ダンジョン・トラップ

ゼロ

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3. 噂には含まれていなかった

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 苦しい。
 それだけしか考えられずジャスパーは体を起こそうとしたが、手も足も動かない。大きく息を吸おうとすると、自分の情けない呻き声を聞きながら息さえも自由に出来ないことに気づいた。口から喉の奥まで何か詰まっている。目を開けば涙でぼやける視界にはゴツゴツとした岩壁が映る。ダンジョンの中だ。
 口だけではなく後孔からもみっちりと何かが入り込んで腹の中で蠢いている。恐怖でメチャクチャに暴れようとしたが体は痙攣するように動いただけで自由になるのは指ぐらいのものだ。吐き気を感じても吐くことさえ出来ない。
 動こうとしたことで腹の中に入り込んだ何かを刺激したのか体内で異物の動きが激しくなり悶えたが、やはり体は微かに痙攣するだけだった。涙が頬を伝わる感覚がやけにはっきりしている。最悪なことに苦しいだけではなくて気持ちが良さがある。喉も腹も。叫びたいのに声を出せない。
 全身が酷く熱くて怠いのに触れる異物がジワリと動く度に全ての感覚を拾ってしまう。神経毒に侵されているな、と考えながら状況を把握しようと目だけなんとか動かして見ると全身を触手でがんじがらめに拘束されているようだった。最後に覚えているのは醜悪な姿をした魔物に覆い被さられたことだ。あの後巣にでも連れてこられたのだろう。
 視線を落とすと、すぐ側に崩れた人間の死骸が見えた。カサカサと水分のない体は胸から上だけが原型を留めていて手足が散乱している。自分の未来の姿にぞっとして無意識に体を動かそうとすると粘液をまとった体の締めつけが強まり、体内でゾワゾワと蠢くのがはっきりと感じられた。苦しさに視界が霞むのに、それだけではない刺激が全身を走り自分のくぐもった声が耳に届く。
 喉が塞がれているのでなければきっと酷い喘ぎ声をあげている。なんて無様な。
 カイは無事なのか?限られた視界に映るのは死骸と、少し離れたところに転がる死骸だったらしき残骸だけで他に動くものは目に入らない。だけど首さえも動かせない状態では自分以外に人がいるのかどうかもわからない。何とか抜け出さないと…。
 体内を侵食する感触から意識を切り離して魔法を発動させようと集中を試みる。火魔法でコレを引き剥がすことさえ出来れば抜け出す隙ぐらい出来るはず。甘い痺れを無視しながら頭が焼き切れそうなぐらい集中して魔力を細く引き出すように紡ぎ出しなんとか発動させた。思ったほどの威力はなくコントロールもいまいちで髪が焦げそうだがこれならなんとか抜け出せそうだ。
 全く動かなかった体を締め付ける力が少し緩むのを感じて火力を強めようとした瞬間、腹を貫く質量が増して背中が弓形にのけぞった。苦しさに叫び声をあげようとしても喉を塞がれていては声にならない。どこも敏感になっていて粘液が染み出す蠢く触手が太腿を伝って後ろから中に入り込みグチグチと「通路」を拡げていることがわかる。火魔法を使った罰とでもいうように既に体内に入り込んでいる触手まで激しく動きだしたのが苦しいのに、気持ち悪いのか気持ち良いのか境目が曖昧になる。
 体内を蹂躙される刺激に気を失ってもすぐに同じ刺激で覚醒させられることが繰り返され、意志とは関係なくこぼれる涙に視界がぼやけた。
 魔法を発動しようとしても魔力が吸い込まれるように魔法が無効化され、中を這いずる触手に激しく揺すぶられた。三度目に挑戦して新たな触手が入り込んできた時にはもう自分が痙攣しているのか、揺さぶられているのかわからなくなっていた。
 意識は朦朧としていても、腹の奥までみっしりと埋める異物が明確な意思を持ってジャスパーの体内を拡げようとしていることがわかる。魔物が人を酩酊に近い状態で生かしている理由としては保存食か生殖活動の栄養分ぐらいしかないだろう。卵か幼体でも産みつけられるのかと思うと悲鳴を上げたかったが何一つ自由にならない。
 冗談じゃない。こんな惨めな死に方してたまるか。
