『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

何もしなければ死ぬこともなかったのに

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 ◆

 スズメは街灯の明かりが頼りなく照らす深夜の道をとぼとぼ歩きながら、一先ずはパロットの言う通り施設を目指していた。これからどうするべきだろうか。

本当はヨルの元に行って共に戦いたい。しかしあそこまで団長に口酸っぱく止められてはスズメとしても動きにくかった。しかしそんなスズメの悩みは思いがけない事態に飲み込まれ、消え去ることになる。

「やっと見つけましたわ」

 カツン、とヒールの音が響いて、目の前に見覚えのある人物が現れる。漆黒の髪と目、大きな黒いリボンに漆黒のドレス。黒ずくめの服装に所々赤と紫の差し色が入っているのが艶めかしい美しい女性。トコヤミだ。

「どうして・・・・・・」
「計画日を早めれば貴方は必ず動くと思っていましたの。自警団に知らせるおつもりでしょう? そうはさせませんわ」

 どうやら既に自警団に情報が伝わっているとは気付いていないらしい。それは不幸中の幸いだが、だとするならば今スズメは絶対絶滅の危機に晒されていることになる。

 もし自分がトコヤミならスズメが余計なことをしないうちに相手の息の根を止めようとするはずだ。一瞬パロットに助けを求めることも考えたが、パロットは『名前を呼んで助けを求めろ』と言っていた。今ここでおかしな事を叫べば、トコヤミ達に自警団に情報が渡っていると勘付かれてしまうかもしれない。そうなれば再び計画の変更が行われたり、自警団への先制攻撃が行われたりする可能性もある。下手な行動には出られない。スズメが思案しているうちに、トコヤミの後ろからゾロゾロと大量の私兵団が現れる。私兵団はスズメを囲み武器を構えた。

「馬鹿な子。何もしなければ死ぬこともなかったのに」
「俺は死ぬつもりなんてない!」

 スズメは咄嗟に種を入れているポケットに手を突っ込み、能力を込めて数人の私兵団に向けて投げ付けた。
 投げ付けたのは、ドロソフィルムの種。葉にびっしりと生えている細い毛から消化酵素が含まれている粘着液を出す食虫植物だ。スズメの能力で通常の何倍にも成長したドロソフィルムは私兵団員たちを捕まえじわじわと皮膚を溶かす。

「うわぁぁ!?」
「なんだ!?」

 私兵団員たちは攻撃を受けるとは思わなかったのだろう。突然現れた緑の怪物に慌てふためく。

「ちょっと! 何をしているの!」
「申し訳ございません、お嬢様!」
「お前ら鴉族の私兵団だろ、なんで当主じゃなくてその女に付き従うんだよ!」

 スズメは次々に種を投げながら問う。しかしそれに応えたのはトコヤミだった。

「お父様は生温いわ!」
「生温い?」
「そもそもなぜ昼行性鳥人と夜行性鳥人は戦争なんてしていたと思う?」

 トコヤミの言葉に一瞬両者の戦いの手が止まる。

「理由があるのよ。一部の鳥人しか知らない理由がね」

 昼行性鳥人と夜行性鳥人が何故戦争していたか。そういえば訓練学校でもそれ以外でも戦いの理由は聞いたことが無かった。どうして今まで疑問に思わなかったのだろう。凄く重要なことのはずなのに完全に頭の中から消し去ってしまっていた。

「昼夜戦争の前にも小さな小競り合いはずっとあった。けれど一番大きな戦いは昼夜戦争。その原因はね、限られている食料と土地の奪い合いよ」
「限られている・・・・・・?」
「この世界は少しずつ汚染されているの。国土の外側からじわじわとね。植物は枯れるか毒を持ち、土は砂に変わっていっている。最北端の地域では既に食糧難に苦しんでいるわ」

 私兵団の団員たちも知らない事実だったのだろう。誰も一言も発しない。辺りは夜の静寂を取り戻し、しんとしている。

「食べるものも住む場所も少しずつ削られていっている。だからね、私たちも減らさなきゃいけないのよ」

 命の数をね、とトコヤミは妖艶に笑った。

「そしてその戦争のきっかけを作ったのが鴉族」
「鳥人を減らす為に戦争のきっかけを作った・・・・・・?」

 スケールが大き過ぎる話に茫然とする。

「なんだよ、それ・・・・・・」
「私たち鴉族はね、常に最良の決断をしてきた。何をしてでも自分たちが生き残るためにね」
「他の鳥人はどうでもいいってことかよ!?」
「ええそうよ。どうなろうと知ったことじゃない。私達は今から再び戦争の火種をつくる。昼行性の奴らを皆殺しにして、私たち夜行性鳥人が生き残る為のね。これは必要なことなの」

 トコヤミの目は夢見がちな少女のように純粋に光り輝いていた。今この状況ではそれが不気味で仕方ない。目の前にいるのはなんだ。とても同じ鳥人とは思えない。スズメはその違和感に耐えきれず声を荒げた。

「それはあんたの理屈だ!」
「いいえ、現実よ。戦争は絶対必要なのよ! 昼行性鳥人と夜行性鳥人は仲良しこよしなんて出来ない。昼行性鳥人に友好的なお父様やお兄様では駄目。私がやるの!」

 そう叫ぶとトコヤミは右手を真上に上げて合図した。

 ◆
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