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独白 名前のない女
私は前世を覚えている。
前世では、地球という星の日本という島国で庶民として暮らしていた。
平凡な女の子で、唯一誇れるのは本好きで図書館の住人だったことぐらいだった。地味で目立たない女の子ーそれが私。友達も少なくいつも孤独だった。そんなある日、塾で話しかけて来た女の子がいわゆる“重度のオタク”だった。
同人誌を書いていて、オタクの祭典で本を売っている様な子だった。
同じ大学に入ってから、否応もなく巻き込まれて、乙女ゲームの二次創作を書くのに、アイディア出しとかさせられていた。
元になる乙女ゲームは“風薫るボルレマンの恋”というベーシックな内容だった。
ヒロインは孤児院から引き取られる男爵家の庶子。ふわふわ揺れるピンクブロンドにいつも潤んだ目をした女の子。名前を変更してしなければ、マリアと言う名前。いつも一生懸命で守ってあげたい女の子。攻略対象のコンプレックスを言葉と態度で癒し、攻略対象者に愛される。
攻略対象は第二王子のアルベルト、宰相子息のフリッツ、騎士団長子息のヨーゼフ、公爵子息のエトムント。悪役令嬢はそれぞれの婚約者。エトムントだけ婚約者がいなくて、立ちはだかる悪役令嬢は、義姉に当たるアルベルトの婚約者クリスティーヌだった。いじめは定番の教科書を汚したり、レポートを隠したり、亡くなった母の遺品を取り上げられて、呼び出されて罵倒、最後はナイフで脅されて、階段から落ちる。それぞれのルートに入れば、それをするのは、それぞれの悪役令嬢。逆ハーレムに持ち込めれば、悪役令嬢の代表でクリスティーヌがする。お助けキャラは教師のダニエル。ダニエルは勉強が遅れがちでマナーが分からないヒロインを陰で支える役。
そして卒業パーティーで断罪。悪役令嬢は婚約破棄されて、修道院に入れられる途中に盗賊に襲われて死亡。逆ハーレムの場合は悪役令嬢は全員婚約破棄される。
逆ハーレムができれば、卒業パーティーで隠しキャラの王太子フェリクスが王族の招待者として、列席してヒロインに一目惚れして、プロポーズをする。他の攻略対象者はそれを祝福する。
本当に突っ込みどころ満載のご都合主義な内容だと、その子と話し合った。でも結構売れているゲームなのだそうだ。一度もやったことはないけれど、二次創作ならもっとシビアで辛いこと満載にしようと話し合い作った内容が自分に跳ね返るなんて、誰が想像できるだろう。
自分が死んだ瞬間は覚えていない。気がついたら、ダーがこっちにおいでと手招いてくれて、硬くなったパンを食べさせてくれていた。周りを見回すと味方はダーと呼んでいる男の子一人。
どうやら今世の私は繰り返される自分への虐待に、心身をすり減らし、消えてしまった様なのだ。それで、前世の私が出てきたと言う事らしい。
ここが友人の二次創作の世界だと気がついたのは、ダーの尽力で新しい侍女が、本邸に駆け込んでくれた時だった。虐待していた奴らは全ていなくなったが、ダーともお別れだった。あらすじ通りに父親はネグレクトで近寄ってもこない。これは間違いなく、あの世界なんだろうと思った。前世の私と友人は、ラストまで書き終わってないのだ。私が死んだ後に友人が書き進めていない事を祈りつつ、なんとか自分で死亡フラグを折るしかない。
あらすじ通りにアルベルトには、婚約初日から嫌われた。初日だけでなく、お茶会には一度も来ないのは分かっていたーーというか、そうアイディアを出したのは自分なのだがーー
ある日、帰るわけにもいかないので、四阿でポツンと待っていると、フェリクスが話しかけて来た。こんな事はあらすじにはない。ひょっとして、死亡フラグを折るきっかけになるかと思って、精一杯健気な美少女を装ってみた。そう、前世は平凡の極みだったのに、今世の私は美しいのだ。ーーーまあそう設定したのも自分だがーーー
それから、びっくりするほど、フェリクスが愛情を向けてくれた。前世では喪女だったので、返すのが精一杯。こっそり連絡を取り合える様にしてくれて、学園の卒業パーティーで断罪される前に、ヒロインに殺されてしまう事には驚いたがーーー前世私達が考えたことより、大掛かりで意外な事だった。ーーー
そして、今日、私は今世の名前を捨てて、隣国に旅立つ。実は前世を思い出しても名前は思い出せないのだ。だから常に名前がない。
フェリクスは必ず迎えに行くので、待っていてくれと涙目で言う。ひょっとして、私が死んだ後、友人はこういうあらすじを書いたのだろうか?
隣国に行ったら、新しく生まれ変われるらしい。今度こそ、皆に認識される名前が貰えることを期待して、隣国の国王夫妻に拝謁した時、国王の方に見覚えがあった。ーーーこの人、スチルでみたより年がいってるが、見覚えがある。別の乙女ゲームのメイン攻略対象だ。私達はそっちの二次創作も考えていたのだーーー
でも、王妃はヒロインじゃない。と言う事はこちらも、友人は書いたのだろうか?私がいなくても、書き進めたのだろうか。友人の嬉しそうな笑顔が脳裏をよぎる。切実に彼女に会いたくなったが、今の私はここで生きていくしかない。今度こそ名前を貰って、フェリクスと。
ーーーーーーーー
終わりました!
悪役令嬢は名前が出てこないことが、こだわりだったのですが、早い時点で見抜かれてびっくりです。皆様鋭い。
ご都合主義の話ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
沢山の感想もありがとうございました。
返信できなくて申し訳ありませんでした。
最後に出てきた隣国の乙女ゲームの話、頑張って書いていますが、途中になってる方も完結したいので、まずそちらから終わらせたいと思っています。
また連載を始めたら、読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました!
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みんなの感想(471件)
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