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第一話/治療を望みますか?
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「残念ですが、貴方の余命はあと三ヶ月です」
夜の公園で、一際目を引く真っ白な白衣に身を包んだ女の子は全く表情を動かさずにそう言い放った。
「治療を望みますか?」
悠(ちか)は小さく首を振る。
「いいえ」
それが悠と少女の出会いだった。
◆
誰もいない深夜の小さな公園。
頼りない電灯が照らすベンチに悠はいた。
服は泥々で、ところどころ伸びたり破れたりしている。黒い短髪はボサボサ。顔の両の窪みには何もかも諦めたような硝子玉みたいな黒玉が嵌っていた。
同級生から浴びせられたのは、喧嘩というには余りにも一方的な暴力だった。しかし嘆いたところで慰めてくれる者は誰もいない。
中学の頃に離婚した両親。悠を引き取った母は今頃新しい恋人と過ごしているだろう。
悠には家にも学校にも居場所がなかった。
悠は人生の時間がいくらか早まるように祈りながらベンチの上の落書きを指でなぞる。
意味なんてない。ただ早く何もかもが過ぎ去って欲しかった。
木製のベンチには落書きの他にもシールが貼られている。子供が貼ったのだろう恐竜のシールや流行っているキャラクターのシール。その中に紛れたQRコードのシールに悠は目を止めた。
スマートフォンで読み込んでみたのはただの気まぐれだ。やる事が他に無かったとも言える。
スマートフォンの画面に表示されたのは『ドクター』というアプリ。聞いたこともない。
インストールしてみたのはやはり気まぐれでしかなかった。しかしそれが自分の人生を左右することになるとはこの時の悠は知らなかった。
ーーーそして話は冒頭に戻る。
アプリをインストールした瞬間だった。目の前に突然前述の少女が現れたのだ。光の加減によって青や紫、ピンクに輝くウェーブがかった長い髪。アメシスト色の瞳。十代前半と思わしき、見目麗しい姿。そんな美少女がこんな真夜中に、音もなく突然現れたのだ。到底ありえない事象である。しかし悠にはこの非現実的な出来事に驚く気力が残っていなかった。何もしたくない。何もされたくない。消えて楽になってしまいたい。
それなのに少女は再び問う。
「治療を望みますか?」
少女の凪いだ目が悠を見詰める。否定は許さないというように何度も何度も繰り返される質問。悠は観念して一言「保留」とだけ答えた。
「保留、というのは初めて言われました」
「そう」
「困りました。どうしたらいいのかわかりません」
少女は戸惑っているようだった。
「呼び出したのはあなたなのに。治療を望まないばかりか保留だなんて」
「呼び出した?」
「治療アプリを起動させたでしょう?」
少女は一歩悠に近づくとスマートフォンの画面を指差した。そこには先程の『ドクター』というアプリの画面で『派遣済み』と表示されている。
「治療を完了させないと帰れないのに。とても困ります」
「それは・・・ごめん」
少女に責められて悠は反射的に謝った。
にわかには信じられないことだが、この少女は悠がアプリをインストールして起動させたために現れたらしい。そして悠の『治療』とやらを完了させないと元の場所に帰ることが出来ないというのだ。
「こうなったら仕方ありません。暫くあなたと行動を共にしようと思います」
「はぁ!?」
ぺこりと頭を下げ挨拶する少女に悠は素っ頓狂な声を上げた。
「大丈夫、患者以外にはドクターの姿は視認できませんから」
「ドクター?」
「その名の通り、治療にあたる医師のことです」
「医者だって?君みたいな子供が?」
自分より背丈の低い女の子を見下ろして言うと、少女は溜め息を吐いた。
「信じるか信じないかはあなたに任せます」
「私の名前は『クロノス』。よろしくお願いしますね、悠」
こちらは名乗っていないのに少女クロノスは悠の名前を呼んで、悠が腰掛けているベンチにちょこんと座った。
◆
夜の公園で、一際目を引く真っ白な白衣に身を包んだ女の子は全く表情を動かさずにそう言い放った。
「治療を望みますか?」
悠(ちか)は小さく首を振る。
「いいえ」
それが悠と少女の出会いだった。
◆
誰もいない深夜の小さな公園。
頼りない電灯が照らすベンチに悠はいた。
服は泥々で、ところどころ伸びたり破れたりしている。黒い短髪はボサボサ。顔の両の窪みには何もかも諦めたような硝子玉みたいな黒玉が嵌っていた。
同級生から浴びせられたのは、喧嘩というには余りにも一方的な暴力だった。しかし嘆いたところで慰めてくれる者は誰もいない。
中学の頃に離婚した両親。悠を引き取った母は今頃新しい恋人と過ごしているだろう。
悠には家にも学校にも居場所がなかった。
悠は人生の時間がいくらか早まるように祈りながらベンチの上の落書きを指でなぞる。
意味なんてない。ただ早く何もかもが過ぎ去って欲しかった。
木製のベンチには落書きの他にもシールが貼られている。子供が貼ったのだろう恐竜のシールや流行っているキャラクターのシール。その中に紛れたQRコードのシールに悠は目を止めた。
スマートフォンで読み込んでみたのはただの気まぐれだ。やる事が他に無かったとも言える。
スマートフォンの画面に表示されたのは『ドクター』というアプリ。聞いたこともない。
インストールしてみたのはやはり気まぐれでしかなかった。しかしそれが自分の人生を左右することになるとはこの時の悠は知らなかった。
ーーーそして話は冒頭に戻る。
アプリをインストールした瞬間だった。目の前に突然前述の少女が現れたのだ。光の加減によって青や紫、ピンクに輝くウェーブがかった長い髪。アメシスト色の瞳。十代前半と思わしき、見目麗しい姿。そんな美少女がこんな真夜中に、音もなく突然現れたのだ。到底ありえない事象である。しかし悠にはこの非現実的な出来事に驚く気力が残っていなかった。何もしたくない。何もされたくない。消えて楽になってしまいたい。
それなのに少女は再び問う。
「治療を望みますか?」
少女の凪いだ目が悠を見詰める。否定は許さないというように何度も何度も繰り返される質問。悠は観念して一言「保留」とだけ答えた。
「保留、というのは初めて言われました」
「そう」
「困りました。どうしたらいいのかわかりません」
少女は戸惑っているようだった。
「呼び出したのはあなたなのに。治療を望まないばかりか保留だなんて」
「呼び出した?」
「治療アプリを起動させたでしょう?」
少女は一歩悠に近づくとスマートフォンの画面を指差した。そこには先程の『ドクター』というアプリの画面で『派遣済み』と表示されている。
「治療を完了させないと帰れないのに。とても困ります」
「それは・・・ごめん」
少女に責められて悠は反射的に謝った。
にわかには信じられないことだが、この少女は悠がアプリをインストールして起動させたために現れたらしい。そして悠の『治療』とやらを完了させないと元の場所に帰ることが出来ないというのだ。
「こうなったら仕方ありません。暫くあなたと行動を共にしようと思います」
「はぁ!?」
ぺこりと頭を下げ挨拶する少女に悠は素っ頓狂な声を上げた。
「大丈夫、患者以外にはドクターの姿は視認できませんから」
「ドクター?」
「その名の通り、治療にあたる医師のことです」
「医者だって?君みたいな子供が?」
自分より背丈の低い女の子を見下ろして言うと、少女は溜め息を吐いた。
「信じるか信じないかはあなたに任せます」
「私の名前は『クロノス』。よろしくお願いしますね、悠」
こちらは名乗っていないのに少女クロノスは悠の名前を呼んで、悠が腰掛けているベンチにちょこんと座った。
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