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【5】少年少女。
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東京からしばらく特急に揺られ、そこから在来線に乗り換えて数時間、殆ど手入れもされていないような無人駅で降りる。バスの時刻表を確認するが、案の定朝と夕方に数本出ているだけだったので仕方なく歩く事になる。当然だがタクシーなんて見当たるはずもなかった。
駅の片側からは潮の香りがし、もう反対側は山だ。
「うみですよーっ!!」
その香りに走り出したバカを捕まえて向かうのは反対側。山沿いの道だ。頬を膨らませるバカだったが構わず足を進める。――つーか、こいつは下調べとかして来てないのか……?
呆れつつもバカの面倒はミコノに任せ、最後尾からぶらぶらと餓鬼共について行く。半信半疑だったがミコノは確かに「心強い助っ人」らしく、地図を片手に道を案内し始める。何処で拾って来たのか分からない郷土の昔話なども交えつつまるでバスガイドだ。
「にしても、ど田舎だなぁ……」
駅前は多少舗装されていた物の、直ぐに道は無くなり、自然と砂利道へと変わっていた。車も滅多に通らないであろう道は、草木がうっそうと生い茂り人里離れた感覚をより際立たせる。
「田舎っていうか、自然と共存してるって感じがするよね」
感心したように荒太が辺りを見回した。
「携帯も圏外。雨が降ったらボク達遭難しちゃうかも」
同じような事を昔俺も言った記憶がある。というか、あの日の帰り道、実際に俺たちは遭難した。だから「暗くなる前には戻るぞ」と先に釘を刺しておく。あの崖に辿り着いた時、きっとコイツは手に負えなくなる。――とは言っても無理だろうが。
そんな事を思いつつ、比較的緩やかな坂道を上り山へと入る。自然と道幅は狭くなり、両端から押し寄せてくる木々が頭上を覆った。
紅く、綺麗に染まり上がったそれらはちょっとした観光名所にでもなりそうな物だ。
「どうした圭介?」
一人先に行こうとするバカを追ってミコノが追いかけていってしまったらしい。独り残された圭介が足を止めていた。
「……まさかこんな所まで来ると思ってなかったので」
「何も聞かされてなかったのか。悪かったな」
「いえ、気にしてません」
そうは言う物の、すんごい不機嫌そうなんだがなぁ……。ミコノが傍にいないからか? とにもまぁ、御愁傷様なこった。文句があるなら大好きなハートフルなんとかの派遣元に言ってくれ――っていうか、ん……?
「遠出するつもりは無かったって事だよな? 親御さんにはなんて言って来たんだ?」
日が暮れるまでに戻るとはいえ、家に帰る頃には大分遅くなってしまう。そうなると色々マズいんじゃないだろうか。携帯の電波も入らないし……。もしかすると俺が頭を下げる羽目になるかもしれない。それだけはごめんだ。
「心配いらないですよ」
「とは言うが、やはり――、」
「ウチの親、殆ど家に帰ってきませんから」
そうして先を行くミコノに視線を向けた。
「……それに、あんなミコノ初めて見たし……」
「…………」
以前コイツの家に行ったときから感じてはいたが、なんだか凄く面倒な事情がある気がしてならない。家庭の事情って奴で親との折り合いが悪いのか――、まぁ、なんにしろ俺には関係ない。一々人様の事なんて構っていられないし、それこそハートフルなんとかに任せてしまえば良い。
「そういえば紅葉狩りって何を狩るんだろうねっ?」
荒太は目に入るもの全てが煌めいて見えるのか、忙しく目を動かしていた。
「諸説有るらしいが狩りに行って獲物がいなかったから代わりに紅葉を狩ったんだってよ」
「へぇーっ、晋也がそんなこと知ってるなんて意外だね?」
「――――……、まぁな」
荒太は以前も同じ疑問を口にし、先輩がそれに答えたんだ。
胸の奥でちくちくと痛むものを何とか押しやるようにタバコに火をつける。
本当にこれでコイツの記憶が戻るのだとすれば――、俺は……。
やはり答えは出ない。
情けない話だが、この笑顔を見ているとやはり何も思い出さずに誤摩化し続けた方が良いんじゃないかとすら思えてくる。だがそんなのは――。
何度も繰り返した考えを掻き消したくてタバコに火をつけようとする。が、それは荒太に奪われてしまった。
「ンだよ?」
抗議の意味も込めて強めに睨んでみると、
「火事になったら大変じゃないか」
と糞真面目な顔で言い放った。
「…………」
思わず唖然として足が止まる。してやったり顔でさっさと先に行ってしまう後ろ姿を見送ると、肩を落とした。
「――おまえ、先輩にはそんな事一言も言わなかったよな……?」
少なくとも、あの日、撮影に向かう道中では。
……。
…………。
………………。
「――――――はぁ……」
自然の新鮮な空気を吸って吐いた溜め息は、いつもよりも力が抜けた気がした。
なんというかまぁ……、
「先輩には逆らえなかったからなぁ」
苦しい言い訳でも言っておく。紅葉の色合いはそんな昔の事を思い出させる。取り出したライターをしまい、先を行く背中を追った。
駅の片側からは潮の香りがし、もう反対側は山だ。
「うみですよーっ!!」
その香りに走り出したバカを捕まえて向かうのは反対側。山沿いの道だ。頬を膨らませるバカだったが構わず足を進める。――つーか、こいつは下調べとかして来てないのか……?