 限界まで魔力を溜め込んでいちかばちか、ぶつけてやろう。勝ち目があるとしてきっと一回きり。意識を失ったらおしまいだ。身体の内外を這いずり回る魔物を出来るだけ刺激しないように自由にならない呼吸を落ち着けて、タイミングを見計らうことにした。
 永遠にも思える時間がどのくらいだったのかわからないが異変は突然起こった。
 初めは遠くに鈍い音。そして爆発したような大きな音と衝撃が空気を走り、かすむ視界に映ったのは内側からめくれるように崩れる壁だった。幻覚かと思いながら必死に目を開いていると見慣れた姿が壁の中から現れた。
 カイ…なのか?
 目がよく見えないせいだけではなく、いつもと違うような気がする。何を言っているのか分からなかったがいつも通りの大きな声で必死に何か叫んでいる。カイで間違いないだろう。捕まってなかったのか。よかった。
 遠のきそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら練り上げていた魔力にしがみつく。カイならこのクソッタレな魔物の隙を作る。それまで我慢だ。
 カイは牙を剥き出して剣を振り上げるとジャスパーを拘束する魔物に斬りかかった。牙…そんなものカイにあっただろうか。顔にはうっすらと鱗みたいな…いや、鱗そのものが浮かんでいた。どういうことだかわからないが今はそんなことを考えている暇はない。
 体の中と外を這い回る触手が激しく動いて悶絶させられたが、ジャスパーを苦しめる意図があるものではなくカイに応戦しているのだろう。これ以上意識を保っていることは難しい。カイが何をどうしてるのか見えないが仕方ない。自分の真後ろに意識を集中して溜め込んでいた魔力を一気に膨れ上がらせた。
 ドカンと火力を強く、カリカリに焼いてやる!
 カイ…頼むから避けてくれ。
 魔力をひっそりと抑えて溜めておくのも正気を保つのも既に限界で投げやりな気持ちもあったが、カイならなんとかするだろう信じて発動させた。強い炎が上がる音と熱を感じてホッとしたのも束の間、喉と後ろから潜り込んだ魔物の触手が体内を激しく掻き回す刺激に頭の中が真っ白になる。
 こんなクソダサい死に方は嫌だ…。絶望を感じたがすぐに意識が途切れて何も分からなくなった。
 気づけば、間近で泣きそうな顔が覗き込んでいた。
「ジャスパー!ジャスパー!」
 脳に響く声に耳が痛い。
「…カイ…声…デカいって…」
 自分の声の酷く頼りない響きに顔を顰めようとすると、カイの胸に頭を抱き込まれた。カイの膝の上に抱えられているようだった。
「生きててよかった…」
 聞いたこともないぐらい小さな声に胸が締め付けられた。頭がふわふわとして現実感がない。抱きしめられてるってことはアレは倒したってことだろう。
 体を抱き込む腕は慎重に力を加減していて苦しくはない。苦しくはないが全身の感覚が研ぎ澄まされていて背中に触れるカイの服の布地が擦れて体がビクリとした。予想はしていたが服は残骸が肩から腕に引っかかっているようだがほぼ全裸だ。カイが触れている箇所全てがむず痒いように感じる。
 喉と…腹の奥も熱いことに気づいた。意識すると体中が疼いていることに気づき腕の中でもがくと、カイは慌てて腕を緩めて顔を覗き込む。
「すまない!苦しかったか⁉︎」
「ちがう…たぶんあの…魔物の体液…くるしい」
「アレは全部体から引き抜いたんだが…」
 確かにみっしりと入り込んでいた異物が蠢くのは感じない。カイが全部引き摺り出したのかと考えると叫びたくなったが相変わらず全身が外側も内側もザワザワと撫でられているようで息が上がってまともにしゃべることさえ難しい。
「…ぁっ」
 カイに抱え直されただけでとんでもない声が出た。気まずく見上げたカイの顔が赤い。やっぱり顔に鱗があるな…いやそんなことは今どうでもいい。
「苦しい…。殴ってもう一回気絶…させろ…!」
「…すぐに楽になる方法はあるが、たぶん気に入らない」
「は?何か方法があるならさっさとやれ…っ!」
 自分が上げた声の響きに悶えながらシャツをつかむとカイが顔を近づけてきた。
「文句は後で聞く」
 次の瞬間、噛み付くように口を塞がれた。
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