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慌ただしく出立の準備をしている中、アルベルトの身体を運ぶ寝かせて運べる馬車が用意された。見守るフェリクスの後ろ姿に『殿下』と呼びかける男がいた。フェリクスが振り返るとそれは、デングラー公爵だった。
「私どもも柩が到着しましたので、邸に戻ります。爵位の事は後日陛下に申し出るつもりでございます。それではお先に失礼いたします」
と言って、柩を納めた馬車と自分が乗る馬車二台で出発して行った。その立ち去る姿をみて、アランがフェリクスを片隅に呼び寄せ、声を潜めて聞いた。
「殿下、公爵は遺体を令嬢と認めましたが、あれはーーーー」
フェリクスもアランを引き寄せて、耳元で言った。
「何も無いものをあるように見せたが、術者は『呪』を止めた。我に返ってもいいころだが、まだ返らないところをみると、元婚約者の『呪』も案外効いているのかも」
アランは背中を上がって来る悪寒を感じた。
「怖いですね」
「そうだな」
「邸に戻って遺体がない事に、気がついてどうするんでしょう」
「騒ぎ立てるわけにも、いかないだろうな」
「それにあの爵位辞退の件、本気なのでしょうかね」
「さあな」
二人で身を寄せ合ってひそひそ話し合っていたら、副団長がやってきた。
「殿下、誤解を生むので身を寄せ合うのはやめて下さい」
マークスが美麗な眉を顰めて言うとフェリクスが聞き返した。
「誤解?なんの?」
「殿下はまだ婚約者がいらっしゃいません。学園在学中も一切色恋の話もありませんでした。舞踏会や夜会でも、令嬢方と距離を置いて接していらっしゃいます」
「それが、何かおかしいか?」
フェリクスがわからないと言うように首を捻ると、マークスはやれやれと言うような顔をした。
「ですから、殿下は女性に興味がないと言う噂があるのですよ」
「ーーーつまり男色ーーーー」
エリックが後ろから言葉を添えた。
「お前達いい加減にしろよ」
フェリクスが睨むと、マークスが破顔して言った。
「学園長に挨拶してきました。明らかにほっとしてましたよ」
「学園のトラブルの元がごっそりいなくなるんだ。ほっともするさ」
アランがそう言うと、エリックも頷いた。
「殿下、拘束したもの全員護送馬車に乗せました。マリアはまだ叫んでいますが、鉄格子の嵌った馬車では逃げ出すこともできません」
「では、戻りましょうか。なんとも濃い一日でしたね」
アランがしみじみと言った。
「まだ終わってないぞ。父上に報告してから、王妃の離宮に立ち入らないと」
フェリクスも疲労の滲んだ顔で、まだあるぞと側近に念を押す。マークスとエリックは騎乗の人となり、アランとフェリクスは王家の紋章が象られた扉を開けて馬車に乗った。
王都の道は舗装されている上に、王家の馬車は揺れない。二人は黙って窓の外を見ていたが、やがてアランが口をひらいた。
「殿下、アルベルト殿下をどうされますか」
西日が馬車の窓からさして眩しいからか、目を細めてフェリクスは言った。
「そうだな。薬物中毒の治療があるから、極秘に治療を受けさせてから、また叔母上に頼るしかないな。『またなの」とか言われそうだ。仮死から目覚めたら、第二王子は死んだ事、これからどう生きたいか、聞いてみないとな」
「アルベルト殿下は自分が王弟殿下のお子である事をご存知なのでしょうか」
「さあな。第一側妃が妨害して、アルベルトとは一切交流がなかった。こんなことになる前に話しておけばよかったな」
フェリクスがため息をつくとアランは慰めるように言った。
「無理ですよ。強力な『呪』に取り込まれている時に、どんな事を言っても聞く耳持たないでしょう」
「そうだな」
フェリクスは寂しげにつぶやいた。
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