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新しい世界
夏休み旅行記~王都編7~
しおりを挟む王宮から出て、俺と秋人は車に乗って病院へと向かった。
王都内にある秋人が経営する病院は最先端の医療技術が揃ってるらしい。
「雪。大丈夫か?もう少しで着く」
「ん、大丈夫。俺はそんなにヤワじゃないよ」
どこが?と言う目で秋人が見つめてくるが、前世とは違うのだ。そりゃあ怖かったけど、秋人が助けに来てくれたし。ちょっとやそっとじゃへこたれないぞ。お尻は痛いけど。
なんなら秋人と居て落ち着くせいか、とっても眠い。ずっと気を張っていたのもあるせいだろう。
「雪寝てていいぞ。後はやっておく」
そう言って俺の頭を優しく撫でる。
さっきまでの怒っていた秋人はもういなくて穏やかな表情で俺を見つめる。
俺はお言葉に甘えてそのまま秋人に身体をもたれ掛かるようにして瞼を閉じた。
次に目が覚めた時は病室にいた。
窓から日差しも入っていて、かなり寝てしまったらしい。
ベッドの上でぼんやりしていたら、秋人が様子を見に来てくれた。
「雪、気分は?」
「うん、悪くない」
「中が切れていたから薬を塗った。菌が入る可能性もあったから抗生物質も飲ませた。熱が出ていないから大丈夫だとは思うが…」
「ありがと、秋人」
40年分プラスの知識があるせいか、今は落ち着いた様に話せた。
王族じゃなかったら、合意のないセックスは犯罪だぞ!って言い聞かすのに。
ま、秋人も俺に似たような事したからな。
秋人の場合は俺の事好きって前提があったけど。
秋人も忙しいし、すぐ退院出来るよと言ったのに心配性なのか、もう一日病院で休むことになった。やる事ない。
次の日から秋人の別邸に戻った。
秋人の別邸に居ても病院に居ても結局はお手伝いさん達が居て、俺は何もする事がないから暇だ。
「暇だよ秋人~旅行は??行かないの?」
「全部キャンセルした」
「は??なんで!??」
夏休みはいっぱい旅行するって言うからついてきたようなものなのに!
不満たらたらな俺に秋人はやっぱり雪を皆に見せたくないとか言い出した。
「秋人のばか!意地悪!ハゲてしまえ!」
扉の傍にいたお手伝いさん達はめちゃくちゃ驚いた顔をしてたが、頭に血が上って、そのまま別の部屋篭った。
そりゃあさ、お偉いさんと会ったりとか、知らない地域で危険な目に会うとか俺が嫌な思いをしないようにって思ってるなかもしれないけれど、俺はもうαに頼るだけのΩじゃないんだ。発情期もない、ヒートもない。健康な身体になってからの初めての旅行。ずーっと出来なかったから楽しみにしてたんだ。
俺はベッドに入って布団にくるまった。
こんな事で泣かないぞ。
15歳の俺に引き摺られないよう、グッと歯を食いしばる。
閉じこもった部屋のドアがノックされて、秋人の靴の音が聞こえた。
「雪…雪…お願いだ。顔を見せて」
「やだ!」
くるまったベッドの端に座った秋人は、布団から撫でながら声を掛ける。
「俺にとってお前が第一なんだ。お前の身体が心配だと思ったが…。雪が悲しむくらいなら一緒に行こうか。雪はどんな所に行きたい?」
「えっ、本当に行ってくれるの!?」
布団からガバッっと出てきた俺を抱きしめて捕まえたと言わんばかりの嬉しそうな秋人の顔があった。うっかりときめいたぞ。
「お忍びで一緒に旅行なら大丈夫だ。俺が居ると分かると上が煩いからな。俺はバレないよう変装しないと不味い。人の少ない場所でもいいか?」
「うん!それでもいい!芸能人みたいなお忍び旅行!温泉とか、自然いっぱいな所とか!行ってみたい!」
「ん、分かった。手配しておく」
俺は嬉しくって、抱きしめられたまま秋人にいっぱいキスをした。
「ね、身体を秋人で上書きして?身体はもう平気だから…」
この数日安静にしていたのと、秋人が薬を出してくれたので、傷はすっかり治り痛みは無くなっていた。
たとえまだ傷付いていても、今どうしようもなく秋人に抱かれたかった。
「あぁ…雪愛してる…」
「ん、俺も…」
その言葉に返事をして、少しだけ素直になれた気がした。
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