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「新品のように見えたがさらに研いであったと?」
フェリクスが尋ねると初老医師の方が答えた。
「研いだわけでなく刃を替えてあったと言う方が正しい。殺傷能力の高い刃です。あんなナイフを持って揉みあったら犯人もただではすみません。犯人は無傷なんですか?」
「無傷です」
アランが答えた。初老の医師は眉間に皺を寄せた。
「それはちょっと考えられませんね。切り傷の一つや二つあってもおかしくない」
「犯人はナイフの威力を知らなかった?」
フェリクスは思わず初老の医師に尋ねてしまった。初老の医師はちょっと困ったように言った。
「犯人がどんな人か知りませんが、騎士でもない限りあの刃が殺傷能力が高いとわからないでしょう」
「エトムントが持っていたナイフは普通の刃だったな?」
フェリクスがアランの方に振り向いて聞くとアランが頷いた。
「ごく普通のナイフでした」
「誰かが犯人に渡すナイフだけ特別に刃を替えたと言うことか」
フェリクスが考え込んでしまった。
「医師なのに武器にお詳しいのですね」
アランが口を挟んだ。
そこにマークス副団長が入ってきた。
「失礼します。ヨーゼフがマリアに渡されていたと言う避妊薬を押収しました。内容分析に出したいのですがよろしいですか」
報告は終わったので、公爵令嬢の死因をまとめた報告書をアランに渡して辞去しようとした初老の医師が立ち止まった。
「無礼を承知で申し上げます。薬物の成分分析でしたら私に任せていただけますかな。器具がないと難しいので、お預かりして王宮の研究室で大至急分析をして参ります」
マークス副団長がその声で初老の医師を見た。
「これはボートン医官総長ではありませんか。医官総長自らいらっしゃるとは」
そう言ってボートンに近づいて、アランに向かって言った。
「アラン 医官総長にお任せしていいか?」
「構いません。王宮に言って依頼を出していれば結果が出てくるのは遅くなります。医官総長自らこの胡散臭い薬を分析していただけるなら大助かりです。よろしいですよね。殿下」
アランがフェリクスを見やるとフェリクスはボートン医官総長を見ていた。
「あなたが高名な医官総長だったのか。武器に詳しいのは納得だな」
フェリクスに褒め称えられて、ボートン医官総長は苦笑いをした。
「高名かどうかは分かりませんが、わしがボートン医官総長でございます。殿下にはご挨拶もなく御前に出ました事お詫び申し上げます。この女性医師はわしの娘アイリーンでございます。亡くなった方が女性だと聞いて娘を派遣することにしましたが、まだまだ修行中のため、わしが付き添いました」
「そうか その心遣い感謝する。薬の分析も頼むぞ」
フェリクスがそう頼むとボートン医官総長は胸を叩く真似をして笑った。
「心得ました。大至急とのことで御前を失礼いたします」
そう言って娘と二人で辞していこうとするので
「マークス 万が一薬を取り返そうとする輩が出るといけない。近衛を護衛につけて王宮まで送り届けろ。そして医官総長の研究室で待って結果を持って帰させろ」
とフェリクスがマークス副団長に命令を下した。マークスは敬礼をしてその命令を受けて二人に付いて行った。出て行く姿を見送りながら
「精神を操る系の幻覚剤でしょうか」
アランがフェリクスの耳元でそっと言うとフェリクスが頷いた。
「デングラー公爵の元婚約者の『呪』だけではないそう言った作用のあるものだろうな。そしてまだ……」
「ジョエルの返事はまだですかね」
アランがそう言うとエリックがアランに尋ねた。
「ジョエル様とはジョエル・シュテーデル公爵令息でいらっしゃいます?殿下の御側近ですよね」
「そうだよ。高位貴族令息だけどよく働く奴だ」
アランが同僚を茶化したように評した。
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