悪役令嬢が死んだ後

ぐう

文字の大きさ
22 / 65

18




「アラン 先程の男爵令嬢が持っていたナイフだけ刃が替わっていたのは、黒幕は男爵令嬢が死んでもいいと思っていたのじゃないか?元々のエトムントの企みは、公爵令嬢にやられたように見せかけて自傷して、階段を落ちそうなところをエトムントが助けると言う陳腐な企みのはずだった。男爵令嬢としては制服をナイフで割く程度の自傷のつもりだったのに、ナイフの殺傷能力が高ければそれ以上の傷になるか死に至るかもしれない。でも黒幕はそれでもよかった……」

 アランがびっくりしたように目を見開いた。

「殿下 男爵令嬢と黒幕は共謀してたわけでなく、男爵令嬢は黒幕の駒でしかなかったと言うことでしょうか」

「そうだと思う。犯行時に男爵令嬢が漏らした言葉の意味は全くわからないが、男爵令嬢は自分が公爵令嬢を陥れているつもりだったが、実は黒幕に駒にされているだけだった」

「黒幕はエトムントでもヨーゼフでもアルベルト殿下でもないですよね。あれが演技でしたら分かりませんが」

「演技だったらすごい役者だな」

「でも外部の人間ではないでしょう」

「この学園は外部の人間は滅多な事では入れない。だから公爵令嬢へのいじめも表面化していない。だから学園内で自由に動ける内部の人間だろう」

「ですが黒幕は公爵令嬢を陥れるつもりだったけれども、男爵令嬢が無傷で公爵令嬢が死んでしまった今の状況は思惑が外れたのではないでしょうか」

「罪に落とすつもりはあっても殺すつもりはなかった?」

「公爵令嬢を死ぬより辛い目に遭わせたかった……」

 アランは自分で言ってみてその悪意の奥深さにゾッとした。

「しかし公爵令嬢はなぜそこまで恨まれていたのか疑問だ。公爵令嬢は親にも婚約者にも虐げられて味方のほぼいない状況だった。誰かに恨まれるような状況じゃないのに」


「ですが、殿下 人の悪意は理不尽なものです。何がどうその悪意を持つに至ったかその人間にしかわからないものです。ですから自身を贄にしても『呪』などと言うものがあるのです」

 フェリクスは視線を天井に向けた。

「愛しても愛し返してくれない。気持ちを寄せても振り返ってくれない。その程度でも恨みに繋がりそうだな」

「人とは欲深いものですから」

 アランとフェリクスはそれ以上何もいえなかった。それでもアランが先に動き護衛に

「フリッツ・ホフマン侯爵令息を呼んでくれ」

 と告げた。

 しばらくするとフリッツが入って来て一礼した。アランがそれを見て立ち上がった。

「エリック 護衛全て室外に出て警護してくれるか?」

 エリックは頷いて近衛騎士達を外に出し扉、窓に張り付かせた。そして自分だけ中に戻り出入口の前に立った。それを黙って見ていたフリッツはフェリクスの前に行き深々と頭を下げて言った。

「殿下 公爵令嬢をお救いできなくて申し訳ありませんでした」

「こんな事になるとは思わなかったから仕方ないが救ってあげたかったな」

 フェリクスがしんみりとした声で返事をした。アランが手元に閉じた紙を出した。

「フリッツが提出してくれた男爵令嬢がアルベルト殿下と側近達に配ったクッキーとチョコレートと飲ませたお茶の葉から媚薬と幻覚を起こす作用のある薬草が混入していた事がわかりました。その薬草は珍しいもので男爵令嬢ごときが手に入れられるとは思えません。また男爵家も探らせましたが、男爵自身平凡な男で正妻と結婚する前に恋愛して娘をもうけたぐらいで何か企むほど才のある男ではありません。反王家派にも与しておりません」

 そうアランが説明するフェリクスが手で座るようにフリッツに指示をした。

「よく毒牙にかからずに証拠を集められたな」

 フェリクスが感心してフリッツに言った。

「それは苦労しました。食べたふり飲んだふりあの女に惚れたふりあの女に追従する振りあの女を抱いた振りーーー」

「最後のはどうやったのだ?」

「あの女はアルベルト殿下を落とし、エトムント、ヨーゼフと男女の関係になり、あの三人は明らかに薬物中毒でした。口付けで与える薬もあったのであの女も薬物中毒だと思われます。なので反対にこちらが幻覚剤を盛って私と男女の関係があったように錯覚させました」

「それにしても婚約者の事申し訳なかった。先程グレーテ嬢から聞いた」

 そう言って頭を下げるフェリクス。フリッツは慌てて

「やめて下さい。殿下 王族が頭を下げるなどしてはいけません。この度のことは父から協力を求められた時こんな事になるかもしれないと覚悟しておりました。私はグレーテを愛してもおりますから断腸の思いですが……今更こんなわけでと言ってもグレーテは許してくれないでしょう」



感想 471

あなたにおすすめの小説

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。