上 下
1 / 1

呪われた暴食の魔女と、人魚の肉

しおりを挟む
私は暴食の魔女。

何でもかんでも食べちゃうの。

鉄だろうが、ゴムだろうが、岩だろうが、雲だろうが、毒だろうが、食べれちゃう。

でも、実は、食べれないものもあるの。

それは、
生きてる者。
生きてた物。

昔、所構わず食べてたら、
呪いをかけられたの。

生きてる者、生きてた物、そのどちらかでも食べたら、死んじゃう呪い。

不老不死な魔女を、殺す呪い。

勿論、代償は大きい。

300人ほどの犠牲を持って、
私はその呪いをかけられたの。



そして私は、生き物を食べなくなったの。

普段は、水と岩を食べてたの。
草や木も、生き物の部類に入るかもしれないって、聞いたことあるから。

でも大丈夫。
いざとなれば、空気でも。
お腹を満たせるもの。


今日も、湖に行ったの。
住処のそばの、小さな湖。
いつもの食事。

そのはずだったの。

………湖が赤く汚れてて、
血塗れの子が、倒れてたの。



私は、生き物は食べないわ。
食べれないの。
このままにしてたら、
いつもの食事に、「生き物の血」が混ざっちゃう

そしたら、私、死んじゃう。









─​───暴食の魔女の血は。
コップ一杯で不老不死の薬。
数量なら、傷を治せる。


湖の淵から引き上げて、
傷まみれの下半身が魚なのに驚きながら、
血を飲ませたのは、
それだけの理由だったの。


………なのに………なのに………………




血から、呪いが感染するなんて、まさか、思わないじゃないの…


私が呪いにかかった時と、同じように光る、その子の体。

私は、なんでも食べれちゃうから、分からないけれど。

普通の命は、
植物を含めたほかの命を食べないで生きることって、難しいんじゃないの??

だとしたら、
傷を治すだけにしたら、
この子このまま死んじゃう

私体小さいもの。
遠くになんか運べないわ。

死体がそばにある湖になんか、居れないじゃないの。
この湖を離れなきゃいけなくなる
外敵が居なくて、とても理想の湖なのに。

そう思ってたら、
じゃあ、不老不死にしちゃえば、食べなくても生きれるよね??
って、思っちゃったの。

そう思ったら、途中で飲ませるのやめようと思ってた自分の血を、更に流し込んでたの。


そして、その子は、
私と同じ、
呪われた不老不死になっちゃったの。






​───────​───────





暫くして、その子が目を覚ましたの。
私は、全部説明したわ。

そしたら、お礼を言われたの

「助けてくれて、ありがとう」
って。

お礼を言われたのなんて、生まれて初めてだったから、
最初、なんて言われたか、理解出来なかったの。

でも、
あ、この子勘違いしてるって思って、説明したの。

「これから貴方は、何も食べられないのよ?
空腹で辛くて倒れても、不老不死だから、死ねないのよ??」

って。

そしたら、

「僕は人魚なんです。
勿論、人魚も、生き物を食べますけど
最低限生きる為だけなら、水と塩だけで充分なんですよ。
だから、貴方は、私の命を助けてくれた恩人だ。」

…って。

「ありがとう」

って、また言ってくれたの。


私、嬉しくても涙って出るんだ…、って、初めて知ったわ。



その後、帰る場所がないって、その子が言うから、一緒に暮らす事にしたの。

湖のそばの洞穴。

入口が返しになってるから、なかなか見つからないの。
とってもお気に入り。

塩は、洞穴の奥にあったの。
岩塩ってやつ。

「人の手が加わってる所があるから、ここは、元は岩塩を取る採掘所だったんじゃないか?」
って。

それから、何ヶ月も、その子と暮らしたわ。

いつまでもその子って呼ぶのもおかしいかな、って思って、名前を聴いたら、
「ないんだ」
って。

「ナインって、いうのね!!」

って言ったら、

「…うん。君がそう呼んでくれるなら、それでいいや。」

って。

その後、私の名前も聞かれたから、暴食の魔女って答えたら、
「それは、名前じゃないよ?」って、笑われちゃった。

少しムッてしたけど、
「じゃあ、クラ二ー。
僕は、君のこと、クラ二ーって呼ぶ事にするよ」
って。

暴食は、グラトニーって呼ぶことがあるから、それを文字ったんだって言ってた。

ずっと、暴食の魔女って呼ばれてたから、違う名前が新鮮で、
とっても嬉しかったの。





​───────​───────




それからの生活は、幸せだったわ。
食べるものは、洞窟と湖で全部補えるし、
もう1人じゃないから、お話したり、追いかけっこしたり、お花を育ててみたり、森の動物と触れ合ったり、
たまたま見つけた草原で、一緒に寝っ転がって、お昼寝してみたり。

