悪役令嬢が死んだ後

ぐう

文字の大きさ
28 / 65

23




「お呼びと伺いまして参上いたしました。本学園の語学教師のダニエル・アンカーでございます」

 入ってきたダニエルは落ち着いた物腰に銀の縁の眼鏡をかけ、いかにも穏やかな人物像を作っていた。

「これはデングラー公爵からの文書だ。目を通してこれからする質問に嘘偽り無く答えてくれ」

 アランがそう言ってダニエルに先程デングラー公爵が渋々サインをした文書を見せた。
 ダニエルはそれを渡されてちらりと横目で見て、ハッとして食い入るように見つめた。

「ーーデングラー公爵家当主御本人のサインと認めますーーー」

 ダニエルはサバサバした物言いで眼鏡を外してたたみ、胸ポケットにしまった。眼鏡を外したダニエルは急にイメージが変わった。

「殿下に直答してもよろしいのですか?」

 アランの方を見て尋ねた。

「構わない。質問には真実で答えてくれ」

 ダニエルはフェリクスにそう言われると皮肉げに唇の端を歪めた。

「まず、ダニエル・アンカー 君の目的はなんだ?」

 アランが眉を顰めて言った。

「殿下 あまりにも大雑把過ぎませんか?」

「いや、今回のことは一つの根っこから来ている。それが何か探っていたが、先程、君の出生について聞かされてわかった様な気がする」

 ダニエルはそう言われて上目遣いでフェリクスを見て言った。

「公爵が言った事とは、私が主である奥様の娘を虐待した頭のおかしい女とその女がしている事を知っていても嗜めることすらしない愚かな男の間に生まれたと言うことかな」

「君は令嬢が虐待されている時にその屋敷にいたのか」

「妹と二人、頭のおかしい母親と一緒に公爵邸にいたさ。まるで妹の方が公爵令嬢であるかのようのに育てられ、お嬢様はボロ雑巾のように扱われていた。乳母である母に逆らう使用人はいなかった。公爵に嘘の報告されて辞めさせられるからだ。狭い世界での暴君だな。それを許して自分の娘に興味のない公爵も最悪さ。俺がお嬢様を庇っても所詮子供のすることで限度があった。母親の目を盗んでパンを食べさせて、母親が妹を着飾らせて悦にいってる間にこっそり身体を拭いてやり絵本を読んであげた。俺を『ダー』と呼んで懐いてくれて可愛くて可愛くて宝物だった」

 思いもかけない告白が始まってフェリクスもアランも言葉が出なかった。

「日が経つにつれ母親の虐待がより一層酷くなった。俺は妹がお嬢様を突き飛ばすのを見て思わず妹をぶってしまった。それで俺がお嬢様を陰で庇っていることに気が付かれ、お嬢様にパンすら渡せなくなってしまった。もうあいつらを殺すしかないと思い詰めた時にあの偽善者公爵が乗り込んで来た」

 そこで言葉を切ったダニエルは目を瞑った。アランがそっと尋ねた。

「侍女が公爵に注進したのだったか?」

「俺が新しい侍女に頼んだ。お嬢様をかわいそうに思ってくれたらしくて協力してくれたんだ……お陰で公爵が両親を処刑してくれた。これでお嬢様は父親に愛されて幸せに暮らせると思った。それに比べたら自分の親が死んだことも気にならなかった。お嬢様に幸せになってもらいたかったんだ」

「君と妹は孤児院に入れられた」

 フェリクスが聞くとダニエルは頷いた。

「両親と一緒に処刑されるだろうと思っていたから意外だった。別に死んでもよかったけれど、別れ際にそれまでほとんど感情の動きのなかったお嬢様が『ダー』と言って俺と離れるのを嫌がって泣いてくれたんだ。それを見た俺はお嬢様のために生きていこうと決めた」

「……妹のためじゃないのか……」

 アランがぽつりと聞くとダニエルは鼻で笑った。

「自分の妹ながら母親に似て性悪でどうしようもない女さ」

「君の妹は……」

 フェリクスがそう聞くとダニエルは自分の目の前の机を拳で殴りつけた。

「そう、あの殺人犯のマリア・ヘニッヒさ」
感想 471

あなたにおすすめの小説

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。