呆れつつもバカの面倒はミコノに任せ、最後尾からぶらぶらと餓鬼共について行く。半信半疑だったがミコノは確かに「心強い助っ人」らしく、地図を片手に道を案内し始める。何処で拾って来たのか分からない郷土の昔話なども交えつつまるでバスガイドだ。
「にしても、ど田舎だなぁ……」
駅前は多少舗装されていた物の、直ぐに道は無くなり、自然と砂利道へと変わっていた。車も滅多に通らないであろう道は、草木がうっそうと生い茂り人里離れた感覚をより際立たせる。
「田舎っていうか、自然と共存してるって感じがするよね」
感心したように荒太が辺りを見回した。
「携帯も圏外。雨が降ったらボク達遭難しちゃうかも」
同じような事を昔俺も言った記憶がある。というか、あの日の帰り道、実際に俺たちは遭難した。だから「暗くなる前には戻るぞ」と先に釘を刺しておく。あの崖に辿り着いた時、きっとコイツは手に負えなくなる。――とは言っても無理だろうが。
そんな事を思いつつ、比較的緩やかな坂道を上り山へと入る。自然と道幅は狭くなり、両端から押し寄せてくる木々が頭上を覆った。
紅く、綺麗に染まり上がったそれらはちょっとした観光名所にでもなりそうな物だ。
「どうした圭介?」
一人先に行こうとするバカを追ってミコノが追いかけていってしまったらしい。独り残された圭介が足を止めていた。
「……まさかこんな所まで来ると思ってなかったので」
「何も聞かされてなかったのか。悪かったな」
「いえ、気にしてません」
そうは言う物の、すんごい不機嫌そうなんだがなぁ……。ミコノが傍にいないからか? とにもまぁ、御愁傷様なこった。文句があるなら大好きなハートフルなんとかの派遣元に言ってくれ――っていうか、ん……?
「遠出するつもりは無かったって事だよな? 親御さんにはなんて言って来たんだ?」
日が暮れるまでに戻るとはいえ、家に帰る頃には大分遅くなってしまう。そうなると色々マズいんじゃないだろうか。携帯の電波も入らないし……。もしかすると俺が頭を下げる羽目になるかもしれない。それだけはごめんだ。
「心配いらないですよ」
「とは言うが、やはり――、」
「ウチの親、殆ど家に帰ってきませんから」
そうして先を行くミコノに視線を向けた。
「……それに、あんなミコノ初めて見たし……」
「…………」
以前コイツの家に行ったときから感じてはいたが、なんだか凄く面倒な事情がある気がしてならない。家庭の事情って奴で親との折り合いが悪いのか――、まぁ、なんにしろ俺には関係ない。一々人様の事なんて構っていられないし、それこそハートフルなんとかに任せてしまえば良い。
「そういえば紅葉狩りって何を狩るんだろうねっ?」
荒太は目に入るもの全てが煌めいて見えるのか、忙しく目を動かしていた。
「諸説有るらしいが狩りに行って獲物がいなかったから代わりに紅葉を狩ったんだってよ」
「へぇーっ、晋也がそんなこと知ってるなんて意外だね?」
「――――……、まぁな」
荒太は以前も同じ疑問を口にし、先輩がそれに答えたんだ。
胸の奥でちくちくと痛むものを何とか押しやるようにタバコに火をつける。
本当にこれでコイツの記憶が戻るのだとすれば――、俺は……。
やはり答えは出ない。
情けない話だが、この笑顔を見ているとやはり何も思い出さずに誤摩化し続けた方が良いんじゃないかとすら思えてくる。だがそんなのは――。
何度も繰り返した考えを掻き消したくてタバコに火をつけようとする。が、それは荒太に奪われてしまった。
「ンだよ?」
抗議の意味も込めて強めに睨んでみると、
「火事になったら大変じゃないか」
と糞真面目な顔で言い放った。
「…………」
思わず唖然として足が止まる。してやったり顔でさっさと先に行ってしまう後ろ姿を見送ると、肩を落とした。
「――おまえ、先輩にはそんな事一言も言わなかったよな……?」
少なくとも、あの日、撮影に向かう道中では。
……。
…………。
………………。
「――――――はぁ……」
自然の新鮮な空気を吸って吐いた溜め息は、いつもよりも力が抜けた気がした。
なんというかまぁ……、
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