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序章、第一話
こういう役目はお前の筈だろ
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◆
ロムが奮闘する中、それは突然起こった。地鳴りのような音と共に複数人の悲鳴が辺りに響き渡ったのだ。
見れば通常の何十倍、何百倍も成長した草花が私兵団員たちを捉え、木々の枝がその身体を刺し貫いている。そして育った植物の真ん中にはスズメの姿があった。一切の感情を消し去った顔に、目だけはやたらとぎらつかせて、ふらふらと頼りなく立っている。その足元にはヨルの遺体が横たわっていた。
「ロム隊長! これはもしかして・・・・・・!」
「ああ、『暴走』だ!」
ロムは部下の言葉に頷きつつ、スズメの様子を観察した。ロムの能力で癒したとはいえ、本来ならばあれ程の大量出血の後立ち上がれる筈もないのだ。勿論、能力を使うなんてもってのほか。それもこんなに力の大盤振る舞いをしていたら、いつ命を落としてもおかしくない。しかしスズメはヨルを殺された怒りからか我を忘れているようだ。能力の暴走。早くスズメを正気に戻して止めてやらないと取り返しのつかないことになる。
「スズメ! やめろ! 後は自警団が片付ける!」
琥珀の目を見詰めてロムは声を張り上げる。しかしスズメは瞬き一つせず、私兵団を睨み付けていた。
「ば、化け物! 助けてくれぇ!」
枝に串刺しにされている私兵団員たちは怯えて助けを乞う。手足をばたつかせて何とか抜け出そうとする者もいた。けれど木々の動きは止まらず、獲物を逃さぬよう巻き付いて締め付けると、また次の獲物に襲い掛かった。そしてはじめに捉えた者から順に血を吸い取りだしたのだ。これは推測だが、スズメが無意識に失った血液を補おうとしているのだろう。血を吸われた者は萎れた身体をぐったりと木に預け、気を失っている。
――――ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!
木々の成長は止まらず益々大きくなる。
「スズメ! このままだと君が死ぬぞ!」
「・・・・・・」
「聞こえないのか!」
スズメは黙って左手を前方に掲げた。鋭利な枝が今度はトコヤミを捉える。
「きゃああああ!」
「お前だ。お前だけは絶対許さない」
「わ、私はお兄様の妹ですのよ!?」
「関係ない」
ギリギリと草木がトコヤミの四肢を縛り上げる。
「お前さえいなければヨルは死ななかった」
より一層太い枝がトコヤミの肩に突き刺さった。
「ぐ・・・・・・ぁ・・・・・・」
大量の血が出る。助ける者はいない。気付けばこの場にいる私兵団の全員がスズメの操る樹木達に一掃されていた。
「スズメ、もう十分だよ。動ける私兵団員は一人もいない!」
「・・・・・・」
「スズメ!」
やはり答えないスズメ。ロムは一か八か走り出した。
(ヨル、こういう役目はお前のはずだろ)
そう心の中で文句を垂れながら、ロムはスズメの身体をそっと抱き締める。びくりとスズメの身体が揺れた。
「ヨル・・・・・・?」
「悪かったね、あいつじゃなくて」
「・・・・・・そっか。ロムか」
スズメはゆっくりと目を閉じる。
「俺さえいなかったら、ヨルは死ななかったのになぁ・・・・・・」
か細い声でそう言って、小さな身体から力が抜ける。その悲しい響きに腹が立ってロムは腕の力を強くした。
スズメが暴走したのは現実を受け入れられなかったからだ。自分のせいでヨルが死んでしまったという罪悪感。自分自身を許せない心が暴走に繋がり、スズメ自身とトコヤミ達に襲い掛かった。けれどそんなこと知ったことか。スズメ自身にだってスズメを傷付けさせない。絶対、死なせない。ヨルが助けた命だ。何としても生き永らえさせてみせる。
生意気なくそ餓鬼だけど、一人前になるまで面倒みてやるさ。
「それで満足だろう、ヨル」
問い掛けに答える者はいない。
だがロムはそれで満足だった。
――――死者一名。私兵団、自警団共に重軽傷者多数。民間人の犠牲ゼロ。訓練生一人重症。トコヤミ達は全員生きたまま捕えられて牢に入れられた。
それが今回のクーデターでの結果だった。
そしてそれから三年後。
スズメは無事に自警団訓練学校を主席で卒業する。二匹の鳥とオリーブの葉があしらわれた腕章のついた、真新しい制服に身を包みロムに顔を見せにきたスズメは少し大人びた顔をしていた。
「ヨルには?」
「挨拶に行ったよ。墓前で敬礼してきた」
「そうか」
ロムは書類を取り出しスズメに渡した。
「これは?」
「元アウトサイド出身者の名簿と斡旋した就職先のリストだ」
「本当に約束守ってくれたんだ」
スズメが自警団に入れば、スズメのアウトサイド時代の仲間達の面倒をみる。それがスズメとロムが交わした約束だった。そしてスズメが正式に入隊した今、約束は果たされたのだった。
「ロムは東方に転属だっけ?」
「そう。君はまだあと一年中央で訓練だったね。その一年で辞めたいなんて言い出さないといいけれど」
「絶対やめない」
スズメはしっかりした口調で言った。
「俺は、ヨルの役に立つんだ」
「・・・・・・そう」