どこから来たのか分からない野良猫が、ナインの尻尾に噛み付いた時は驚いたけれど、
甘噛みだったのか、どこも食べられてはいないみたいで、安心したわ。
ナインが怪我したら、嫌だもの。


そこでふと、
どうして、ナインは血まみれで湖に居たんだろう?
って疑問に思って、聞いてみたの。


そしたら、
「人魚の肉を食べると、万病に効く。肝を食べると、不老不死になる。
それを狙った人間に住処が襲われて………僕だけ、逃がされたんだよ。」

…って。

私、知らなかったの。
人魚を食べると、不老不死になるなんて。

…だって、
呪いを受けるうんっと前。

万病に効くからって、
不老不死になる事が出来るからって、



狙われてたのは、





私なんだもの。





​───────​───────


私は、生まれたときから、魔女で、不老不死で、万病の薬だった。

なんか、有名な、不老不死の魔女さんと、
体が小さくて、でも、その身体数個分で万病の薬になるって種族の妖精さんとの間に、
産まされた子供なんだって。

産ませたのは、国のえらい人。
とてもいい人だったけど、

国民が死なないように、
苦しまないようにって、
万病に効く薬が、沢山必要だったんだって。

だから、
いくら血や肉を抜いても大丈夫なように、不老不死に、
その身体が薬になるように、薬の妖精さんを何人も、生贄に、

私を産んだんだって、

地下の、暗い部屋で。
血を抜かれながら、教えてもらったの。

その時までは、まだ良かったの。
健康に害のない量の血だけしか抜かれなかったし、
ちゃんと、衣食住は揃ってたから。


問題が起こったのは、
私が、3歳ぐらいの時だった。


ある日、万病に効くってなってた私の血を、必要量以上に飲んだ、傲慢な貴族がいたの。

そして、その貴族は、
不老不死になってしまった。

その体を利用して、王座を手に入れようとした、その傲慢な男は、
王に逆らい、反逆者となった。
戦いは長く続いた。
いくら攻撃しても、いくらでも復活するから、キリがなかった。

だから、力の弱った隙を付いて、男は、半永久的に、封印された。


そして、そんな事件が起こったせいで、
私の血を飲めば、不老不死になれるって噂が、瞬時に広まっちゃったの。


王様は、私の血を売るのを辞めた。
でも、闇商人の間で、私の血は取引されつづけた。

もちろん、回収作業は行われた。
何よりも優先するべき事だ、って。

でも、その回収作業に、終わりが見えてきた時。

私は、何者かに誘拐された。


地下室に、誰かが入ってきたと思ったら、
変なガスが充満して………
気付いたら、馬車にぐるぐる巻きで乗っけられてたの。

一緒に乗ってた男達が、気持ち悪い顔で笑ってた。

「これで、永久的に万病の薬と不死の薬を独占売買できる」
「このガキは不死らしいから、いくら剥いだって平気だろ」
「薬になるために生まれたんだ。俺らの手でちゃんと売ってやるんだから、感謝しろよ?」

って。

気持ち悪い、笑い声と一緒に。




そこからは、地獄だった。


毎日毎日、首を落とされて、体を、薬にするからって、回収された。

たまに、慰みものにもされた。

さでぃすと、とかいう人が、私の体を、指先から徐々に削っていく事もあった。


毎日毎日、痛くて痛くて。
死にたくて、死にたくて。



…でも、死ねなかった。


食事は碌に貰えなかった。
だから、閉じ込められた床の石や、かべや、色んなものを、無理やり食べた。
不老不死で、体がどんどん再生するから、なんとか食べてお腹を満たせた。



そして、ふと、「手枷も食べれるんじゃないかな?」って思ったの。

結果、食べる事が出来て、
私は、その地獄から逃げ出せた。


でも、すぐに追っ手が来た。

逃げて、逃げて、
ひたすらにげて………

追いかけてきた男達と共に、深い崖に落ちた。



男達は、私の体を食べてなかったのか、
不老不死にはなってなかった。

だから、私だけが生き残った。

崖が登れなくて、
お腹がすいて………

いつの間にか寄ってきてたハイエナが、男達の死体を食べてるのを見て、思ったの。



「…ああ、そっか。

食べられたくないなら、

生きたいなら、


私 が 食 べ ち ゃ え ば い い ん だ 。 」






…………それが、暴食の魔女の、始まり。


そして、それから数千年後、
魔女の万病薬の噂が、もう、古い文献にしか残らないほどかき消されて、
暴食の魔女が、災厄、怪物として、語り継がれるようになった頃、

暴食の魔女として、襲ってくる人を食べてた私は、
呪いを受けて、人を食べれなくなって。

「死にたくないのなら、もう生き物を食べるのは止めろ」
って言葉に、
「もう、私の体は食べないの?狙ってないの??」
って返して。
意味わからなそうな顔をした、「ゆうしゃ」って人の表情に、

