悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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「そう、あの王女は亡くなった王妃に似て、どこか狂気に囚われた方でした」

「父親の国王は知っていて、我が国に嫁がせたのか」

 フェリクスが絞り出す様に尋ねると、ボートンはにこやかに言った。

「王女はこちらの国王陛下ーーー当時は王太子殿下でしたがーーーの肖像画を見て惚れ込んでしまわれて。本当は側妃腹の姉君が嫁がれるはずでした。あの方は代われと暴れまして。姉君も引き下がられました。まあ、実際は国の中におけばトラブルの元だから、厄介払いでしょうか」

 その言い分に三人は言葉も出ない。

「王妃が騒動を起こして、離宮に立て篭もったと報告はありましたが、あんな王女ですから我が国は抗議もしません。それより隣国とこの国が和解して共同事業を始めた事で、我が国が国境の守備を厚くする方が大事です。元々我が国の国王にとって王女は捨て駒でしかなかったわけですから。おとなしく引きこもっていればよかったのですが、余計な事を始めたのでーーーー王女は我らを国王が付けた密かな護衛と誤解してましたがーーーー私達に暗殺命令が出ました」

「ーーー私達?ーーーー」

 アランが口を挟むとボートンはアランの方を向いて言った。

「私の養女のアイリーンですよ。彼女は『呪』の正統な血筋の末娘でして、姉達を救いたいために、私の養女として潜り込んでいました。ですが、離宮に籠られて近づけないうちに、『呪』は始められてしまった。一度始まると止める事はできない。本人に『呪』に対抗する愛が注がれていないと跳ね返す事もできない」

 ボートンの話は止まった。口を挟むのにはあまりに哀しい。それでも聞きたい事はあった。

「呪い返しは侍女に降りかかり、命じた王妃には影響は無いはずだ。王妃はなぜ人事不省になったんだ」

 フェリクスが問いかけるとボートンはニヤリと笑った。

「あの方は恨み骨髄に徹する第一側妃とその大事な第二王子を殺したら、母国に帰るつもりでした。この国だって怪しい『呪』などで王族が死んだなんて公表できないだろう。揉み消すに違いないと踏んでいましてね。自分専属侍女の責任を取らされない様に、仮死状態になる薬をお求めでした。遺言に死んだら母国に帰りたいと認めてあったのです。遺体を送り返される途中で私達に救い出させて、行方をくらますつもりでした。ですが、姉達を殺されたアイリーンは許しませんでした。仮死になる薬だと偽ってじわりじわりと苦しんで死んでいく毒薬を渡したわけです」

「では、王妃はもう助からない?」

 アランが尋ねると

「今頃はもうーーーー」

 とそれがさぞ悲しい様にボートンは言った。

「なんだかんだ言ってるが、結局はヒルシュフェルト国としては証拠隠滅を図ったわけだ」

 それまで黙っていたジョエルが切り込んだ。

「当然ですよ。我が国から嫁いで行った王女が王族を呪い殺すなど表面化したら戦争ものですよ。これで我が国もお荷物の王女を片付け、貴国もお荷物の第一側妃を片付けた。と言ったところです」

「ーーーそんなにベラベラ話して無事に済むと思っているのかーーー」

 フェリクスが低い声で言ったがボートンは何かの書類にサインをしてアランに渡した。

「殿下、今私が言った事は何一つ証拠がありません。フェリクス殿下が一生懸命に探っておいでだったので、こんな話だったかもと、御伽噺を語って差し上げただけです。確かな事は呪ってやると、狂った王妃が何人もの侍女を殺して自害した。それだけです。呪いなど非現実的ですよ」

 そう言ってボートンは保健室を出て行こうとした。

「だが!アイリーンが王妃に薬を渡しただろう!」

 ジョエルがボートンの後ろ姿に怒鳴った。ボートンはふりかえりもせずに

「それは睡眠薬ですよ。適量のね。薬の在庫も適正ですよ。どこを調べても王妃が飲んだ毒薬がどこから来たかわかりませんよ」

 と言って歩み去った。
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