58 / 81
新しい世界
夏休み旅行記~ブルームン王国編3~
しおりを挟むどうして時間とは有限なのだろう。幸せな時間はあっという間。秋人と海外旅行は時間がゆっくり過ごせて、穏やかな毎日だった。
別荘を中心に温泉や植物公園にも行った。それだけで俺は十分旅行欲が満たされた。
秋人も仕事は電話や午前中にさらりとこなすぐらいで、ほとんど俺との時間に使ってくれた。
きっとお仕事沢山溜まってると思うけどごめんなさい。
そう思っていた頃、秋人がちょっと真面目な顔で今日は大事な話しがあると言い、人払いをした部屋に呼ばれた。
「…話しって?何か問題でも起きた?」
飲み物だけは用意してあり、俺はレモンのいい香りがする紅茶をカップに淹れながら秋人の前の椅子に座って話を聞く。なんとも言いにくそうな秋人、秋人に言いにくい事なんてあるのだろうか?
「……嫌なら断ってくれてもかまわないのだが…」
と、歯切れの悪い前置きを言うと、嫌々口を開いた。
「第三王子である煌弥が夏休み明けからうちの学園に通いたいと言っているんだ」
「…………え!!?」
第三王子って、俺を夜伽係にしてやろうなんて言って無理矢理抱いた子だよね…。もう関わる事もないだろうと思っていた名前を聞いて、俺は思いっきり目を見開いた。
「王族は基本学校には通わず、優秀な講師が付き、王宮で王族としての勉強を学ぶ事になるんだが…」
二人の間に沈黙が流れた。
「王子が三人居ただろう。あの三人の母親は全員違い、腹違いの兄弟なんだ。まだ子供の出生率と生存率が低かった頃に産まれたのが第一王子と第二王子で、その頃の王宮はとにかく後を継がせる子を作る為、後宮は沢山の人が住んでいた。
もちろん子が成せないものはそこに住み続ける事は出来ない。俺達からしたら異様にも思えるかもしれないが、権力のある所はこういったことが普通だったらしい」
俺は秋人が語る、王族に関する話に耳を傾けていた。
番がある世界では複数の奥さんを持つことはない。αは番のΩに執着心を見せ、Ωは番のαに依存する。β同士の間では浮気や不倫、略奪愛なんて映画やドラマが流行ったりしていることも知っていたが、αやΩは繋がりは強いため、そういった世界はどこか知らない世界の事様に思っていた。
「しかし、それも俺が開発した薬や医療環境によって解決。後宮に人を沢山呼ぶ事はもちろんそれなりにお金がかかるから、今はもう閉鎖に近い。王子を産んだ三人の王妃様が住んでいるくらいだ。
その中でも第三王子を産んだ王妃様は、跡継ぎ問題が解決された後に出来た王様の唯一の政略結婚ではない愛した方だ。つまり第三王子は愛する相手との子供。それは大層甘やかされて育ったそうだ」
なるほど。初めて出会った時のあの傲慢で俺様な感じは今まで自分の我がままが通ってきたからだろう。
なんとなく想像がついてうんうんと頷く。
「正直あんな事をされた雪には頼みたくない事なんだが、陛下たちから第三王子の煌弥を王族として正して欲しいと頼まれたんだ」
「えぇ…!?」
「あの後から煌弥は雪に会いたいと、合わせないと何もしないの一点張りらしい」
はぁとため息をつく秋人。煌弥の我儘に困り果てた陛下たちは、あんなことがあり頼みにくいのを承知の上で秋人に連絡を入れたのだ。
乱暴をした煌弥の事は殺したいくらい憎いと秋人は漏らすが、放置するわけにもいかないと思っているのだろう。
陛下や王子達の事を大切に思っているのは知っているし医者としての血が騒ぐのか秋人は人が困っていると助けてしまうタイプだ。
「いいよ…、俺達でなんとかしよう!」
正直乱暴をされるのはもうこりごりだが、俺達の上に立つものがああでは困る。
俺に何が出来るかは分からないけれど、相手が俺と会いたいと言うならば話はいくらでもできるだろう。
秋人は複雑な表情だが、俺が受け入れたの見てほっとため息を漏らす。
「手のかかる子供が一人増えたみたいだ」
「確かに…」
夏休み明けに大きな問題が増えたなぁと思いながらも俺達は昔のまだ慣れなかった子育ての思い出を語りながら紅茶を啜った。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる