悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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 叫び続けたマリアは肩で息をして俯いた。

「ーーー嘘よ。私は万人に愛されるヒロインなんだからーーー」

 それでもボソボソと主張はやめない。

「万人に愛されるか。神ですら無神論者がいるのに、ただの人間には無理だろうよ。誰かに愛されても、誰かには嫌われる。それが人間だ」

「ーーーーだってーーー私はヒロインだものーーー」

「いいや、お前はヒロインじゃない。本当のヒロインを殺してすり替わったのだろう?そんな偽に愛は降ってこないだろうよ」

 フェリクスが身も蓋もない言い方で切って捨てた。マリアは恐る恐る顔を上げて、フェリクスに言った。

「本当に私を見てもなんとも思わないの?アルベルトやエトムントもヨーゼフも一応は振り向いてくれたわ。ーーーーフリッツは身体の関係に持っていけなかったけどーーーーそれでも攻略対象者全員と親密になれたわ。それ以上は薬を使ったけどーーーなのに隠しキャラのフェリクスは私を裁く方なの?なんでこのゲームには悪役令嬢がいないの!なんで!兄さんが教師の攻略対象者なの!上手くいかないことばっかり……前世は辛いことばっかりで……乙女ゲームの世界だったら、ヒロインにさえなれば幸せが待ってると思ったのに……」

 そう言いながら膝から崩れ落ち床に倒れ込んだ。それを見さげてフェリクスは言った。

「私にはお前はただの罪人にしか見えない。高位貴族を狙って幻覚剤中毒にした。そして罪のない公爵令嬢を陥れようとして、殺人まで起こした。そんな浅ましい罪人になぜ私が好意を寄せるんだ?」

 フェリクスに言われて、マリアの肩がぴくりと動いた。

「……罪人?……」

 とつぶやくマリアにフェリクスが重ねて言った。

「そうだ。孤児院での殺人だけでなく、大量の幻覚剤投与により王族のアルベルトを殺した」

 マリアはハッとして顔を上げた。

「アルが?アルが!死んだ!!!!」

 その顔は驚愕に目も口も凍りついている。

「そうだ。お前が廃人にするほど幻覚剤を投与したからだ」

 マリアが床から跳ね上がって起きた。どこにそんな力があるのかと思う程の渾身の力で、近衛騎士の拘束の腕を跳ね除け反省室から出て行こうとした。だが、拘束していた近衛騎士によって、あっさりと引き戻された。

「離して!アルのとこにいくの!どこにいるの!」

 近衛騎士達に床に押さえ込まれながら、それでも叫び続けた。

「そんなに心配するのなら、なぜ幻覚剤など大量に周りのもの達に飲ませた!」

 フェリクスに強く言われると、両の目から滂沱の涙を流しながらマリアは言った。

「だって!だって!もっともっと愛して欲しかったもの!前世では誰にも愛されなくて!ボロ屑のように死んで、死んでも誰も泣いてくれなかったはず!今世ではみんなに愛されて、優しく抱いて欲しかっただけ!」

 そして絞り出すように言った。

「そしてアルだけ、私がしていた事知っていて『君も可哀想な子なんだね。私も運命に逆らえない。一緒に逝こうか』と言ってくれたの。ーーーー何言われてるかわからなかったけどーーー優しい気持ちはわかったの。だからーーーアルは特別だったのよーーー」

 床にうつ伏せて、身体をひくつかせて泣いた。

「殿下、これは薬物の影響ではないでしょうか。いくらなんでもこんなになるのはおかしいと思います」

 アランがそう言った。

「これ以上は無理か」

 フェリクスが言うと、アランが頷いた。

「そうですね。犯行の実際に付いて供述を取りたいのですが」

「いや、犯行については目撃者もいるし、エトムントが立てた計画であることもわかった。薬物が抜けない限りマリア・へニックの尋問は無理だろう」

「よろしいのですか?」

 フェリクスがそう言うとアランはびっくりしたようだった。

「ああ、お前にも話してなかったな。エリック」

 フェリクスは振り向いてエリックを呼んだ。

「お側に」

 エリックが近づいてくると

「この女の興奮が収まるまでその辺に転がしておけ。証言が取れた生徒達から帰宅させていい。手配を頼む」

 と言った。エリックは近くの近衛騎士を呼んで指示を出した。フェリクスとアランは反省室の扉を開けて廊下に出た。

「アラン、お前に話がある」

 フェリクスがそう言うとアランは不思議そうに眉を顰めた。
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