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第三話/ドクターネイバー
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◆
「・・・逃げてきちゃった」
凛(りん)は学校の帰り道、地面をぼんやり見詰めながら歩いていた。先程学校の廊下で見かけた光景が頭を過ぎる。
同級生が虐められていた。それもただの同級生ではない。凛の幼馴染。保育園の時から一緒だった悠という男子生徒。
「小さい頃は毎日一緒に遊んだのに」
いつの間にか異性と遊ぶのは気恥ずかしくなってどちらともなく離れてしまった。今となっては声をかけることすら難しい。彼が虐められているからだ。彼に近付いたら、自分も巻き込まれていじめのターゲットになりかねない。だから今回も彼を助けることなく、虐められているのを見て見ぬふりをしてその場を立ち去った。ーーー立ち去ってしまった。
彼は大丈夫だろうか。
実をいうと凛はずっと悠のことが気掛かりだった。心優しく大人しい悠。一度は友人だった相手。そんな彼がボロボロになっていくのをみるのが辛かった。最近は何もかも諦めたような冷めた目をしているのにも気になっている。そのうち何かよからぬ事でも起こしてしまいそうな危うさ。
ああ自分にもっと勇気があったら。彼の支えになれるかもしれないのに。或いはクラスの中で影響力の強い生徒だったら。いじめを止められるかもしれないのに。実際はちっぽけな自分がいるだけ。
凛は肩を落として自宅の玄関扉を開けた。
「ただいま」
「おかえりー」
キッチンの方から母親の声が聞こえる。
元気な声に少し気分が浮上した。
「あ、そういえば凛に郵便が来てたわよ」
「郵便?」
「学習机の上に置いといたから」
言われてハッと顔を上げる。
「お母さんまた私の部屋に勝手に入ったの!?」
「あら、嫌なら自分でお掃除しなさい?」
母は心配しなくても何もみてないわよと言い、再度料理に取り掛かりはじめた。そんな母の背中を溜め息混じりに見詰めて凛は自室へと向かった。
◆
母の言う通り、机の上には一枚の葉書が置いてあった。差出人の名前はない。ただ凛の家の住所と凛の名前、そしてQRコードが書かれているだけだった。
「何だろう?」
何かの詐欺かとも思ったが、何となく気になって凛は自分のスマートフォンにQRコードをかざしてみた。
するとどうだろう。
辺りがぱあっと明るくなって、気が付けば目の前に見覚えのない少女が立っているではないか。
「だ、誰?」
金糸の髪をツインテールにして、制服のようなワンピースの上に白衣を纏い、手にはテディベア。澄んだ緑の目を此方に向けてあどけなく笑っている。
「凛ちゃん!こんばんは!呼び出してくれてありがとう!」
「呼び出す・・・?」
「そう!凛ちゃんは今ドクターってアプリでわたしを呼び出したんだよ!」
少女は元気にその場でくるりと一回転してみせた。短いスカートがひらりと宙を舞う。
「わたしの名前はネイバー!これからよろしくね、凛ちゃん!」
「ちょ、ちょっと待って!意味が良く分からないんだけれど・・・」
「心配しないで!わたしがいっしょに頑張るからね」
ネイバーは凛の手を両手でぎゅっと握って上目遣いをしてきた。突然現れた可憐な少女に凛はその茶色の瞳を白黒させる。
「凛ちゃんは今とても心が弱い状態なの。だからドクターであるわたしが凛ちゃんの主治医になるんだよ」
「医者?あなたみたいな子供が?」
「子供じゃないもん!『ドクター』!」
「・・・凛、あなた一人で何騒いでいるの?」
部屋の扉の方で声がする。みればいつの間にか部屋にやってきていた母が立っていた。
その目は怪訝そうに凛を見詰めている。
「あっ、お母さん!みて、この子、突然うちに来て・・・」
「何言ってるの?どうみてもあなた一人しかいないじゃない」
「えっ!」
ネイバーの方をみると、軽く肩をすくめられた。
どうやら母には少女の姿が見えないらしい。ということはこの少女はただの少女ではないのか。
「まさか幽霊!?」
「何おかしなこと言ってるの?熱は・・・無いわね」
母がおでこに手を当てて確認してくる。
「勉強のし過ぎかしら・・・今日はお夕飯食べてお風呂に入ったらすぐに休みなさいね」
