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セレスタ 弟さんの結婚式編

腕の中

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 ヴォルフの腕の中で幸せを噛みしめる。
 感謝と幸福感で胸が一杯だ。
 零れた涙を指で拭いヴォルフを見上げた。
 じっと見つめると気持ちを察してヴォルフが顔を近づける。
 言葉で言わないマリナに仕方ない奴だと言うように笑む。
 振ってくるくちづけを夢見心地で受け入れる。
 現実感がなくて、確かめるようにヴォルフに触れた。
「……っ!」
 肩が城壁に触れる。
 座るマリナの足元に膝を付いたヴォルフが城壁に手を伸ばす。
 壁に押し付けられるような格好でくちづけを落とされる。
 逃がさないと言いたげな体勢にぞくりと背筋が震えた。


「……はぁ」
 身体が離れて息を吐く。
 心臓に悪い。
 どくどくと鳴る心臓に手を当てて動悸を確かめる。
 城壁に凭れているとひょいっと抱き上げられた。
「!? 何するのよ!」
 びっくりしてヴォルフの首に抱きつく。
 片腕でマリナを抱えてヴォルフが歩き出す。
 この抱え方はいくらなんでも…、子供みたいに軽いわけでもないと思うのに。
 ヴォルフは重さを感じていないみたいな足取りで城内に続く扉に向かう。
 城壁はマリナの肩くらいの高さなので、ヴォルフに抱き上げられるとちょっと怖い。
 仮に落ちても魔法で身体を浮かせば問題ないけれど、人の腕の中というのが自由を制限されて落ち着かなかった。
 首にしがみつくとヴォルフがおかしそうに笑う。
 耳を引っ張ってやろうかと過るけれど楽しそうなので毒気が抜けた。
「明日はちゃんと祝うか、一生に一度だからな」
 楽しそうに笑みを浮かべるヴォルフ。
 マリナもつられて笑顔になる。
「楽しみ。 じゃあ早く執務が終わるように頑張らないとね」
 ヴォルフにぎゅっとと抱きつく。
 たまには素直に甘えてみようかと思った。
 うれしくて幸せで抱きしめずにはいられない。
(こんな姿、人には見せられないわね)
 また新たな噂の種を提供してしまう。
 廊下を行く人とかち合わないように魔力を探り人のいない道を進む。
 決して能力の無駄遣いとは言わない。
 訓練とか、言い様はいくらでもある。
 誰にでもなく言い訳をしながら魔力を行使する。
 そうして人目を憚る必要もなく部屋まで運んでもらった。
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