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セレスタ 帰還編

事後処理 1

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 視察も無事終わって王都に帰ってきた。
 途中で私事に纏わることでみんなを煩わせて申し訳なかったと思う。
 マールアの工作員のせいでいらない緊張感もあったし。
 内務卿たちに報告したらどんな反応を見せるか、少し憂鬱だ。
 侯爵とはレグルスの街で別れた。
 領地に来ることを急かされたので早めに行くことを約束している。
「侯爵家の領地ってレグルスからそう遠くないわよね?」
「そうだな、2日、3日くらいじゃないか」」
 基本情報しか知らないのでどんな場所かヴォルフに聞く。
 お互いに時間もないだろうから顔合わせをしたらすぐに王都に戻るつもりでいた。
 やることを頭の中で順序付けていく。
 内務卿や外務卿にマールアのことを報告して、魔術師長に新しい技師のことと魔道具のことを報告しないと。
 なんだか以前からは考えられないくらい予定が詰まっている気がする。
「何か帰って来てから忙しいのが続いてるわね」
 日本から戻って来てすぐは溜まった仕事の片付け。
 不正の疑惑を見つけたり。魔石鉱山を国で管理できるようになったのは良かったけど。
 一段落付きそうになったら噂に翻弄されて。
 そして視察と技師の勧誘にはマールアの影。
「そうだな、前とやってることは同じなのに」
 ヴォルフも不思議そうに答えた。
 視察も年に何度か行っているし、貴族の不正を暴いたりも時々ある。
 変わったことはないはずなのに、何故か密度が濃かった。
「さあ、ふたりとも、まずは目の前のことから片付けて行こうか」
 王子がマリナたちに声を掛ける。
 王宮の門を潜ると待っていたように内務卿と外務卿が揃って立っていた。
 先に王子の帰還を伝えに行った騎士に報告を聞いているのだろう。
 今すぐに詳しい話を聞きたいと狸面の奥の目が言っていた。
 休む間もなく報告になりそうだとひっそりとため息を吐く。
「王子、よくお戻りになりました」
 外務卿が一歩前に出て王子を迎える。
「ああ、出迎えご苦労」
 当たり障りのないことを離しながら執務室に向かう。
 外務卿と王子が前を歩き内務卿はマリナとヴォルフの間に立って歩みを進めていた。
「ところで貴女が新しい魔道具を作ったというのは本当ですか」
 囁きがマリナの耳に届く。
 ヴォルフに辛うじて聞こえるくらいの音量で、前を歩いている二人や警護している近衛騎士たちには聞こえない。
「ええ、耳が早いですね」
 帰還を伝えた騎士はそんなことまでいちいち話さないだろう。いったい誰に聞いたんだか。
「ジグがあなたの話を聞きたがっています。 報告が終わったらすぐに行ってください」
「わかりました」
 魔術師長が?もしかして技師から話を聞いたのかもしれない。
 技師は魔術師たちの下で働くことになっている。
 まだレグルスの街にいるはずだが、先に必要な物を準備するとして王宮魔術師が接触していてもおかしくはない。
 詳しい説明なんてしていなかったけれど、それ故に王宮魔術師との会話の中で話してしまった可能性はある。
 口止めしておくべきだった、なんて思っても後の祭り。
 溜息を吐きたい思いで執務室へ向かった。
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