首を傾げながらも母はそれだけ言い残して部屋を去っていく。凛は呆気に取られたままネイバーと共に部屋に残された。
「・・・逃げてきちゃった」
凛(りん)は学校の帰り道、地面をぼんやり見詰めながら歩いていた。先程学校の廊下で見かけた光景が頭を過ぎる。
同級生が虐められていた。それもただの同級生ではない。凛の幼馴染。保育園の時から一緒だった悠という男子生徒。
「小さい頃は毎日一緒に遊んだのに」
いつの間にか異性と遊ぶのは気恥ずかしくなってどちらともなく離れてしまった。今となっては声をかけることすら難しい。彼が虐められているからだ。彼に近付いたら、自分も巻き込まれていじめのターゲットになりかねない。だから今回も彼を助けることなく、虐められているのを見て見ぬふりをしてその場を立ち去った。ーーー立ち去ってしまった。
彼は大丈夫だろうか。
実をいうと凛はずっと悠のことが気掛かりだった。心優しく大人しい悠。一度は友人だった相手。そんな彼がボロボロになっていくのをみるのが辛かった。最近は何もかも諦めたような冷めた目をしているのにも気になっている。そのうち何かよからぬ事でも起こしてしまいそうな危うさ。
ああ自分にもっと勇気があったら。彼の支えになれるかもしれないのに。或いはクラスの中で影響力の強い生徒だったら。いじめを止められるかもしれないのに。実際はちっぽけな自分がいるだけ。
凛は肩を落として自宅の玄関扉を開けた。
「ただいま」
「おかえりー」
キッチンの方から母親の声が聞こえる。
元気な声に少し気分が浮上した。
「あ、そういえば凛に郵便が来てたわよ」
「郵便?」
「学習机の上に置いといたから」
言われてハッと顔を上げる。
「お母さんまた私の部屋に勝手に入ったの!?」
「あら、嫌なら自分でお掃除しなさい?」
母は心配しなくても何もみてないわよと言い、再度料理に取り掛かりはじめた。そんな母の背中を溜め息混じりに見詰めて凛は自室へと向かった。
◆
母の言う通り、机の上には一枚の葉書が置いてあった。差出人の名前はない。ただ凛の家の住所と凛の名前、そしてQRコードが書かれているだけだった。
「何だろう?」
何かの詐欺かとも思ったが、何となく気になって凛は自分のスマートフォンにQRコードをかざしてみた。
するとどうだろう。
辺りがぱあっと明るくなって、気が付けば目の前に見覚えのない少女が立っているではないか。
「だ、誰?」
金糸の髪をツインテールにして、制服のようなワンピースの上に白衣を纏い、手にはテディベア。澄んだ緑の目を此方に向けてあどけなく笑っている。
「凛ちゃん!こんばんは!呼び出してくれてありがとう!」
「呼び出す・・・?」
「そう!凛ちゃんは今ドクターってアプリでわたしを呼び出したんだよ!」
少女は元気にその場でくるりと一回転してみせた。短いスカートがひらりと宙を舞う。
「わたしの名前はネイバー!これからよろしくね、凛ちゃん!」
「ちょ、ちょっと待って!意味が良く分からないんだけれど・・・」
「心配しないで!わたしがいっしょに頑張るからね」
ネイバーは凛の手を両手でぎゅっと握って上目遣いをしてきた。突然現れた可憐な少女に凛はその茶色の瞳を白黒させる。
「凛ちゃんは今とても心が弱い状態なの。だからドクターであるわたしが凛ちゃんの主治医になるんだよ」
「医者?あなたみたいな子供が?」
「子供じゃないもん!『ドクター』!」
「・・・凛、あなた一人で何騒いでいるの?」
部屋の扉の方で声がする。みればいつの間にか部屋にやってきていた母が立っていた。
その目は怪訝そうに凛を見詰めている。
「あっ、お母さん!みて、この子、突然うちに来て・・・」
「何言ってるの?どうみてもあなた一人しかいないじゃない」
「えっ!」
ネイバーの方をみると、軽く肩をすくめられた。
どうやら母には少女の姿が見えないらしい。ということはこの少女はただの少女ではないのか。
「まさか幽霊!?」
「何おかしなこと言ってるの?熱は・・・無いわね」
母がおでこに手を当てて確認してくる。
「勉強のし過ぎかしら・・・今日はお夕飯食べてお風呂に入ったらすぐに休みなさいね」
首を傾げながらも母はそれだけ言い残して部屋を去っていく。凛は呆気に取られたままネイバーと共に部屋に残された。
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