…ああ、もう、、って思ったの。

だから、
ゆうしゃにお礼を言って、
彷徨って。

やっと見つけたこの洞窟に、身を隠したの。





​───────​───────


………多分、
人魚さん達は、
私の血や肉を食べて、
私のなり損ないみたいに、なっちゃったんだと思う。

地獄で、私の体を売ってた男達は、最初、まともに私の体を保存しようとしなかったの。

そしたら、私の体を食べても、
腐ってたり、私から切り離してから結構時間たってるものは、

何故だか不老不死になれなかったり、
体が変異してしまったり、
体の一部だけが増え続けた怪物になってしまったり。

そんな事が起こってたんだって、
さまよってた時に読んだ本で知ったの。

そして、その特徴は、子孫にまで反映されてったんだって。



だから、多分、人魚さん達も、そのうちの1人。
ううん。一種族なんだと思うの。

下半身が、水中で魚になってしまうように、変異して。
不老不死には、なれなくて。
血肉が万能薬になってしまう体に、なっちゃったんだと思う。

だって、私が産まれる前には、
私が、人に食べられるようになる前には、
人間以外の種族なんて、居なかったもの。


だから、ナインが襲われたのは、怪我をしてたのは、
私のせい…なんだと思う。



人魚さん達は、不老不死じゃなかったから、
肉が腐敗しないように、
瀕死まで追い詰めて、生け捕りにして、

生かしたまま、体を削がれたんだって。

いつかの、私みたいだ。

でも、人魚さん達は、死ぬ事が出来た。

ずーっと、苦しむ事だけは、無かった。

それだけは、良かったって、思っちゃったの。




…でも、その後に気付いた。


………ナインは??

ナインは、もう、不老不死になっちゃった。
私が、助けたから。


…じゃあ、ナインは………

捕まったら、あの時の私と同じ、地獄で生かされることになる………


それだけは、嫌だと思った。

絶対に、絶対に、
嫌だった。

だって、ナインは、
生まれて初めて、
私にありがとうって、言ってくれた。

生まれて初めて、
私に名前をくれた。

生まれて初めて、
私を撫でてくれた。

生まれて初めて、
私と遊んでくれた。


ナインに出会って、私は、

今、幸せなの。


…だから、絶対に、
ナインを守る。



「絶対に、私がナインを守るから!!」
そう宣言した私に、
「ありがとう」
って、笑ってくれたナインを見て、



何がなんでも、ナインを地獄へは行かせない。
そう、心に誓った。





…でも、
世界なんてものは…とても残酷で。





数日後。



私が、いつもみたいにナインと湖で食事をしてたら。

ナインを追ってきた人間に、襲われたの。



人を食べていた時に、
人の殺し方は知ってたから、
何とかそいつらは殺せたけど………………


そいつらの血で、湖と、湖の畔の石が、血に染まって。

食事が出来なくなくなっちゃったの。



私は、なんでも食べれちゃうから、平気だけれど。
ナインが生きるには、
塩と水、両方が必要だった。

住処の、岩塩の洞窟から行ける水辺は、ここしかない。

流れ続けてる川は、良くも悪くも、周りの影響を受けやすいの。
ずーっと、流れてるから。

もしかしたら、私がその水を飲む前に、
怪我をした生き物が上で血を流したかも。
って可能性も、分からないの。
…だから、飲めないの。



…だから……ナインの食事が、出来なくなってしまった。



ああ、なんで私は、血を流させないように殺さなかったの??

なんで私は、湖から離れて殺そうって思わなかったの??

…………守るって言ったくせに。
私の判断ミスで、ナインが死んでしまうかもしれない。

そう思ったら、辛くて。悲しくて。

ごめんね、ごめんね、
って言いながら、
ずっと、泣いてた。




​───────​───────


「………海にいけば、水も塩も、ある。」

私の涙が、あまり零れなくなると、

泣いてる間、ずっと、頭を撫でてくれてたナインが、ポツっと、呟いた。

「………うみ………??」

「そう。海。
………見たことない?
とっても広い、塩水の湖だよ。」

「見たこと、無い。
…ナインは、見たことあるの??」

「うん。
だって、僕の故郷がある場所だから。」

故郷…??