変わらないね、と呟いてロムは窓の外に目をやる。色鮮やかな春の花が咲き乱れる中庭は、スズメのこれからを祝福するように輝いていた。
ロムが奮闘する中、それは突然起こった。地鳴りのような音と共に複数人の悲鳴が辺りに響き渡ったのだ。
見れば通常の何十倍、何百倍も成長した草花が私兵団員たちを捉え、木々の枝がその身体を刺し貫いている。そして育った植物の真ん中にはスズメの姿があった。一切の感情を消し去った顔に、目だけはやたらとぎらつかせて、ふらふらと頼りなく立っている。その足元にはヨルの遺体が横たわっていた。
「ロム隊長! これはもしかして・・・・・・!」
「ああ、『暴走』だ!」
ロムは部下の言葉に頷きつつ、スズメの様子を観察した。ロムの能力で癒したとはいえ、本来ならばあれ程の大量出血の後立ち上がれる筈もないのだ。勿論、能力を使うなんてもってのほか。それもこんなに力の大盤振る舞いをしていたら、いつ命を落としてもおかしくない。しかしスズメはヨルを殺された怒りからか我を忘れているようだ。能力の暴走。早くスズメを正気に戻して止めてやらないと取り返しのつかないことになる。
「スズメ! やめろ! 後は自警団が片付ける!」
琥珀の目を見詰めてロムは声を張り上げる。しかしスズメは瞬き一つせず、私兵団を睨み付けていた。
「ば、化け物! 助けてくれぇ!」
枝に串刺しにされている私兵団員たちは怯えて助けを乞う。手足をばたつかせて何とか抜け出そうとする者もいた。けれど木々の動きは止まらず、獲物を逃さぬよう巻き付いて締め付けると、また次の獲物に襲い掛かった。そしてはじめに捉えた者から順に血を吸い取りだしたのだ。これは推測だが、スズメが無意識に失った血液を補おうとしているのだろう。血を吸われた者は萎れた身体をぐったりと木に預け、気を失っている。
――――ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!
木々の成長は止まらず益々大きくなる。
「スズメ! このままだと君が死ぬぞ!」
「・・・・・・」
「聞こえないのか!」
スズメは黙って左手を前方に掲げた。鋭利な枝が今度はトコヤミを捉える。
「きゃああああ!」
「お前だ。お前だけは絶対許さない」
「わ、私はお兄様の妹ですのよ!?」
「関係ない」
ギリギリと草木がトコヤミの四肢を縛り上げる。
「お前さえいなければヨルは死ななかった」
より一層太い枝がトコヤミの肩に突き刺さった。
「ぐ・・・・・・ぁ・・・・・・」
大量の血が出る。助ける者はいない。気付けばこの場にいる私兵団の全員がスズメの操る樹木達に一掃されていた。
「スズメ、もう十分だよ。動ける私兵団員は一人もいない!」
「・・・・・・」
「スズメ!」
やはり答えないスズメ。ロムは一か八か走り出した。
(ヨル、こういう役目はお前のはずだろ)
そう心の中で文句を垂れながら、ロムはスズメの身体をそっと抱き締める。びくりとスズメの身体が揺れた。
「ヨル・・・・・・?」
「悪かったね、あいつじゃなくて」
「・・・・・・そっか。ロムか」
スズメはゆっくりと目を閉じる。
「俺さえいなかったら、ヨルは死ななかったのになぁ・・・・・・」
か細い声でそう言って、小さな身体から力が抜ける。その悲しい響きに腹が立ってロムは腕の力を強くした。
スズメが暴走したのは現実を受け入れられなかったからだ。自分のせいでヨルが死んでしまったという罪悪感。自分自身を許せない心が暴走に繋がり、スズメ自身とトコヤミ達に襲い掛かった。けれどそんなこと知ったことか。スズメ自身にだってスズメを傷付けさせない。絶対、死なせない。ヨルが助けた命だ。何としても生き永らえさせてみせる。
生意気なくそ餓鬼だけど、一人前になるまで面倒みてやるさ。
「それで満足だろう、ヨル」
問い掛けに答える者はいない。
だがロムはそれで満足だった。
――――死者一名。私兵団、自警団共に重軽傷者多数。民間人の犠牲ゼロ。訓練生一人重症。トコヤミ達は全員生きたまま捕えられて牢に入れられた。
それが今回のクーデターでの結果だった。
そしてそれから三年後。
スズメは無事に自警団訓練学校を主席で卒業する。二匹の鳥とオリーブの葉があしらわれた腕章のついた、真新しい制服に身を包みロムに顔を見せにきたスズメは少し大人びた顔をしていた。
「ヨルには?」
「挨拶に行ったよ。墓前で敬礼してきた」
「そうか」
ロムは書類を取り出しスズメに渡した。
「これは?」
「元アウトサイド出身者の名簿と斡旋した就職先のリストだ」
「本当に約束守ってくれたんだ」
スズメが自警団に入れば、スズメのアウトサイド時代の仲間達の面倒をみる。それがスズメとロムが交わした約束だった。そしてスズメが正式に入隊した今、約束は果たされたのだった。
「ロムは東方に転属だっけ?」
「そう。君はまだあと一年中央で訓練だったね。その一年で辞めたいなんて言い出さないといいけれど」
「絶対やめない」
スズメはしっかりした口調で言った。
「俺は、ヨルの役に立つんだ」
「・・・・・・そう」
変わらないね、と呟いてロムは窓の外に目をやる。色鮮やかな春の花が咲き乱れる中庭は、スズメのこれからを祝福するように輝いていた。
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