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セレスタ 帰還編
少女たちのお茶会
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庭園が見える部屋で集まってお茶会をする。
それぞれ持ち寄ったお菓子とお茶を楽しんでいた。
「シャルロッテは本当にお菓子作りが上手いんですね」
よく恋人に差し入れしていると聞いていたけれど、すごい。
「本当に。 最近また上手になりましたね、シャルロッテ様」
マリナとフローラ様に手放しで褒められたシャルロッテが照れてそっぽを向く。
「これくらい練習すればできますわ」
そっけなく聞こえるけれど内心はうれしがっていることが横顔からわかる。
「いっぱい練習したんですね」
恋人の為に、と口だけで呟くとシャルロッテが更に顔を赤らめる。そうなんだ。
「シャルロッテ様の恋人が羨ましいですわ」
フローラ様がふわりと笑う。
(シャルロッテ様ね…)
マリナは気になっていたことを聞いてみる。
「気になっていたんですけれど、フローラ様はどうしてシャルロッテのことを様付けで呼ぶんですか?」
幼馴染みなのに。
それ以上にフローラ様の方が家格が高いのに、フローラ様が様付けで呼んでシャルロッテが呼び捨てなんて、おかしいと思う。
「常々私もそう思っていますわ」
「え…?!」
不満には思っていたと口を尖らせてシャルロッテがフローラ様を見つめた。
シャルロッテの言葉にフローラ様が慌てる。
「だ、だって…」
「子供の頃はそうではなかったですわよね? いつからでしたかしら…」
ずっと気にしてはいたみたいで、シャルロッテは真剣に記憶を探っていた。
「…初めての他家のお茶会に呼ばれた時ですわ」
苦い思い出を語るようにフローラ様が話し出す。
「お友達同士でも、人前では様を付けて呼ぶのが当たり前だと言われたのです。
場を弁えないのは子供だけだと」
確かに貴人を様や殿を付けて呼ぶのは当たり前だけど…。
「でもそれは言い過ぎですよね、ごく親しい友人同士ならおかしなことではないと思いますけど」
シャルロッテとフローラ様の関係なら様付けなんてする方が不自然に感じる。
フローラ様もそれはわかっているようで肯いて続けた。
「今考えればただの言いがかりだとわかりますけれど、その時は真剣におかしいのかと考えてしまって…」
子供の頃のことが今にも尾を引いているなんてね。
「そんなこと気にしないで普通に呼べば良かったのに」
シャルロッテの文句にフローラ様も珍しく声を荒げた。
「だって、シャルロッテ様と呼んだって何も言わなかったじゃない!」
本当はそう呼んだ方が良かったのかと思ってずっとそうしてきたのに!と怒るフローラ様。
親友の珍しい怒りにシャルロッテが怯んだ。
「申し訳ありません、私が余計なことを言ったらからですね」
話が拗れる前に口を挿む。
声を荒げたことを恥じるように目を伏せたフローラ様。
「昔は何て呼んでいらっしゃったんですか?」
「え?」
唐突な質問に目を瞬く二人。
「小さい時のことだから、シャルとかシャルロッテとかよ」
答えたのはシャルロッテの方。
気分で愛称を呼んだり、名前で呼んだりしていたと言う。
フローラ様のことはいつもフローラと呼んでいたと、長いですものね、名前。
「今日から戻してみてはいかがですか」
いきなりだとは思うけれど提案してみる。
案の定二人は戸惑いに顔を強ばらせた。
「無理にとは言いませんけれど、気にしていらしたなら、今から変えてみるのもいいと思いまして」
二人とも黙ってしまう。
沈黙が続く中マリナがお茶を入れる音が響く。
お茶を入れ直したカップをそれぞれの前に置くと、お互いを見てカップを手に取る。
「シャル」
「…!」
フローラ様の呼び方にシャルロッテが敏感に反応した。
「このお菓子とてもおいしいです、次回もまた作ってくださいね?」
微笑み、シャルロッテにお願いをするフローラ様。
語尾がわずかに不安に震えていた。
「でしたら久しぶりにフローラのお菓子も食べてみたいわ」
シャルロッテの返事にフローラ様がショックを受けたような顔をする。
不思議に思っているとフローラ様から理由が語られた。
「私がお菓子作り下手だって知ってるのに…」
悲しそうな顔で呟くフローラ様を余所にシャルロッテがマリナを見る。
「マリナもね」
矛先がこちらに向いて驚く。
「私はお菓子作りなんてしたことありませんけれど?」
お菓子は買った方がおいしいと思う。
「ヴォルフ様に贈る練習だと思って、作ってみたら?」
「ヴォルフは甘い物を好まないので、お菓子は上げる予定がありません」
マリナの答えにフローラ様が目を輝かせる。
「ヴォルフ様もですか? 私の婚約者も甘い物が嫌いで…。
お会いするときに何を差し入れるかいつも迷うのです。
いつもはどのような物を贈られているのですか?」
答えに困る。
「お互い自分の好きな物は自分で買ってくるので、差し入れなんてしませんね」
嗜好品の好みは合わない。
「そうなのですか、困りました…」
「次の休みの日にまた会いに行くのでしょう?」
肩を落とすフローラ様にシャルロッテが聞く。
喜んでもらえる物を差し入れしたい気持ちはわかるけれど、困ったわ。
「軽食を作って差し入れるのはいかがですか?」
サンドイッチくらいなら簡単に出来る。
