双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
308 / 368
セレスタ 故郷編

旅の途中で 1

しおりを挟む
 天候に恵まれてよかった。
 青い空を見上げて口元を緩める。
 ここしばらく雨も振らなかったので走りやすいし、見事な青空は憂鬱な心を晴らしてくれる。
 考えてみたら旅立ちの日はいつも晴れていた。
 故郷を出た日もそうだし、今日もこうして空は雨の気配なんて微塵もない。
「どうかしたか?」
 顔を上げて視界いっぱいに空を映していると先を行っていたヴォルフが足を緩めて隣に並ぶ。
「なんでもない。 ただ、いい天気だなって思って」
「そうだな。 思ったよりも早く街に着きそうだな」
 まず目指すのはクルックス地方の中核都市。
 アルフェラは一日で辿り着けるほど近い場所ではないのでまずはクルックス地方で一番大きい街に向かう。
 二日目の昼過ぎにアルフェラに着く予定だった。
 事前に調べた通り、険しい道もなく順調すぎるくらいに進んでいる。
 そんな時にこそ問題と出くわすものだけれど、何事もなく辿り着いた。
 ちゃんと休憩を挿みながら走っていたのに明るいうちに着くとは思わなかった。夜になると予想していたのに。
 宿に荷物を置いて食事に出る。
 マリナもヴォルフも食事にこだわりは無い方だけれど、せっかく遠い街まで来たので名物を食べたい。
 明日も出立は早いので朝は簡単な物になってしまうから、尚更だ。
「夕方以降は通りにテーブルを出して料理を楽しめるみたいだな」
「気持ちよさそうね」
 まだ暑さの残る季節なので、風を感じながら食事をできるのは心地よさそう。
「ちょっと早いみたいだから適当に散歩して来ようかな。
 街を一周してきたらちょうどいい時間になりそうじゃない?」
 陽は傾き始めているので少ししたら始まりそうだけど、通りの端でぼけっと突っ立っていても邪魔よね。
 じっと待っているのもつまらないし、この街には初めて来るのでどんなところかざっくりとでも知っておきたい。いずれ役に立つかもしれない。
 ヴォルフもただ待っているのは退屈に感じたのか了承してくれた。
 こうしてふたりでゆっくりと時間を取れるのは久しぶりだ。
 普段は夜にどちらかの部屋で就寝までのわずかな時間を過ごすだけなので素直にうれしかった。
 街中は明るい色の建物が多く、見ていて楽しい。
 外壁が赤みを増していく太陽に照らされてほんのり色づいてきている。
 街の中心の通りからは色々な店が見えた。
 レグルスと違ってのんびりした雰囲気を感じる。
 この辺りは昔から穀倉地帯として栄えてきた歴史がある。
 近く国境を接する隣国も同じく農業が盛んなので領土争いになったこともない。
 攻め入ってくるには国境近くではないし、セレスタは昔から魔術に優れ周辺国より一歩抜きん出ていたので仕掛けるには力に不安があったのだろう。
 おかげでこの近くの国とは戦争になったことはない。
 争いに巻き込まれることがなかったので人々も陽気で穏やかな性質を持つ人が多いと聞いた。
 呼び込みをする人やその声に答える人の様子を見ていると習った事柄が実感として理解できてくる。
 他の街と比べて低い城壁もその証だろう。
 ただ歩いているだけでも十分に楽しめる。
 不自然なところはないか半分仕事として観察はしているけれど、心は楽しむ方に主軸を置いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた 公爵令嬢アイシス・フローレス。 ――しかし本人は、内心大喜びしていた。 「これで、自由な生活ができますわ!」 ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、 “冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。 ところがこの旦那様、噂とは真逆で—— 誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……? 静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、 やがて互いの心を少しずつ近づけていく。 そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。 「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、 平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。 しかしアイシスは毅然と言い放つ。 「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」 ――婚約破棄のざまぁはここからが本番。 王都から逃げる王太子、 彼を裁く新王、 そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。 契約から始まった関係は、 やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

処理中です...