上 下
200 / 368
セレスタ 波乱の婚約式編

王都探索 1

しおりを挟む
「はぁ…」
 進むスピードを調節しながら先の方を歩く男性を追いかける。
 なんでせっかくの休みに他人をつけ回さないといけないんだか。
 シンプルな紺色のワンピースに身を包んだシャルロッテを見やる。
「シャルロッテ、普通に歩いていいんですよ?」
 さっきから建物の影に隠れようとしているので普通に歩くよう伝えた。
「どうして? 見つかってしまうじゃないの」
「これくらい離れていれば大丈夫ですよ。
 そこまで視線に敏感ではないようなので、気にしなくてもかまいません」
 逆に言えばこれくらい離れていても気が付くようなら、建物の影に隠れたところで意味がない。
 ハルトさんやヴァルトさんならもう気が付いて撒こうとしているだろう。
 もし二人を尾行することがあったら魔法を使わないと絶対に失敗する。
 彼を追いかけるのはそんな労力が必要ないので楽だった。
 魔法を使ってまで追いかける理由がないので気が付かれたらそこで止めるつもりだ。
「あ、行っちゃう!」
 早く早くと急かすシャルロッテを早足で追いかけた。
 それにしても、意外とシャルロッテは街に溶け込んでいる。
 王宮でドレス姿しか見ていなかったせいか街中では浮いてしまいそうだと思っていた。
「シャルロッテは普通に街に溶け込んでいますね」
「そう?」
 シャルロッテは平静を装いながらも嬉しそうだ。
「マリナはあまり街には出ないの?」
「私は基本的に王宮から出ませんね」
 街に降りなくても事足りるのでほとんどど王宮から出ない。
 必要な物は取り寄せることもも出来るし。
「ええ? もったいない」
「そう言われましても、特に買う物がありませんしねえ」
 だって着る物も食べる物も提供されてるから自分で買う必要がない。
「言われてみれば…、そうね。
 でもそういのじゃなくても街に出て色々見たいなー、とか思わないの?」
「あまり…」
 着ることない服を買うのももったいないし、雑貨もあまり部屋に置かない。
 ヴォルフがくれた動物の置き物だけは本棚に飾ってあるけど。
 人の多い店は気後れしてしまうと言うとシャルロッテが目を輝かせた。
「なら今度普通にお買い物に行かない? フローラも一緒に」
 突然の誘いに彼の背中を追っていた目をシャルロッテに移す。
 ダメ?と不安そうな顔をするシャルロッテに笑いかける。
「楽しそうですね、今度時間があったら普通に王都を散策してみたいです」
 二人と一緒ならただ店を見ているだけでも楽しそう。
「約束よ?」 
 話にすっかり夢中になっているシャルロッテ。
 通りから彼の姿が消えているのにまだ気が付いていない。
「ええ、楽しみにしています。
 …ところで彼がお店に入りましたよ」
 マリナの言葉でシャルロッテが慌てて通りに目を戻す。
「どこ?」
「あそこです、あの食堂」
 ごく普通の街の食堂にシャルロッテの従兄弟は入っていった。
「もしかしてあそこのお嬢さんと親しくなったのかしら?」
 窓から見える給仕の女性を手で指してシャルロッテが言う。
 食事しにきただけなんじゃない?
 マリナの呟きは興奮するシャルロッテの声に消されて届かなかった。
しおりを挟む

処理中です...