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「アラン 先程の男爵令嬢が持っていたナイフだけ刃が替わっていたのは、黒幕は男爵令嬢が死んでもいいと思っていたのじゃないか?元々のエトムントの企みは、公爵令嬢にやられたように見せかけて自傷して、階段を落ちそうなところをエトムントが助けると言う陳腐な企みのはずだった。男爵令嬢としては制服をナイフで割く程度の自傷のつもりだったのに、ナイフの殺傷能力が高ければそれ以上の傷になるか死に至るかもしれない。でも黒幕はそれでもよかった……」
アランがびっくりしたように目を見開いた。
「殿下 男爵令嬢と黒幕は共謀してたわけでなく、男爵令嬢は黒幕の駒でしかなかったと言うことでしょうか」
「そうだと思う。犯行時に男爵令嬢が漏らした言葉の意味は全くわからないが、男爵令嬢は自分が公爵令嬢を陥れているつもりだったが、実は黒幕に駒にされているだけだった」
「黒幕はエトムントでもヨーゼフでもアルベルト殿下でもないですよね。あれが演技でしたら分かりませんが」
「演技だったらすごい役者だな」
「でも外部の人間ではないでしょう」
「この学園は外部の人間は滅多な事では入れない。だから公爵令嬢へのいじめも表面化していない。だから学園内で自由に動ける内部の人間だろう」
「ですが黒幕は公爵令嬢を陥れるつもりだったけれども、男爵令嬢が無傷で公爵令嬢が死んでしまった今の状況は思惑が外れたのではないでしょうか」
「罪に落とすつもりはあっても殺すつもりはなかった?」
「公爵令嬢を死ぬより辛い目に遭わせたかった……」
アランは自分で言ってみてその悪意の奥深さにゾッとした。
「しかし公爵令嬢はなぜそこまで恨まれていたのか疑問だ。公爵令嬢は親にも婚約者にも虐げられて味方のほぼいない状況だった。誰かに恨まれるような状況じゃないのに」
「ですが、殿下 人の悪意は理不尽なものです。何がどうその悪意を持つに至ったかその人間にしかわからないものです。ですから自身を贄にしても『呪』などと言うものがあるのです」
フェリクスは視線を天井に向けた。
「愛しても愛し返してくれない。気持ちを寄せても振り返ってくれない。その程度でも恨みに繋がりそうだな」
「人とは欲深いものですから」
アランとフェリクスはそれ以上何もいえなかった。それでもアランが先に動き護衛に
「フリッツ・ホフマン侯爵令息を呼んでくれ」
と告げた。
しばらくするとフリッツが入って来て一礼した。アランがそれを見て立ち上がった。
「エリック 護衛全て室外に出て警護してくれるか?」
エリックは頷いて近衛騎士達を外に出し扉、窓に張り付かせた。そして自分だけ中に戻り出入口の前に立った。それを黙って見ていたフリッツはフェリクスの前に行き深々と頭を下げて言った。
「殿下 公爵令嬢をお救いできなくて申し訳ありませんでした」
「こんな事になるとは思わなかったから仕方ないが救ってあげたかったな」
フェリクスがしんみりとした声で返事をした。アランが手元に閉じた紙を出した。
「フリッツが提出してくれた男爵令嬢がアルベルト殿下と側近達に配ったクッキーとチョコレートと飲ませたお茶の葉から媚薬と幻覚を起こす作用のある薬草が混入していた事がわかりました。その薬草は珍しいもので男爵令嬢ごときが手に入れられるとは思えません。また男爵家も探らせましたが、男爵自身平凡な男で正妻と結婚する前に恋愛して娘をもうけたぐらいで何か企むほど才のある男ではありません。反王家派にも与しておりません」
そうアランが説明するフェリクスが手で座るようにフリッツに指示をした。
「よく毒牙にかからずに証拠を集められたな」
フェリクスが感心してフリッツに言った。
「それは苦労しました。食べたふり飲んだふりあの女に惚れたふりあの女に追従する振りあの女を抱いた振りーーー」
「最後のはどうやったのだ?」
「あの女はアルベルト殿下を落とし、エトムント、ヨーゼフと男女の関係になり、あの三人は明らかに薬物中毒でした。口付けで与える薬もあったのであの女も薬物中毒だと思われます。なので反対にこちらが幻覚剤を盛って私と男女の関係があったように錯覚させました」
「それにしても婚約者の事申し訳なかった。先程グレーテ嬢から聞いた」
そう言って頭を下げるフェリクス。フリッツは慌てて
「やめて下さい。殿下 王族が頭を下げるなどしてはいけません。この度のことは父から協力を求められた時こんな事になるかもしれないと覚悟しておりました。私はグレーテを愛してもおりますから断腸の思いですが……今更こんなわけでと言ってもグレーテは許してくれないでしょう」
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