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二学期
文化祭とその後
しおりを挟む午前中は宣伝もかねて色んな場所を二人で歩き回った。浴衣や縁日に興味を持ってくれて色んな人達が沢山話しかけてくれて、それを上手に伝えてくれたのは煌弥だった。相手に興味を持つように話す事は外交手段で必須だと煌弥は話す。そう言う教育もちゃんと出来ているんだと思うと今まで甘やかされながらもしっかりと学んでいて、思っていた以上に王宮で頑張っていたのだと実感した。
関心しながら歩いていると、渚がお店に手招きするので二人で寄ることにした。お店に入る事を決めたまではよかったのだが、渚のクラスの催し物がお化け屋敷だったのでちょっと後悔した。煌弥は興味津々で行く気満々なので引っ張られながら入る事になった。
俺が横で驚いたり、お化けにひぃぃと悲鳴を上げている横で、煌弥はへーこれがお化け屋敷かー。なんて面白そうにキョロキョロと見て回っていた。お化け屋敷はもっと驚いたり怖がる場所なんだぞ?
お化け屋敷から出てきた俺たちは、一方がぐったり、一方は楽しそうな二人の反応の違いを見て渚は笑いながらまた来てね~っと手を振り、見送ってくれた。言っておくがまたはないぞ!
次に訪れたのはメインステージだ。三年生組の直人と圭のクラスはここで劇をするらしい。時間の前だと言うのに既に会場は賑わっており、早めに席を取りに来てよかったと胸を撫で下ろす。
二人で席に座って、劇が始まる時間までこれが終わったら次はどこに行こうかなんて話ながら開演時間を待った。
ストーリーはこの国の時代劇。幕が開けると二人は騎士団の服に身を包み、剣を振るう姿はまるで本物の騎士のようだった。
主人公二人を取り巻く友情、青春、そして戦による別れ。この話は皆が知るこの国の有名な伝記ではあるが、思っていた以上に小道具も本格的で、主人公二人の演技も素人とは思えないほど迫真に迫るものがあった。俺はその二人が織り成す世界にすっかり夢中になってた。
(と言うか、直人と圭カッコイイ~~!!)
この会場にいた皆が二人の演技に心を奪われたであろう。演技が終わった後は盛大な拍手に包まれた。
なんでも上手にこなす二人であったが演技も上手だとは。横で見ていた煌弥も演技がすごかったなと口にするほどだ。二人には後からしっかり感想を言おうと決め、次の場所に向かった。
お昼は二年生組の祐希と修斗のクラスがやっていた食べ物のお店に寄った。ソースの香る焼きそばや揚げたての唐揚げなどがあって、どれも美味しそうで悩む。
煌弥は相変わらず桜庭さんが用意したものしか食べられないので、申し訳ないなぁと思いながら煌弥の横で俺は出来立ての料理に舌鼓を打った。
少し休憩を取って、午後はアイドルやお笑い芸人達が来ていたのでメインステージを中心にみて回った。そうしているうちに文化祭はあっという間に過ぎていった。
「文化祭と言うものは楽しかったな…あっという間だった。準備にはあんなにも時間がかかったと言うのに」
「楽しい時間はあっという間って言うもんね」
俺達二人は部屋に戻り、部屋着に着替え寛ぐ。今日は土曜日で月曜日が振替休日で休みになっているのだ。
「浴衣姿の二人はとっても可愛らしかった」
「ああ、たまには異国の文化に親しむ為の機会を設けてもいいかもしれん」
「勝手に言ってろ」
部屋に戻ると兄王子達二人が先に寛いでいた。秋人に連れていかれてどこに行ったのだろうと思っていたのだが、ここにいたのか。
桜庭さんが皆のお茶を用意してくれて、目の前には寛ぐ王子様が三人いる光景が非日常的に思えた。
(秋人がいないと緊張しちゃうよ…!)
