアにエレミア様は説く。
「あの子ったら近寄ってくる女性に冷たくて、良いのは外面だけ。 傍に置くなんて、よほど貴女のことが気に入ったのね」
以外な評価に驚く。人当たりが良いのは演技だとエレミア様は言う。
「イリアス様はどなたにでもお優しいのではないでしょうか…?」
なにしろ浜辺で倒れていた身元のしれないセシリアを世話してくれるくらい面倒見の良い人なので。正直信じられない。
「まああなたの言う通り優しい子だとは思うわ。
ただ、本当に無条件で優しくする相手は限られているけれど。 あなたはその珍しい例外ね」
応えられずにいるとイリアス様の足音が聞こえた。
「姉上!」
イリアス様が近づいてくる。
「城に行ったら姉上が帰ってると聞いて、慌てて引き返してきましたよ」
息を切らせているくらいなので、余程急いで帰ってきたみたいだった。
「だって貴方ったら紹介してくれないんだもの。 そうしたら、自分で来るしかないじゃない」
「連絡くらいしてください。 立場だってあるんですから」
お姉様と話すイリアス様は少し口調が違っていて、おもしろい。
「ああ、セシリア。 驚かせてすまない。 姉上が失礼をしなかったかい?」
イリアス様の言葉に首を振る。
「いいえ、失礼なんて……。 お話をさせていただいただけですから」
「話……。 余計なことを言ってはいないでしょうね」
「心配しなくても大したことは話していないわよ」
「…」
信用できないというような沈黙も気にすることなくイリアス様のお姉様は私に話しかける。
「それよりも私にも歌を聞かせてくれないかしら。 貴女の噂を聞いてからずっと聴いてみたかったのよ」
「突然ですね。 人の家を訪ねていきなりする要求ですか」
イリアス様が咎めるような声で答える。
「何よ。 文句があるの?」
「その言い方だと命令しているように聞こえますよ」
「ちゃんとお願いしてるじゃない」
「依頼の形をとった命令でしょう。 貴女の立場だと」
言い合う二人の横でセシリアは首を傾げた。また立場という言葉を使っている。
イリアス様も軽々しい身ではないと知っているけれど、お姉様はさらに高貴な身の上なのかもしれない。
そんなことをセシリアが考えていると姉弟の声が険悪になり、慌てて間に入る。
「あの、私でよろしければ聴いていただけますか?」
「セシリア、気を使う必要はないよ。 無理を言っているのは姉上のほうなのだから、嫌なら断ってかまわない」
「いいえ、歌を聴きたいと言っていただけるのはうれしいです」
大切な歌を誰かと共有できるひと時は心地よい。
望まれるのは幸せなこと。それが好きな人であるならなおさら。
「あの……、イリアス様もお時間がお有りでしたら、聴いていってくださいませんか?」
一番望んで欲しい人に願う。誰よりも聴いて欲しいのはイリアス様だから。
聴いて欲しい。聴きたいと言って欲しい。
願うことは甘く心を蕩かす。
イリアス様が頷いたのを感じてさらなる喜びが胸を駆けていった。
複数の足音が近づいてくる。
先頭に立っているのは影からすると女性のようだ。
「まあ…! あの子が認めるだけのことはあるわねぇ……」
影は近くまで来ると感嘆するような声でそんなことを言った。。
「エレミア様! 突然そのようなことをおっしゃられても驚きますよ」
答えるのはレナの声。
「ああ、セシリア様。 こちらは―――」
「イリアスの姉よ。 よろしくね」
お姉様のことは前にイリアス様から聞いたことがある。華やかな声はイリアス様に雰囲気が似ていて、とても美しい。
「初めまして、セシリアと申します。 イリアス様には大変お世話になって―――」
「まあ、噂通りね!」
話しを遮ってエレミア様が笑う。
楽しそうにころころと笑う声は少女のように軽やかだ。
「あの子が他人を世話するなんて……!」
感動したような声に首を傾げる。イリアス様は優しくて面倒見のいい人だと思う。
不思議そうなセシリアにエレミア様は説く。
「あの子ったら近寄ってくる女性に冷たくて、良いのは外面だけ。 傍に置くなんて、よほど貴女のことが気に入ったのね」
以外な評価に驚く。人当たりが良いのは演技だとエレミア様は言う。
「イリアス様はどなたにでもお優しいのではないでしょうか…?」
なにしろ浜辺で倒れていた身元のしれないセシリアを世話してくれるくらい面倒見の良い人なので。正直信じられない。
「まああなたの言う通り優しい子だとは思うわ。
ただ、本当に無条件で優しくする相手は限られているけれど。 あなたはその珍しい例外ね」
応えられずにいるとイリアス様の足音が聞こえた。
「姉上!」
イリアス様が近づいてくる。
「城に行ったら姉上が帰ってると聞いて、慌てて引き返してきましたよ」
息を切らせているくらいなので、余程急いで帰ってきたみたいだった。
「だって貴方ったら紹介してくれないんだもの。 そうしたら、自分で来るしかないじゃない」
「連絡くらいしてください。 立場だってあるんですから」
お姉様と話すイリアス様は少し口調が違っていて、おもしろい。
「ああ、セシリア。 驚かせてすまない。 姉上が失礼をしなかったかい?」
イリアス様の言葉に首を振る。
「いいえ、失礼なんて……。 お話をさせていただいただけですから」
「話……。 余計なことを言ってはいないでしょうね」
「心配しなくても大したことは話していないわよ」
「…」
信用できないというような沈黙も気にすることなくイリアス様のお姉様は私に話しかける。
「それよりも私にも歌を聞かせてくれないかしら。 貴女の噂を聞いてからずっと聴いてみたかったのよ」
「突然ですね。 人の家を訪ねていきなりする要求ですか」
イリアス様が咎めるような声で答える。
「何よ。 文句があるの?」
「その言い方だと命令しているように聞こえますよ」
「ちゃんとお願いしてるじゃない」
「依頼の形をとった命令でしょう。 貴女の立場だと」
言い合う二人の横でセシリアは首を傾げた。また立場という言葉を使っている。
イリアス様も軽々しい身ではないと知っているけれど、お姉様はさらに高貴な身の上なのかもしれない。
そんなことをセシリアが考えていると姉弟の声が険悪になり、慌てて間に入る。
「あの、私でよろしければ聴いていただけますか?」
「セシリア、気を使う必要はないよ。 無理を言っているのは姉上のほうなのだから、嫌なら断ってかまわない」
「いいえ、歌を聴きたいと言っていただけるのはうれしいです」
大切な歌を誰かと共有できるひと時は心地よい。
望まれるのは幸せなこと。それが好きな人であるならなおさら。
「あの……、イリアス様もお時間がお有りでしたら、聴いていってくださいませんか?」
一番望んで欲しい人に願う。誰よりも聴いて欲しいのはイリアス様だから。
聴いて欲しい。聴きたいと言って欲しい。
願うことは甘く心を蕩かす。
イリアス様が頷いたのを感じてさらなる喜びが胸を駆けていった。
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