悪役令嬢が死んだ後

ぐう

文字の大きさ
4 / 65

4

 
 そうフェリクスがつぶやいた言葉は小さくて誰の耳にも届かなかった。


「ご苦労だった。また証言してもらうかもしれないが今はここまででいい」

 フェリクスがそう言うと、マークが立ち上がり敬礼をした。出入口の同僚がマークを見送り、次の目撃者を中に招いた。

「私は近衛第一騎士団所属エルビス・モートンです」

 出入口でマークと同じように踵を揃え敬礼をした。フェリクスはエルビスに向かい

「座りたまえ。君が目撃したことを余すことなく述べてくれ。まず君がなぜ目撃したか」

 と言った。

「王立学園を視察に行かれる第一王子殿下の護衛が本日の私の任務です。近衛第一騎士団より副団長を頭にして、おそば近くの護衛として十名、学園外で警護をするものとして二十名選ばれました。私はおそばでの護衛に選ばれました。殿下が視察される校舎に先回りして不審人物がいないか調べに同僚のマーク・ギルデンと参りました。マークが二階、私が一階を担当し手分けして調べておりました」

「授業は終わったところだったのか」

「はい、ちょうど終わって生徒達が一階の教室から出て行くのを見ました。終わった教室から順に不審人物はいないか危険物がないかと調べていました。そこにマークの叫び声が聞こえました。何かあったのかと急いで声のした方に向かいました」

 エルビスは息を整えるために一度言葉を切った。フェリクスが重ねて疑問をぶつけた。

「そこで目撃したのは」

「階段を転がり落ちてくる人間の姿です。制服のスカートが見えたので女性だろうと思いましたが落ちている時は判然としませんでした。その人は階段の段に身体を打ち付けながら落ちてきました。慌てて駆け寄り脈を診ると既に息はしていませんでした」

「階段の上には誰がいた」

「その場で見上げると階段の一番上には血が滴るナイフを持った女性と同僚のマークが立っていました」

「その女性の様子は」

「半狂乱のようでした。『私じゃない!勝手にあいつが落ちて行った!私は悪くない!私はヒロインなのよ!』と叫んでおりました」

「ヒロイン?わからない言葉を吐く加害者だな」
 
 フェリクスは首を捻った。それでも先を促した。

「『自分は加害者の拘束をするので、エルビスは現場を保存してくれ』とマークが声をかけてきました。私と同様に階段を落ちてくる女性を目撃した女生徒達が悲鳴をあげ続け、動けなくなったものもいたために、同僚の応援を呼ぼうと思い側にいた男子生徒に近衛を呼んでくるように頼みましたが、その男子生徒は『…こんな馬鹿な…反対だろう……』とぶつぶつ言うだけで役に立たないので仕方なく、マークに声を掛けて自分でいこうとしました」

「その男子生徒は誰だ」

「あとで聞きましたところ被害者の義弟だと言うことでした」

「公爵子息か」

「残りの近衛は多数の悲鳴を聞いてこちらに向かっているところだったので私は現場を離れなくて済みました。そこで手分けをして具合の悪い女生徒を保健室に運び、野次馬を追払い現場を保全して第一王子殿下と園長にお知らせいたしました」

「現場で何か気になったことはあるか」

 エルビスは言いにくそうだった。

「その……何というか……被害者はこの学園の女生徒だと聞きました。なのに死んでいるのに誰も近づいて来ないのです。怖いものを見たように距離を取るばかりで。何か違和感というのでしょうか……」

「そうか それは悲しんでいるものがいないと言うことだな」

「そうです!いつも一緒に学んでいた友でしょうに、なぜ誰も悲しまないのかと」

 フェリクスは亡くなって公爵令嬢を哀れに思った。


感想 471

あなたにおすすめの小説

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。