腹違いの兄弟は纏うオーラは似ていても、顔つきはそれぞれ違う。それでも三人の周りには穏やかな空気が流れていた。
「写真のデータを父上に送ったが直接見たいと言っているぞ」
「俺は、学生だ。忙しくて会えん」
「秋人には外泊許可も取ってある。それに月曜は振替休日だと聞いた。一旦王宮に戻ってこい」
「は?急に兄上達は何を言っているんだ。俺はそんな事の為に帰らないぞ!」
どうやら兄王子二人はこのまま王宮に戻るらしい。そりゃ何日も王宮を空けられないよな。
それでこの休みの間に一緒に煌弥も帰ってこいと言う事らしい。
煌弥はとても嫌がっていたが、兄達の説得の上、渋々帰る事にしたらしい。
「本当に雪も一緒に帰ってくれないのか?」
「そこはやっぱり家族団らんがいいでしょ。俺は自分の寮の部屋があるしそっちにいるから」
家族団らんなんて言葉を使ってみたけれど、王族の人とかの家族ってどんな感じなのか想像はつかないけれど。
とにかく、王宮についていったところで俺は気疲れしちゃいそうだから寮の部屋に戻る事にした。
文化祭が終わってしまえば二学期はあっという間だ。期末テストが憂鬱ではあるけれど。煌弥が家族で過ごすのを見て冬休みに一度実家に帰るか悩んだが、冬休みは期間が短いので春休みにした方がいいだろうか。もしかしたらクリスマスや年末年始は秋人と一緒に過ごせたりするのかな?
そんな事を考えつつ、一日の文化祭を楽しんだ身体は疲れていてすぐに眠りにつくことができた。
次の日、浴衣をクリーニングに出す為、寮にある管理人さんの部屋を訪れた。外泊届や、こういったクリーニング、寮内で何か破損した場合など、ここに訪れれば解決する。浴衣をそのまま洗ってもよかったが、大変高そうなので、クリーニングに出すことにした。
「こちらをクリーニングですね。ではこの用紙に記入してください」
「はい」
必要要項と、部屋番号まで書けば仕上がった時に部屋まで届けてくれるのだ。それだけ済ませると、この後の休日をどうして過ごそうか悩んだ。部屋に戻るか、図書館に行くか悩んでいると、直人と圭もクリーニングに衣装を出すのか袋を持って寮の管理人室に現れた。
「あれ、雪ちゃんじゃ~ん!一人?煌弥様は?」
「おはよう雪」
「二人ともおはよう。煌弥はお兄さんたちと一緒に王宮に戻ったよ。学校が始まる時は帰ってくると思うけど…」
「ふーん。じゃあ今日は雪ちゃん暇なのか。一緒に遊ぶ?」
「遊ぶって…。二人とも受験生でしょ?勉強しなくていいの?」
と言ったら二人は自信満々の表情で、受験勉強?今更勉強しなくても余裕でしょと言った表情をしていた。二人はどこまでも完ぺきらしい。
「俺達は幼い頃から厳しい教育を受けていたからな。それにこの学園が経営する大学もある。成績が相当悪くなければエスカレーター式で上がれるからな」
なるほど、それもそうかと頷く。二人はどういった進路に行くのか分からないけれど大丈夫そうだなと頷いた。
そんな俺は休日に特にやる事もなかったので、圭に引っ張られつつ直人と圭の部屋で遊ぶ事になった。
ところで高校生が遊ぶって一体どんな事をするんだ?
せっかくの休日、みんなで遊ぶならと言う事で祐希に修斗、渚まで来て圭の部屋は大変賑やかになった。
こうして皆でわいわいとするのは体育祭以来だろうか?秋人は居ないけれど、学年の隔たりなく仲睦まじい姿についつい涙腺が緩みそうになる。
大きなテレビで映画を流しながら、お菓子を食べたり、文化祭の思い出話をしたり、まるで…そうまるで家族に戻った頃のようだった。
こう言う時ほど、あれではないだろうか。兄王子達がしていたカメラでの撮影。俺は携帯を取り出して一枚パシャリと取った。皆が楽しそうな写真。それをみると思わず笑みが零れる。
「えー?いきなり何ー?」
渚が写真を撮った事に気づいて、疑問を投げかける。
「記念にと思って」
ふーん。記念ってなんの記念?と言いながらもそれ以上疑問を持つことはなかったようで深く追求される事はなかった。
この時俺は兄王子達の気持ちが分かった。もっと写真を撮って携帯に色んな皆の姿を残したい。
けれど沢山撮られる側を経験した俺はグッと堪えて、その写真を秋人に送信した。
それに一言添えて。
『今幸せ空間です』
すぐに秋人から『ずるい』と返信が来てくすりと笑った。
文化祭の後の週末、俺は幸せを感じながら過ごした。
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