それは、人間に襲われて、いっぱい人魚さんが、傷付けられた場所…って事…??

だとしたら、ここと同じように、血で汚れてしまってる可能性が高い。

食べられるかどうか、分からないんじゃ………

そう思ってたら、考えが顔に出てたみたいで、
ナインがクスって笑った。

「大丈夫。海は、とっても広いから。
故郷から離れた場所は、いくらでもあるよ。」





​───────​───────


他に宛も無かった私達は、洞窟の岩塩を持てるだけ持って。
湖の先の、川に添って下って行った。

川が流れ着く先に、海があるんだって、ナインが言ってたから。

途中、人に見つかりそうになる度に身を隠して、
少しづつ、少しづつ、海へ向かって、歩いていった。



……そうすると、
一週間ぐらい歩き続けた辺りで、
遠くに、ゆらゆらとひかりを反射する物が見えてきた。


「あれが、海だよ」

嬉しそうなナインの声が、横から聞こえてくる。



………川は、影響を受けやすいから。
雨の降った時にしか、水分を補給できなくて。
持ってきた岩塩だけで飢えを凌いでたナインは、

かなり、痩せ細ってて。

「ああ、もう少しで、ナインもちゃんと食事出来る」
って、思ったら、

自然と、足が軽くなった。


早く、行かなくちゃ。

早く、はやく、ナインに元気になってもらいたい

はやく、はやく。






「クラ二ー!!危ない!!!!」

「……えっ??」


ガチャンッ
…と、無機質な音がして。







私の体が、宙に浮いた。




何が起こったのか分からなくて、


ナインの方を見ようとして、

私は、私が逆さまに釣り上げられてることに気がついた。
右足首が、痛い。
全体重が、足首にかかっているのだから、当たり前ではあるんだけど。
勢いで、骨折してないだけ、マシだった。


………なんで、こんな事になってるんだろう……??
なんでこんな所に、罠が………

慣れない旅で、疲労してたのか、
血が登ったせいか。
何故か、不自然にボーッとしてる頭で、考えてると、

ぎゃははははは!!
と、場に合わない、複数の笑い声が、近づいてきた

「ひひひひっ!!
目撃情報のあった川に、同胞の死骸しかなかったから、
もしかしたらと思って、川を下って先回りしてみたが………
まさか、こんな簡単な罠で捕まるなんてなぁ!!
俺らにも、運が回ってきたかもしれねぇなぁ…??」

「おっと、人魚の坊ちゃんよォ…
この嬢ちゃんに手ぇ出されたくなかったら、大人しくしてろよ??」

「嬢ちゃんも、勝手にあばれんなよ??
…つっ言っても、もう、命令しなきゃ暴れられねぇだろうけどなぁ…??」

下品な笑いを浮かべる男達が、
私たちにそう言って、近づいてきた。

足に付いてるものが、外せなくっても、 

足をちぎってしまえば、降りることが出来る。

足も、すぐに再生する。

…それが分かってるのに、体が動かない。


なんで…?なんで……??

視線の端で、ナインが男に捕まるのが見えた。


助けないと、
たすけないと!!
って思うのに。
体が、全く動かない…………

ナインの首に、私の足に付いてるものと、同じものが嵌められた。彼の身体から、ガクッと、力が抜けた。

ナイン!!
そう叫ぼうとして、
大きな声が出せない事に気づいた。
なんで……??どうして………????

訳のわからない事ばかりで。
体が全く動かなくて。

「リーダー。この女、どうするんだ??
この人魚捕まえたら、用済みだろ??」

「奴隷市にでも売るか??
こんだけ美人なら、ちっこくても売れるだろ?
むしろ、ちっちぇ方が好みなクズも居るみてぇだしなぁ!!ぎゃははははは!!!!」

「いや、連れてく。その為に、そいつにも、【従属の輪】を使ったんだからな。

なら、この、【】はだ。
ぞ。」




………その言葉に、絶望した。



………ああ、

なんで……… 

どうして………



どうして、この男は、私のことを知ってるの??


どうして、薬のことを、知ってるの??


どうして、体が、動かないの????




なにも、なにも、分からない…………

ただひとつだけ、分かること。

………この先に待っているのは、地獄だ。

あの時と同じ、地獄だ。

…でも、あの時と違って、私1人だけの、地獄じゃ、ない。


このままじゃ、ナインまで、あの地獄に、連れてかれてしまう。




嫌だ………嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!



