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セレスタ 波乱の婚約式編
桜を求めて 1
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寒い日はまだ続いているけれど日に日に空は春の明るさを増している。
冷たい風の吹く中、庭園を歩いていたマリナは空を見上げて春が近いことを確めた。
春はもう近くまで来ている。
樹につぼみが付いているのに気が付くと胸が躍った。
まだ固いつぼみが開くのはあと半月かひと月か。
あることに気が付いてふっと笑いが零れた。
「あれからもうすぐ一年になるのね」
ヴォルフを変化させてセレスタを追放されたのは春だった。
咲き誇る花が終わり新緑が芽生え始める頃。
異世界に飛ばされ、何もかも違う生活に戸惑いながら暮らしていた時にヴォルフと再会して、一緒に暮らし始めた。
あれから色んなことが在り過ぎて、一年があっという間だ。
一年の間に出会い、縁を深めた人の顔が次々に浮かぶ。
こんなに幸福でいいのかと思うくらい、充実した日々を送っている。
日本に行くことがなかったら全然違った未来になっていたと思う。
向こうのみんなは元気でいるかな。
ぱっと頭に浮かんできたのは写真で見た『桜』の姿。
――――見に行きたい。
突如胸に湧き上がってきた衝動に自分で驚いた。
そんなに興味があったとは自分でも知らなかった。
日本にいた時は見られたらいいなくらいにしか考えていなかったはずなのに。
不思議な気持ちだけれど、心はもう行くと決めていた。
強い風が吹き付ける。
セレスタのものに比べて少し湿り気のある風はより冷たく感じた。
「こっちもまだ寒いわね」
隣にいるヴォルフに向かって話しかける。
「そうだな」
確かに綺麗だったけれど、花を見るために世界を渡るなんて考えもしなかった。
突き動かされるようにしてマリナは日本に来ている。
日本に行ってくると言ったらヴォルフもついてきた。
ヴォルフは物珍しそうにきょろきょろとしている。
「何かおもしろいものでもあった?」
「いや、視点が変わると見えるものもかなり違うと思ってな」
この街を歩いていたときは黒犬姿だったのでかなり見え方が違うという。
「じゃあ初めて行く街みたい?」
「視点が違っても来たことのある街なのはわかる。
あそことかはよく行ったコンビニだろう?」
ヴォルフが指を差す。
その通り、週の半分くらいは行っていたコンビニだ。
「あっちに行くとお前が通っていた喫茶店があるな」
寄って行かないのかと聞かれたので後でね、と答える。
マリナがバイトをしていた喫茶店はまだ開店前だ。
懐かしさを感じる街並みを歩きながら呟く。
「もしかしてまだ咲いてないのかもしれないわね?」
詳しい開花時期など知らなかったので取りあえず来てみたけれど、早かったみたい。
公園の樹もつぼみはたくさん付いているけれど、開くのはまだ先に見える。
他の地域なら咲いているところもあるかもしれないけれど、闇雲に移動してもしかたない。
まずはリオ様に挨拶に行くことにした。
冷たい風の吹く中、庭園を歩いていたマリナは空を見上げて春が近いことを確めた。
春はもう近くまで来ている。
樹につぼみが付いているのに気が付くと胸が躍った。
まだ固いつぼみが開くのはあと半月かひと月か。
あることに気が付いてふっと笑いが零れた。
「あれからもうすぐ一年になるのね」
ヴォルフを変化させてセレスタを追放されたのは春だった。
咲き誇る花が終わり新緑が芽生え始める頃。
異世界に飛ばされ、何もかも違う生活に戸惑いながら暮らしていた時にヴォルフと再会して、一緒に暮らし始めた。
あれから色んなことが在り過ぎて、一年があっという間だ。
一年の間に出会い、縁を深めた人の顔が次々に浮かぶ。
こんなに幸福でいいのかと思うくらい、充実した日々を送っている。
日本に行くことがなかったら全然違った未来になっていたと思う。
向こうのみんなは元気でいるかな。
ぱっと頭に浮かんできたのは写真で見た『桜』の姿。
――――見に行きたい。
突如胸に湧き上がってきた衝動に自分で驚いた。
そんなに興味があったとは自分でも知らなかった。
日本にいた時は見られたらいいなくらいにしか考えていなかったはずなのに。
不思議な気持ちだけれど、心はもう行くと決めていた。
強い風が吹き付ける。
セレスタのものに比べて少し湿り気のある風はより冷たく感じた。
「こっちもまだ寒いわね」
隣にいるヴォルフに向かって話しかける。
「そうだな」
確かに綺麗だったけれど、花を見るために世界を渡るなんて考えもしなかった。
突き動かされるようにしてマリナは日本に来ている。
日本に行ってくると言ったらヴォルフもついてきた。
ヴォルフは物珍しそうにきょろきょろとしている。
「何かおもしろいものでもあった?」
「いや、視点が変わると見えるものもかなり違うと思ってな」
この街を歩いていたときは黒犬姿だったのでかなり見え方が違うという。
「じゃあ初めて行く街みたい?」
「視点が違っても来たことのある街なのはわかる。
あそことかはよく行ったコンビニだろう?」
ヴォルフが指を差す。
その通り、週の半分くらいは行っていたコンビニだ。
「あっちに行くとお前が通っていた喫茶店があるな」
寄って行かないのかと聞かれたので後でね、と答える。
マリナがバイトをしていた喫茶店はまだ開店前だ。
懐かしさを感じる街並みを歩きながら呟く。
「もしかしてまだ咲いてないのかもしれないわね?」
詳しい開花時期など知らなかったので取りあえず来てみたけれど、早かったみたい。
公園の樹もつぼみはたくさん付いているけれど、開くのはまだ先に見える。
他の地域なら咲いているところもあるかもしれないけれど、闇雲に移動してもしかたない。
まずはリオ様に挨拶に行くことにした。
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