恋人に何を贈りたいかなど、それぞれに話し出す。
俄かににぎやかになったテーブルにマリナは笑みを零した。
それぞれ持ち寄ったお菓子とお茶を楽しんでいた。
「シャルロッテは本当にお菓子作りが上手いんですね」
よく恋人に差し入れしていると聞いていたけれど、すごい。
「本当に。 最近また上手になりましたね、シャルロッテ様」
マリナとフローラ様に手放しで褒められたシャルロッテが照れてそっぽを向く。
「これくらい練習すればできますわ」
そっけなく聞こえるけれど内心はうれしがっていることが横顔からわかる。
「いっぱい練習したんですね」
恋人の為に、と口だけで呟くとシャルロッテが更に顔を赤らめる。そうなんだ。
「シャルロッテ様の恋人が羨ましいですわ」
フローラ様がふわりと笑う。
(シャルロッテ様ね…)
マリナは気になっていたことを聞いてみる。
「気になっていたんですけれど、フローラ様はどうしてシャルロッテのことを様付けで呼ぶんですか?」
幼馴染みなのに。
それ以上にフローラ様の方が家格が高いのに、フローラ様が様付けで呼んでシャルロッテが呼び捨てなんて、おかしいと思う。
「常々私もそう思っていますわ」
「え…?!」
不満には思っていたと口を尖らせてシャルロッテがフローラ様を見つめた。
シャルロッテの言葉にフローラ様が慌てる。
「だ、だって…」
「子供の頃はそうではなかったですわよね? いつからでしたかしら…」
ずっと気にしてはいたみたいで、シャルロッテは真剣に記憶を探っていた。
「…初めての他家のお茶会に呼ばれた時ですわ」
苦い思い出を語るようにフローラ様が話し出す。
「お友達同士でも、人前では様を付けて呼ぶのが当たり前だと言われたのです。
場を弁えないのは子供だけだと」
確かに貴人を様や殿を付けて呼ぶのは当たり前だけど…。
「でもそれは言い過ぎですよね、ごく親しい友人同士ならおかしなことではないと思いますけど」
シャルロッテとフローラ様の関係なら様付けなんてする方が不自然に感じる。
フローラ様もそれはわかっているようで肯いて続けた。
「今考えればただの言いがかりだとわかりますけれど、その時は真剣におかしいのかと考えてしまって…」
子供の頃のことが今にも尾を引いているなんてね。
「そんなこと気にしないで普通に呼べば良かったのに」
シャルロッテの文句にフローラ様も珍しく声を荒げた。
「だって、シャルロッテ様と呼んだって何も言わなかったじゃない!」
本当はそう呼んだ方が良かったのかと思ってずっとそうしてきたのに!と怒るフローラ様。
親友の珍しい怒りにシャルロッテが怯んだ。
「申し訳ありません、私が余計なことを言ったらからですね」
話が拗れる前に口を挿む。
声を荒げたことを恥じるように目を伏せたフローラ様。
「昔は何て呼んでいらっしゃったんですか?」
「え?」
唐突な質問に目を瞬く二人。
「小さい時のことだから、シャルとかシャルロッテとかよ」
答えたのはシャルロッテの方。
気分で愛称を呼んだり、名前で呼んだりしていたと言う。
フローラ様のことはいつもフローラと呼んでいたと、長いですものね、名前。
「今日から戻してみてはいかがですか」
いきなりだとは思うけれど提案してみる。
案の定二人は戸惑いに顔を強ばらせた。
「無理にとは言いませんけれど、気にしていらしたなら、今から変えてみるのもいいと思いまして」
二人とも黙ってしまう。
沈黙が続く中マリナがお茶を入れる音が響く。
お茶を入れ直したカップをそれぞれの前に置くと、お互いを見てカップを手に取る。
「シャル」
「…!」
フローラ様の呼び方にシャルロッテが敏感に反応した。
「このお菓子とてもおいしいです、次回もまた作ってくださいね?」
微笑み、シャルロッテにお願いをするフローラ様。
語尾がわずかに不安に震えていた。
「でしたら久しぶりにフローラのお菓子も食べてみたいわ」
シャルロッテの返事にフローラ様がショックを受けたような顔をする。
不思議に思っているとフローラ様から理由が語られた。
「私がお菓子作り下手だって知ってるのに…」
悲しそうな顔で呟くフローラ様を余所にシャルロッテがマリナを見る。
「マリナもね」
矛先がこちらに向いて驚く。
「私はお菓子作りなんてしたことありませんけれど?」
お菓子は買った方がおいしいと思う。
「ヴォルフ様に贈る練習だと思って、作ってみたら?」
「ヴォルフは甘い物を好まないので、お菓子は上げる予定がありません」
マリナの答えにフローラ様が目を輝かせる。
「ヴォルフ様もですか? 私の婚約者も甘い物が嫌いで…。
お会いするときに何を差し入れるかいつも迷うのです。
いつもはどのような物を贈られているのですか?」
答えに困る。
「お互い自分の好きな物は自分で買ってくるので、差し入れなんてしませんね」
嗜好品の好みは合わない。
「そうなのですか、困りました…」
「次の休みの日にまた会いに行くのでしょう?」
肩を落とすフローラ様にシャルロッテが聞く。
喜んでもらえる物を差し入れしたい気持ちはわかるけれど、困ったわ。
「軽食を作って差し入れるのはいかがですか?」
サンドイッチくらいなら簡単に出来る。
恋人に何を贈りたいかなど、それぞれに話し出す。
俄かににぎやかになったテーブルにマリナは笑みを零した。
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