ナインだけは、何とか助けないといけない。

あの地獄に、連れていくわけにはいかない。

でも、体が、動かない。


嫌なのに……助けたいのに………

男に、担がれて。

私とナインは、近くに停められてた馬車の荷台の、檻の中に、放り込まれてしまった。




​───────​───────






──馬車に揺られて、
どれぐらい経っただろう。

数回、食事らしきものが運ばれてきて、
その時は、ほんの少しだけ、体を動かすことが出来た。

私の足と、ナインの首に付いているものは、
私たちを、男の言う通りに動かすためのものだったみたいだ。

その証拠に、食事が用意されて、
「食べていいぞ。ただし、壊したり逃げたりすんなよ。」
って言われると、
体を動かすことが出来たから。

食事は、水と、塩。

「食べれるものを言え。」
って男に言われて、ナインが答えた物。

上手く力の入らない、縛られた手で、それを食べる。



あぁ、
どうすればいいんだろう。
どうすれば、ナインをあの地獄に行かせないで済むんだろう。


旅をしていた時より、捕まっていた方が食事に困らないなんて、とても酷い現実だと思った。


あんな、辛い思いは……
死にたくても死ねない地獄は、
ナインには味合わせたくない。




ナインは、私と同じように、黙って食事をとっていた



私が、勝手なことをしたから。
私が、勝手に動いたから。

私が………
私が………



ナインが、言葉を発さない事が。
ナインが、私を見てくれない事が。

私のことを責めているようで、
とても辛かった。





​───────​───────



更に、数日が経ったと思う。
相変わらず、私達は、檻の中で。
食事の時と、トイレの時以外、身体の自由は奪われてた。



「…クラ二ー。ちょっと聞いて。」

食事の時間になって。
久々に、ナインが、私の名前を呼んでくれた。

嬉しくって、顔が、笑いそうになってしまったけれど、
真剣そうなナインの顔を見て、顔を引き締める。

「…ナイン?どうしたの??」

「僕は、食事の時間。少し、聞き耳を、たててたんだ。
この、【従属の輪】ってのは、五感も鈍くするみたいだったから、その時しか、情報が手に入らないって、思ったから。

何とか、助かる方法が無いかなって、思ってたんだ。

でも、それは、無理みたいだ。」

「そんな…!!」
思わず叫びそうになったら、
しー、っと、人差し指を、口に当てられる。

「時間が無いんだ。話を聞いて。

無理だって言ったのは、この【従属の輪】のせい。
これ、どうしても外れないみたいなんだ。
あの男達ですら、外せないみたい。

これが外れないと、あの男達から離れる事が出来ない
逃げることができないと、多分、僕達は、目的地とやらについた途端、
離れ離れにさせられる。

生きてないと、不老不死の薬にも、万能薬にも、ならないから、どんな事をされても、死ぬ事だけは避ける。
殺しても、もらえないと思う。


そして、この馬車は、明日、目的地に着く。
男達が、そう言っていた。

だから、その前に。」


その前に、ってもう1回言い戻って。
言いづらそうに、ナインが、
口を開いた。






「………クラ二ー。
その前に。
僕と、一緒に死んでくれますか?」











………ああ、
そっか…。





そうよね、ナイン。



そうすれば、良かったのね………




絶対に、逃げられないなら。
この先に、地獄しか無いなら。
ナインと、離れたくないなら。
万能薬になんて。
不老不死の薬になんて、なりたくないなら。



ナインと、死んでしまえば良かったんだ。







………私は、返事の代わりに。


ナインの口に、自分の口を近づける




食事は、取れる。
でも、今までみたいに、硬いものは、噛み砕けない。

物を、飲み込むことは出来る。
噛みちぎれたものなら、飲み込める。

私達は、不老不死だ。
…でも、呪われてる。


死ぬ事が出来る呪いが、かけられてる。


、死ねる。


それは別に、血や肉だけじゃない。




だから、
こうすれば。



口と口を合わせて、
お互いの唾液を、飲み込めば。














………喉が、焼けるような感覚がして。



「口と口を、合わせるのは、恋人の証なんだよ」


なんて、こんな時に不似合いに笑うナインの笑顔に、
釣られて笑って。





幸せな気持ちに、包まれて。





…ずっと、死にたいと願っていた、少女は。




……罪を背負って、ただただ息をしていただけの魔女は。




………1人の少年を救った、呪われた魔女は。




……少年と一緒に。永遠に、その目を閉じた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

飴谷きなこ
2018.02.14 飴谷きなこ
ネタバレ含む
解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。